10年間ほぼ横ばいも、改善への対策進まず
独立行政法人国民生活センター(神奈川県相模原市)への取材で、賃貸住宅の敷金や原状回復に関する消費者からの相談件数が10年以上前から改善していない事実が判明した。契約書のあいまいな表現や説明不足など改善点があるが、積極的に取り組まれている様子はない。
東京都では敷金や原状回復の取り扱いに関する条例を設けているが、依然としてトラブルは多い。
住む人によって物件の使用状況は異なり画一的な「自然損耗」の捉え方が難しいため、個々の事例を網羅できるルールを策定することが難しいのが現状のようだ。
各業界団体ではリーフレットの配布や研修など、敷金の取り扱いや原状回復に関する周知を図っているものの、相談件数は減っていない。
独立行政法人国民生活センターでは各自治体に寄せられた賃貸住宅に関する消費者からの相談件数を集計している。
そのうち、敷金や原状回復に関する内容は2007年以降の年間相談件数は1万3000~1万6000件で推移している。
相談内容の多くは、「高額な原状回復費用を請求された」が多いが、金額やケースはさまざまで、100万円以上請求された人もいる。
ガイドラインや東京都の条例では、退去時の通常損耗などの復旧は、貸主が行うことを基本としているが、入居者が合意した賃貸借契約に特約があれば、その内容が優先される。
さらに、センターに寄せられる相談を分類すると、2015年度は賃貸住宅に関する内容の割合が5番目に多かった。インターネットサイトの架空・高額請求などの相談が上位で、並ぶように生活インフラである賃貸住宅が5位につけている。この順位は5年間ほど変わっていない。
全国宅地建物取引業協会連合会(東京都千代田区)では、「消費者の権利主張が強くなっていることと、個別ケースを網羅するルール作りは極めて難しい」とコメント。
04年8月から適切な原状回復工事と敷金の取り扱いに関する冊子を約60万部配布しているが、業務を見直すような新たな取り組みはない。
日本賃貸住宅管理協会(東京都千代田区)も相談件数に関しては同様の見解だった。
日管協総合研究所では契約書特約であいまいな表現や金額の明記をしていないことがトラブルになりやすく、改善の必要性を感じているものの、協会が取り組むべき課題としての優先度は低いようだ。
日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会の土田あつ子氏は「退去時のことまで考えて賃貸借契約を結ぶ消費者は少なく、重要事項説明が役割を果たしきれていない。特に繁忙期は手間をかけずに契約を完了したいと、需要事項や入居時の立ち会いをおろそかにしてしまっている現状がある」と指摘。
国土交通省では相談内容を分析し、事業者側が提示する契約書の内容や説明に不備がないかなど、検証する必要があると認識をしているが、具体的な取り組みには至っていない。不動産取り引きの透明化が求められている中、敷金や原状回復のトラブルは避けられない課題だ。