narrative(ナラティブ:奈良市)は、古民家や歴史的建造物など、古い建物を宿泊施設や賃貸住宅に再生する。これまでの再生実績は累計で12件。特徴は、対象とする建物や周辺地域の歴史に基づいた物件企画を行う点だ。再生後の不動産にストーリーを持たせ、ブランディングを図ることで集客性を高める。再生後は地域住民をスタッフとして雇用。地元の主役を立てることで、継続的な事業を目指す。
古民家再生、累計12件
しょうゆ蔵を再興 来歴生かした企画
narrativeは古民家など築古不動産の再生を主力事業に、2018年の設立以降、案件を増やしてきた。再生を行う建物や、その周辺地域の歴史から着想を得て企画を立てている。
プロジェクトは、物件の企画から設計、資金調達、開発、実際の運営まで、基本的に一気通貫で手がける。奈良県内での取り組みが多いが、対象は全国としている。
これまでの例では、20年に「奈良県内最古」といわれるしょうゆ蔵「マルト醤油蔵元」を、宿泊施設付きのレストランであるオーベルジュへコンバージョンした。しょうゆの醸造所も復活。築約130年で、1950年ごろに一度閉業したしょうゆ蔵を再生させた事例だ。
NIPPONIA田原本マルト醤油 外観
物件名は「NIPPONIA(ニッポニア)田原本マルト醤油」。同施設のメインとなるレストランでは、マルト醤油が製造していたしょうゆを復活させ、提供する料理に使用している。またレストラン内でのしょうゆの販売も行う。
narrativeの大久保泰佑社長は「地元の調味料や食材を使うことが、地元産業の活性化にもつながる」と話す。レストランでマルト醤油の製品を使った料理を体験してもらうことで、しょうゆの良さを顧客にじかに知ってもらうことができる。実際に、レストランを利用した顧客のうち約4割が、100ミリリットルで1890円(税込み)と、安価ではないしょうゆを購入するという。
宿泊用の客室も、前進のしょうゆ蔵である点をを生かしている。例えば同施設の南棟は、かつて1階が原材料庫として活用され、2階はしょうゆの醸造職人が寝泊まりしていた蔵だ。それをメゾネットタイプの客室4室へと変更。そのほか、歴代当主の母屋の一角や、マルト醤油に関する文書を保管していた蔵などを客室に変えている。客室の名称も、「碓」(うす)や「蔵人」といったしょうゆを醸造する過程で使われていた道具や、醸造の作業員を指す言葉になぞらえて名付けている。特に宿泊の需要が伸びるのは、年末年始やゴールデンウイーク、お盆などの大型連休期のほか、桜のシーズンである春や、散策シーズンの秋などだ。
マルト醤油のレストランで販売しているしょうゆ
このほか、自転車販売店であった建物を、自転車好きをターゲットとした「宿チャリンコ」という宿泊施設にした事例もある。同施設は徒歩圏内に同社が再生を手がけた飲食店や銭湯が並ぶ。周辺の店舗や施設で使えるクーポン券を配布することで、宿泊客が足を延ばす動線をつくった。
建物や地域の来歴を生かすことで話題性を生み、その場所を訪れる理由をつくる。宿泊したエリアの産業が活性化するような仕組みづくりを行っている。
マルト醤油のレストラン
「三現主義」で現場重視の運営
資金調達力に強み 事業性をアピール
不動産再生において、事業者に欠かせないのが資金調達力だ。特に古民家再生は、物件の築年数が経過し、耐用年数を超えていることや耐震性などの視点から、金融機関から融資を受けにくい傾向にある。
そこで同社は、事業内容の収益性を基に資金調達を行うストラクチャードファイナンス(仕組み金融)で融資を受ける。
大久保社長は「例えばマルト醤油の立つ田原本エリアは、周辺に観光資源がなく東京23区の不動産のような担保価値はない。だが、運営事業者が倒産しない限りは賃料収入から返済をするという契約内容にすることで、融資を受けることができるようになる」と話す。
実際に、同社が設立後最初に手がけたプロジェクト「NIPPONIA HOTEL 奈良 ならまち」では、ストラクチャードファイナンスによって融資を受けた。同施設の運営事業者と賃貸借契約を締結し、10年間の家賃収入が得られることを担保とした。
なお同社が再生を行うエリアは、人口3万〜4万人程度までの市町村が「ほどよい」と感じているという。その地域で事業を行うにあたり、リスクが抑えられるためだ。
「私たちの事業は、途中ではしごを外されるのが一番のリスクだと考えている。例えば10万人超の街だと、話し合いの場に担当課長クラスが出てくる。こういった人たちは、人事異動で担当や役職から外れる場合がある。これが3万〜4万人超になると局長クラス、2万〜3万人超になると首長クラスが担当者となる。人事異動があっても事業を継続できるようになる」
運営に住民を採用 「地元から主役を」
大久保社長は「あくまで主役はその地域で生きる人たち。われわれは黒子として地方の活性化を図っていく存在でありたい」と話す。
同社は物件の運営に関して「三現主義」の方針をとる。三現主義とは「現場」「現物」「現実」の三つの現を重視する考え方だ。現場で現物を確認し、現実を把握することの重要性を意識している。
同社は再生した施設の運営を、地元住民を直雇用して行っている。雇用機会を創出することが、地域活性の重要な要素と捉えているためだ。
加えて、地元のことをよく知っているスタッフのほうが、顧客との接点をつくりやすいとみる。
施設のシェフや支配人も、社員として雇用する。主要メンバーはnarrativeで採用し、施設に配置する形をとる。だが、現地スタッフは運営子会社のnarrative operation(ナラティブオペレーション:同)で採用を行っている。
「地元の人を採用し、運営にあたってもらうことで、そのエリアの主役をつくることができる。主役がいるというのは、ブランディングの要素としても重要」
ノウハウ、プラン化 管理会社へ提供
同社はメディア露出を通して、物件のブランディング強化を図る。再生を行った建物や地域を象徴するような地元民を立てることで、ブランディングが肉付けされる。
「今後は再生棟数を伸ばしていきたい。当社の古民家の再生ノウハウを生かして、古民家や空き家を民泊として活用できるようにするプランをパッケージ化し、管理会社などに提供することを考えている。30年までに再生件数1000件を目指す」
narrative
奈良市
大久保泰佑社長
(國吉)
(2025年11月24日24面に掲載)




