自転車やバイクなど手軽な移動手段のシェアリングサービスを賃貸住宅に導入する事例が増えている。省スペースで導入でき、物件の価値向上につながる点がメリットのようだ。また、副収入として収益を上げられる効果もある。
物件の差別化や追加収入期待
国土交通省の調査によれば、2021年3月のシェアサイクルポート数は新型コロナウイルス禍前の19年と比較すると約2.2倍になっている。そのうち私有地への設置は2割強を占め、その割合は増加傾向にあるという。
20年5月に電動アシスト自転車、21年4月に電動キックボードのシェアリング事業を開始したLuup(ループ:東京都渋谷区)は、2年間でポート数を50カ所から約2000カ所に急拡大した。対応エリアも広げ、現在は東京23区、大阪市、京都市、神奈川県横浜市、宮城県仙台市の5都市で展開する。約1400カ所が東京都内で、そのうち賃貸住宅の敷地内は数百カ所に上る。
オーナーの収益向上
「物件の付加価値向上と収益アップが目的」と話すのは、愛知県の地場大手管理会社、ニッショー(愛知県名古屋市)広報企画部広告宣伝課の服部光一朗氏だ。同社では、4月から名古屋市の管理物件約20棟にシェアサイクルを導入する。
敷地内へのサイクルポートの設置契約を結び、毎月決まった金額がオーナーの収入になる。機器の設置や管理はサービス提供会社が行うため運営の手間はかからない。初期投資が不要でオーナーの副収入になるため、提案を行う際のオーナーの反応はまずまずだ。
管理会社としては、物件の付加価値向上策として提案でき、賃貸仲介時の差別化にもなる。今後は退去時の放置自転車の削減効果にも期待を寄せる。
短期入居者に訴求
シェアモビリティーの導入で入居者の利便性向上を狙うのは三好不動産(福岡市)だ。
同社は、経営破綻したスマートデイズが運営していた女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」を、「TOKYO〈β〉(トウキョウベータ)」として再生する事業に参画。現在、約200棟を三好不動産が管理する。
1月から、TOKYOβの敷地内231カ所に、折り畳み式電動バイク「Shaero(シェアロ)」のポートを設置。23年末までに700棟への導入を目指す。
TOKYO〈β〉の家賃は約2万~6万円と低額で、短期間の住み替え需要を想定。シェアモビリティーが利用できると、入居者が自分で交通手段を準備する必要がない。物件の付加サービスとして訴求する考えだ。
ポート設置場所に注意
自社所有の賃貸住宅2棟に電動キックボードと電動アシスト自転車「Luup」のポートを導入したサナイコーポレーション(東京都世田谷区)の眞井斎壽専務取締役は「近隣住民や入居者の迷惑とならずにポートを設置することが重要」と話す。
例えば、電動キックボードのロック解除時のアラート音は、静かな地域では響いてしまう。そのため2棟のうち1棟は自転車専用とした。
ほかにも、関係者以外の人が敷地内に立ち入るため、ポートを敷地の外周部やバルコニーから離れた位置に設置できるかも吟味したという。
オーナーにとっては大きなリスクなく追加できるシェアモビリティー。今後ますます発展していきそうだ。
(柴田)
(2022年10月3日20面に掲載)