敷引き特約は無効として、元入居者が貸主であるアートアベニュー(東京都新宿区)に控除額の返還を求めていた訴訟で、東京地裁は2月22日、借主側の訴えを退ける判決を下した。
アートアベニューは昨年9月にも同様の訴訟において横浜地裁で勝訴判決を獲得しており、同社の主張が地裁で立て続けに認められたことになる。
元借主は、賃料の2カ月分である26万2000円の敷金を支払い入居。退去時に、特約により賃料の1カ月分相当額および原状回復費用3万4815円を差し引かれた額の返還を受けていた。
2008年3月31日から09年3月29日までの364日間、定期借家契約を結び月額賃料13万3000円の物件に入居していた。
原告である借主側は、負担すべき原状回復費用は6865円を超えるものではないと、16万1265円の返還を求めた。
借主側の主張は、本件敷引特約は消費者契約法10条に反し、無効であるというもの。敷金は原状回復費用や滞納賃料等の債務の担保の意味で預けるもので、一律賃料1カ月分を無条件で償却するとする本件敷引特約は、消費者の利益を一方的に害する不当な条項であるという。
契約条件の検討に関する情報でも、東京地裁の齊木敏文裁判官は「敷引特約は合理的な根拠を持たない」としながらも、契約時に「不動産仲介業者やインターネット等を通じて容易に他物件を検索でき、賃借人が比較検討できる状況にあった」ものと認められる。
藤澤雅義社長は「入居者は契約時に、特約について疑問や訴えがなかったので理解しているはずです」と語る。またインターネットで検索した情報を書証として提出していることから、本件契約を締結すべきか十分に検討可能だった。齊木裁判官は借主の利益を信義則に反する程度にまで侵害したとみることはできないと結論づけた。
藤澤社長は「消費者契約法をいたずらに盾にして訴訟を起こしているとしか思えません」と怒りをあらわにしている。同社は募集図面や重要事項説明、契約時など5度に渡り敷引特約の説明を行ったという。藤澤社長はむやみに小額訴訟を起こす入居者の増加にとまどいを隠せないでいる。
藤澤社長の主張としては、本件敷引特約の敷引額は1カ月13万3000円で、契約期間満了の場合は1カ月あたり1万1000円程度の賃料上乗せとなるが、再契約をすれば1カ月あたりの負担額は低額となる。借主の意思で本件契約を中途解約したために、使用期間に対してやや重い負担となったように見えるだけで公平な契約だという。
入居中の自然減耗・経年劣化については、表題部に定める償却が行われたときは別途請求をせず、故意・過失により汚損・破損が生じた場合は、修繕・修復費用は負担となると規定している。そのため、争点となるのはクロスの傷が自然減耗・経年劣化なのか、原告の故意・過失によるものかが問題となるが、本件では原告の過失によるものと判断された。
被告は本件のクロスの自然減耗・経年劣化分として約77・5%としており、原告もこの点については被告の負担割合を理解した上で異議がないと述べている。したがって原告が負担すべき原状回復費用は3万415円であると認められる。