敷引き特約は無効として元入居者が貸主に返還を求めていた訴訟で、9月3日、横浜地裁は借主側の訴えを退け、貸主側のアートアベニュー(東京都新宿区)が勝訴した。7月6日の大阪高裁に続く「敷引有効」判決となった。
アートアベニューの藤澤雅義社長は「敷引をめぐる訴訟はこれまでもあったが、和解を勧められることが多かった。正式に勝訴するのは初めて」と貴重な判決を勝ち取った喜びを語った。借主側が控訴したとの連絡はないという。貸主側の弁護は同社の顧問を務める立川・及川法律事務所(神奈川県横浜市)が担当した。
大阪高裁で更新料を無効とする判決が下され、消費者保護の流れが加速するかと思われていた中での判決なだけに、業界にとっても明るい話題となりそうだ。
元借主は2008年4月から1年間、同社がサブリースする月額賃料9万9000円の物件に入居していた。敷金は賃料の2カ月分の19万8000円。退去時に賃料の1カ月相当額を償却した。同物件の賃貸借契約書には、「入居期間の長短にかかわらず、また、解約理由の如何にかかわらず」敷金の1カ月分を償却すると定めていた。
貸主側は、敷引特約は空室補償の性質を有すると主張。自然損耗についての原状回復費を負担させるものではないとした。同物件は定期借家契約だが、やむを得ない事情がなくとも、賃借人が1カ月の予告をすることで契約解除できると定めていた。その代わりに、短期かつ突発的な退去から生じる入居者募集の広告費、居室の整備費などのリスクを敷引という形で公平に分配すると説明した。
この主張に対し、峯俊之裁判長は「賃貸人としては、賃貸による収益を上げるために要するそのような経費は賃借人から回収するほかないわけであり、賃料が目的物の使用収益の対価であるという法的性質を有するからといって、そうした経費を賃料から回収することが許されないというものではない」とした。
また、敷引があることで月額賃料が低額に抑えられているという点についても、「どの程度の期間賃借することになるのかについてのある程度の見通しはあるのが普通であり、敷引特約が付された賃貸借契約を締結することによって賃料等の負担がどの程度となるのかについて検討することは可能」と認めた。
今回の判決は、昨今の行き過ぎた消費者保護にもの申すものだ、と藤澤社長。 「消費者契約法を盾にとって商習慣を否定しようとする動きがありますが、貸主としての主張もしていくべきだと思います」