賃貸業界の記者が選ぶ2021年の10大ニュース、1位はやはりあのニュース!?業法施行で賃貸業界の歴史に残る年に~1位~6位~

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その他|2021年12月28日

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 2021年の賃貸業界に大きな影響を与えたニュースを編集部がランキング形式で紹介する。新型コロナウイルス禍の長期化で住まいに対する顧客ニーズの多様化や、従業員の働き方という面でも、業界全体にスピード感のある変化が起きた年だ。法律・制度、事件、トレンドなどのカテゴリーから印象深いニュースを振り返る。

1 管理業法全面施行

 編集部満場一致の1位は、管理業法の全面施行だ。「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(以下、管理業法)が6月15日から全面施行となった。ついに「賃貸管理」が業として国から正式に認められた。まさに賃貸業界の歴史に残るトピックスだった。

「日管協フォーラム2021」の写真

管理業法全面施行を受け、変化する賃貸管理業界の未来をテーマに開催した「日管協フォーラム2021」の様子

 大枠として、①サブリース業者と所有者との間の賃貸借契約の適正化に係る措置②賃貸住宅管理業に係る登録制度の創設の二つから成る。

 管理会社も対応に追われる。同制度は管理戸数が200戸を超える賃貸住宅の管理会社に対して、22年6月15日までに同制度への登録を義務付ける。移行期間までに登録をしない場合や、登録に伴って義務付けられた事柄に違反した場合の罰則規定も設けられている。

 登録申請はオンラインを基本としているが、郵送にも対応している。初期登録費用は9万円で、5年ごとの更新が必要だ。

 登録に際して、事業者は賃貸住宅の管理業務に係る拠点ごとに「業務管理者」を設置する必要がある。「業務管理者」は国土交通大臣の認定を受けた機関で実施される認定試験に合格し、認定を受ける必要がある。ただし、制度開始時点では試験の実施機関が未定だ。

 移行措置として、22年6月までは規定の講習を受けた「賃貸不動産経営管理士」もしくは「宅地建物取引士」を「業務管理者」とすることが可能だ。以降の業務管理者の要件については、登録試験および指定講習の実施状況や、管理業法の施行・運用状況を踏まえて、見直しを検討する。

 11月に行われた賃貸経営管理士資格試験の受験者は過去最多の3万人超となり、同法施行の影響がうかがえる。

管理士試験会場の写真

11月に行われた管理士試験の様子

 登録事業者には、業務管理者の設置のほかに、管理を受託する前の重要事項説明、管理する家賃などについて自己の固有財産と分別して管理すること、業務の実施状況などをオーナーへ定期的に報告することなどが義務付けられる。

2 スルガ銀行に新たな賠償請求

 第2位は、21年の1年間にわたり追ってきたスルガ問題だ。シェアハウス以外の賃貸住宅の不正融資を理由にオーナーがスルガ銀行(静岡県沼津市)に対し損害賠償を求めたニュースは、不動産業界でも注目された。

 18年に発生した「かぼちゃの馬車」シェアハウスでの不正融資問題で業務停止処分にまで至ったスルガ銀行。時間をかけ家主との和解が進んできた最中、今度は1棟もののアパートやマンションにおける不正融資疑惑が持ち上がってきた。スルガ銀行不正融資被害弁護団(以下、SI被害弁護団)は、8月に賃貸アパートとマンションの不正融資問題に関する損害賠償請求をスルガ銀行に対して行った。申し立てた家主は336人。賠償請求総額は805億円に上る。

 SI被害弁護団は、さくら共同法律事務所(東京都新宿区)の河合弘之弁護士や東京共同法律事務所(同)の山口広弁護士らを中心とする。スルガ銀行の不正融資によりアパートやマンションを高値づかみさせられたとして、「スルガ銀行不正融資被害者同盟」の依頼を受けて結成された。

記者会見の写真

記者会見を開くSI被害弁護団

 賠償請求を申し立てた家主は、東京都在住の123人のほか、36都府県に住む336人。損害賠償請求金額は、家主1人あたり約2億4000万円となる計算だ。

 不正融資で購入されたと弁護団が主張する物件は主に中古の一棟マンションやアパートで、これらのマンション、アパートが本件の請求対象となる物件だ。大阪府の103棟を筆頭に43都道府県で594棟。18年と19年に融資が行われたケースもあり、シェアハウスに関する不正融資問題が明るみに出た後にも不正融資が行われていた可能性が浮上した。

 同行が11月26日に開いた決算説明会では、アパート・投資用マンション融資の6037億円分に未回収リスクがあることが明らかになり、解決への道のりは遠そうだ。

3 事故物件の告知義務ガイドライン発表

 第3位は事故物件の告知義務ガイドラインだ。これまで事件・事故が発生した物件について、入居希望者への告知が、現場の判断に委ねられていたが、そこに明確な線引きがなされた。今回、老衰や病死が告知義務の対象外となったことで、関係者からは高齢者の入居促進につながるのではと期待の声が上がる。

 国土交通省は10月に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定した。病死や不慮の事故死の場合には、心理的瑕疵(かし)物件に該当せず、告知義務はないとした。

 国交省が策定した同ガイドラインは、取引の対象となる不動産で、過去に人が死亡した場合の告知義務の基準について取りまとめたものだ。

 告知義務なしとしたのは、①老衰や持病による病死といった自然死。ただし、死後の発見までに時間がかかり特殊清掃や大規模リフォームなどが行われた場合には、おおむね3年間告知義務が発生する。

