賃貸しているアパートの住人の中に、生活保護受給者(以下、Aさん)がいます。Aさんは住宅扶助として家賃を支払えるだけの金額を毎月受け取っているにもかかわらず、アパートの家賃を数カ月間滞納しています。
本来賃貸人である私に支払われるべき住宅扶助をAさんがほかのことに費消していることに納得がいきません。
Aさんからの家賃の支払いを確保できるような制度や仕組みはありますでしょうか。
住宅扶助費の代理納付を活用
20年厚労省通達で利用促進
生活保護受給者(以下、被保護者)が住宅扶助を受けているにもかかわらず、家賃を滞納し、扶助費をほかのことに費消することは、生活保護法の趣旨(同法第1条、第60条など参照)に反する行為であり、賃貸人の頭を悩ませる問題といえます。そして、このような被保護者から家賃を回収することは困難でしょう。
そこで、被保護者の家賃滞納を防止するための制度として規定されている、住宅扶助費の代理納付制度(同法第37条の2。以下、同制度)を利用することが考えられます。
これは、住宅扶助費を、自治体が被保護者に代わり、直接賃貸人に交付することを可能とする制度であり、これを利用することにより、賃貸人としては、被保護者からの家賃の支払いを確保することができます。
なお、同制度の実施にあたっては、被保護者本人の同意や委任状等は不要であるとされています。
同制度は、法令上、実施することが「できる」と定められているにすぎず、その実施については、自治体の裁量に委ねられているとされ、2019年7月のデータでは、民間の賃貸住宅では約2割の被保護世帯でしか実施されていませんでした。
これは、自治体の事務処理上の負担の増大や、いわゆる「貧困ビジネス」に同制度が悪用されるおそれがあること、行き過ぎた管理が被保護者の自立の妨げになるのではないかという懸念などから、同制度が浸透しきらなかったことがその理由であると思われます。
もっとも、20年4月1日から、同制度に関する厚生労働省の通達の内容が一部改正され、住宅扶助費を受給しているにもかかわらず家賃以外に費消し、家賃を滞納している被保護者については、「原則、代理納付を適用されたい」との国の方針が示されました。これによって、同制度を実施する自治体が以前より増え、賃貸人が同制度を利用しやすくなったといえます。
ただし、上述のとおり、最終的な実施の判断は自治体の裁量に任せられており、いまだ同制度を実施していない自治体も少なからずあることでしょう。
被保護者の家賃滞納にお困りの場合、本稿の内容を踏まえ、同制度の適用についてお近くの自治体に問い合わせることをご検討ください。
弁護士法人ALG&Associates
家永 勲 執行役員・弁護士
プロフィール
学歴:立命館大学法科大学院 所属:東京弁護士会
得意分野: 企業法務、不動産関連法務、会社法関連案件、労働関連法務、M&A案件、各種契約書作成など
(2022年11月14日15面に掲載)