企業研究vol.017 丸山 保博 代表

インタビュー|2019年06月14日

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インタビューに応える丸山保博代表

中庭の存在が良い人間関係を生む

「居住者のプライバシーが損なわれる」「利回りは保たれるのか」。長らくそんな偏見にさらされてきた丸山保博建築研究所(東京都杉並区)の中庭付きアパートが、いま静かなブームを迎えている。西欧風の外観、緑豊かな中庭、茶室を連想させる物静かな居室。「コスト高」のイメージに反して、実はこれが、ローコストを追究した利回り商品である実態はあまり知られていない。累計供給棟数は20年前から数えておよそ40棟。築年数が古くなっても「ほぼ満室」「家賃が相場以上」と実績がつき、次第にその価値が見直されてきている。中庭付きアパートが世の中に問いかけるものとは何か。丸山保博代表に話を聞いた。

築古でも満室
累計約 棟供給

2018年完成した東京・四ッ谷の中庭アパルトメントRC造3階建て。各戸の玄関がすべて中庭に面している。

――中庭付きアパートが生まれたのが1999年。年1棟ペースだった供給棟数が、2015年頃から年7〜9棟と増えています。少数経営であることを鑑みれば、この数字は「ヒットした」と言えると思います。

丸山 アパートに中庭を設ける発想は、昔はなかなか受け入れられませんでした。ところが14年の賃貸住宅フェアのセミナーで、中庭付きアパートの仕組みを紹介したら、多くの聴講者から「ユニークだ」と評価をいただきました。そのときに「もっと周知すれば社会で受け入れてくれるかもしれない」と思い、設計事務所として初めてセミナーの自主開催に踏み切ったのです。おかげさまで少しずつ棟数を増やしています。

――どんな点が評価されましたか。

丸山 入居者ニーズの高いデザイン性と、建築費を安くした合理性を兼ねそろえている点です。木造の場合、坪単価は65万〜75万円。上物だけの利回りは10%、立地がよければ20%に達することもあります。1棟あたり6〜8戸。1999年から累計約40棟を供給していまして、どれも満室が続いています。過去入居を決めた女性からも「こういうアパートをずっと探していた」と良い評価をいただいています。

19年5月に竣工した東京練馬区大泉学園町の中庭アパルトメント木造2階建

――利回りの高低は、賃貸経営の永遠のテーマですよね。

丸山 いくら美しいデザインでも、賃貸経営としての合理性なしに利回り商品は成立しません。よく中庭アパートの写真をオーナーさんに見せると「建築費が高いでしょ」と敬遠されますが、実際は割安。だから見学会を開き、中庭アパートを見てもらいながら、安さの秘密を直接説明するようにしています。

――安さの秘密とは。

丸山 前提条件から説明します。まず、建築費は、大きく材料費と人件費の二つで構成されています。ということは、安い材料で工期を短縮すれば、それだけ建築費は安くなりますよね。でも当社ではそのやり方はとっていません。なぜなら私たち設計の仕事は、モノ売りではなく、住み手に「いいな」と思ってもらえる住環境を売ることだからです。そこでできるコストカットの手段は次の二つ。一つは、何をするにも相見積もりをとることです。施工会社を入札形式で選び、設備・資材の調達も分離発注形式をとります。これだけで建築費を約1割節約できます。もう一つは、内外の廊下を極力なくしたこと。各室の玄関を中庭に面するように配置すれば、廊下がいらなくなります。廊下のある場合に比べて、建築費は1割低くなります。合わせて2割程度、節約できるのです。

――そこまでして「中庭」にこだわるのは何故でしょうか。

丸山 アパートは集合住宅の一種です。集合住宅は各室が別個に立っているのではなく、人々が一つの場所に集まって住む建物です。その良さを感じさせるアパートが、良いアパートというのが私の考え方で、そのカギを握るのが、中庭。人と人が触れ合うところに、自然が介在するだけで、気持ちを落ち着けることができるのです。

――人間関係がどう変わってくるのでしょうか。

丸山 例えば花が一輪あれば、「この花はきれいですね。何ていう花ですか」という会話が生まれます。2畳間の小さい部屋に、仲の悪い者同士が居合わせたらけんかになりやすいですよね。ところがそこに花を介在させれば、そこで生まれる会話は、互いの直接的な内容でなく、自然を介在させた内容になるでしょう。人間の奥底に秘められた本能のような価値観が共有されます。

――アイデアの着想は何ですか。

丸山 千利休の影響を受けています。日本の「茶室」の文化では、昔はおもてなしの要素としてお酒や食べ物が使われるのが主流でした。でもその後に台頭した千利休が、人と人とのつながりの中に「一輪の花」を添えることこそがおもてなしの核であると提唱しました。茶室の中央に囲炉裏(いろり)を据え、その脇に一輪の花を添えます。それが日本の茶道のスタートになり、定着しました。人と人の間に自然を持ちこむ発想が、画期的でした。

――千利休の価値観をアパートづくりに応用する発想も、画期的と思います。

丸山 今の事務所を立ち上げた30年前、一級建築士として生き残りをかけた私なりの差別化戦略でした。なにしろ自分の売り物は、自分の設計力でしかありません。だから自分が設計を手掛けたものが喜ばれて、次の仕事をもらえるサイクルをつくらないと生きていけないと直感しました。そこで、流行に左右されずに、ニーズが永続するアパートの本質を、自分なりに突き詰めた結果、中庭付きアパートが生まれたのです。

――人間の奥底のニーズに気付く力が、これからの家余り時代に求められているのかもしれません。本日はありがとうございました。

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