リノベーションした事故物件の内観写真

リノベーションを施した事故物件の部屋(提供:MARKS)

 ②自宅の階段からの転落や入浴中の溺死、転倒事故、食事中の誤嚥(ごえん)など日常生活の中で生じた不慮の事故。

 ③隣接住戸や通常使用しない集合住宅の共用部においては、自殺や殺人があっても告知の対象外とした。

 今回のガイドライン策定の目的は、事故物件の告知義務の有無と、告知義務はどこまで及ぶのかの基準を示すことにある。

 判例が少ないために今回ガイドラインの内容に含まれなかった、死亡が発生した建物の取り壊し後の告知や、居住内で事故が起こったものの、搬送先の病院で死亡した場合の取り扱いなどについては、時期に応じてガイドラインを改定していく可能性がある。

4 22年に完全オンライン契約実現

 第4位は、22年5月までに実現する不動産仲介の完全オンライン契約だ。契約書などの紙の書面交付が義務でなくなることで、賃貸借契約がデジタルに移行する土台が整う。

 5月に国会で「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案」(以下、デジタル改革関連法)が成立、その中には宅地建物取引業法の改正も含まれる。これまで書面交付原則があった、重要事項説明・契約の電子交付が可能となり、賃貸ビジネスにおいても契約業務のデジタル化が進む可能性がある。

 デジタル関連法案には、宅建業法第35条、37条における書面規定の改正が含まれており、施行後は不動産の賃貸や売買仲介を行う際に、相手方の同意を得られれば、重説と契約書などの電子書面での交付が法律上は可能になる。また、宅建士の署名・押印も廃止される。

 同法の改正は、5月19日に公布され、公布日から1年以内、つまり22年5月18日までには施行される予定だ。具体的な施行日と、重説などの電子書面での交付方法の要件については、現在行っている社会実験の状況を踏まえて決定する。

 22年の5月中旬には、重説などの電子書面での交付が全面解禁になることは確定事項だ。重説・契約書のオンライン化に加え、それに伴った家賃債務保証会社などとのやりとりについてもペーパーレス化が進むとみられる。

 賃貸仲介の完全オンライン化の実現により、22年以降は不動産業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)化が加速するのではないだろうか。

5 レオパレス、要改修物件へ入居募集指示

 第5位はレオパレス問題だ。施工不備アパートが問題視されているレオパレス21(以下、レオパレス:東京都中野区)が、同社の要改修物件においても入居募集を行うよう要請する通知を6月から一部のオーナーに送付した件。通知を受け取ったオーナーからは戸惑いの声が上がっていた。

 施工不備の可能性がある要改修物件のうち、入居中などの理由で調査自体がされていない、もしくは改修が完了していない物件は約11万戸(12月時点)に及ぶ。

 6月には、同社が建築し、要改修案件とされた1棟14戸のアパートを自主管理するオーナーの元に通知が届いた。その内容は、同社で行った燃焼実験の結果により、一定の耐火性能があるとし、入居募集が可能であると主張する文面だった。

通知文書の写真

6月にレオパレスから送られた通知

 オーナーは「どれほどの不備があるかも明らかになっていない状態で、部屋探しをする顧客にどのように説明すればいいのか」と話す。

 このオーナーのアパートでは空室になった3戸は、レオパレスの調査が入り、改修も完了した。だが、入居中の他の11戸に関しては、未調査のままだった。

 レオパレス側は「施工不備が原因の火事が発生した場合は、法令に則った対応を行う」としているものの、「もし火事で入居者が亡くなったとしても、施工不備の原因の裏を取りレオパレスの責任と断定するのは難しいだろう」と話す弁護士もおり、結局は、オーナー自身の責任の元に判断することになる。

 8月には、レオパレスでアパートを建てた家主らからなるLP(エルピー)オーナー会(愛知県名古屋市)がレオパレスに対し集団訴訟を起こした。レオパレス側の修繕工事が進まない状態であるためと、違法行為における時効が近づいているためだ。

 レオパレスは24年までには明らかな施工不備物件の改修は完了するとしているが、施工不備問題の解決には時間がかかりそうだ。

6 則武地所の施工不備問題

 第6位は、東京都八王子のアパートの階段が崩落し入居者が死亡した事故。アパートを建築した則武地所(神奈川県相模原市)の施工不備問題だ。事故が発生した物件以外にも施工不備が見つかり、改めて収益不動産の取得にあたって利回り重視で物件そのものへの関心が薄い風潮に一石を投じるニュースとなった。

事故物件の外観写真

事故があった物件の12月時点の外観

 国の指示の下、特定行政庁が調査を行った則武地所施工のアパートは事件の物件も含め166棟。木造2階建て以上で外階段がついている物件が対象となる。本紙の独自取材では、八王子市で5棟、神奈川県厚木市で1棟、アパートの施工不備が見つかった。

 追い打ちをかけるかのように、則武地所は5月の事故発生から約1カ月後に自己破産を申請。結果、同社で建築したアパートを保有するオーナーは、施工不備が発覚しても則武地所に対し賠償請求ができない事態に陥っている。

 事故から約半年後の12月に本紙が八王子エリアのその後の影響を取材した。則武地所施工物件の管理受託を20棟以上解約した管理会社や、腐敗が見つかり補修工事に1000万円以上がかかることが見込まれた事例も出てきている。残されたオーナーや管理会社の責任は風化していない。

(2021年12月27日4面・5面に掲載)

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