不動産業界でも、ESGを意識した取り組みが進んできている。一般社団法人不動産証券化協会(以下ARES、エイリス:東京都港区)が、投資法人によるESGの取り組みを表彰するアワードを創設した。
Jリートの知見共有目指す
自薦・他薦で表彰
不動産の証券化についての調査研究や広報活動・政策提言などを行うARESが、「ARES ESG アワード」を創設。合計6投資法人が受賞し、1月29日に表彰式を実施した。
ARES ESGアワードの目的は主に2点だ。1点目が、Jリート(上場不動産投資信託)におけるESGに向けた取り組みの底上げ。2点目は、投資家らに対して、投資法人の取り組みをアピールすることだ。
独自性、普遍性、継続性、実効性の四つの軸で審査を行った。同協会業務ディビジョンの野原聡史ディビジョン長は「今回のアワードは、格付け会社のようなランク付けが目的ではなく、知見の共有などを目指している。ARES創設20周年の記念事業として、一過性ではなく、継続的に業界を底上げできる企画を考えた」と話す。
同アワードでは、各法人による取り組みをE、S、Gに分け、それぞれの分野で1法人を表彰。各法人が自社の取り組みを自薦する「グッドアクション賞」と、他社の良い取り組みを推薦する「ベストレコメンド賞」の2つの賞を設けた。自薦・他薦含めた応募件数は100件だった。
築古再生で受賞
ベストアクション賞の環境部門で受賞したのは、トーセイ・アセット・アドバイザーズ(同)が運営するトーセイ・リート投資法人(同)の「築古賃貸マンションの再生」だ。同法人は既存物件の再生に強みを持つ。受賞した物件は、東京都練馬区にある築32年、総戸数48戸の賃貸マンション「ツイン・アベニュー」。
外壁のタイルの貼り替えやシーリングの打ち替え、外壁塗装工事など大規模修繕工事で建物の長寿命化を図った。同時に、植栽の植え替えや館銘板の更新、宅配ボックスの設置、節水トイレへの交換などで、価値向上も狙った。実際にこれらの工事により、賃料は最大で10%値上げできたという。複数の取り組みにより、同物件はグリーンファイナンスによる資金調達に至っている。
同社のREIT運用本部投資運用部、足立信之部長は「ひとつひとつは一般的で地道な取り組みだが、それを組み合わせることで収益性と環境性能の向上を実現させることができた」と話す。
外部有識者を活用
社会部門では伊藤忠リート・マネジメント(東京都千代田区)が運営する、賃貸住宅に特化したアドバンス・レジデンス投資法人(同)が受賞した。同法人は、施工前提の賃貸マンションのリノベーションデザイン学生コンペを実施。単純なリノベのアイデアだけでなく、想定する入居者ターゲットや目標賃料も、提案資料の必須項目とした。
審査員は「学生の学習機会を提供しているだけでなく、Jリートへの若年層の関心度を高めるきっかけになっている」とコメントしている。
企業統治部門で受賞としたのは、東京リアルティ・インベストメント・マネジメント(東京都中央区)が運用する日本プライムリアルティ投資法人(同)だ。社内の数多くの委員会に外部有識者を招聘(しょうへい)することで、経営の透明化を図っている。特に、同社内のサステナビリティ委員会にも外部有識者を入れたことで、経営層のESGに関する意識改革に大きく寄与したことが評価ポイントとなった。
そのほか、他薦であるベストレコメンド賞では、オリックス不動産投資法人(東京都港区)、星野リゾート・リート投資法人(東京都中央区)、大和ハウスリート投資法人(東京都千代田区)の3法人が受賞している。
ARESは今後もESGアワードを開催していく方針だ。
(柴田)
(2024年2月26日20面に掲載)