管理戸数2万戸を超える地場大手不動産会社、桂不動産(茨城県つくば市)の渡邉宗明社長は、社長に就任してから8年目になる。十分な時間をかけて業務の引き継ぎを行い、混乱なく事業承継を行った。一般の社員と同じ扱いでキャリアを積んだことが、交代後も離職者がほぼ出ることなく事業を成長させることに寄与している。
社長交代後は離職ほぼなし
渡邉社長が父である先代から会社を引き継いだのは、創業45周年の節目の年である2015年。渡邉社長に代替わりして以降、管理戸数を伸ばし、22年度時点で15年と比較して約4000戸の純増を達成した。売り上げも毎年10%ずつ伸ばし続けている。
新卒で大手不動産会社に入社し、不動産売買に3年間従事した。当時は、自分の力を試すことができる環境に身を置きたいという思いから、桂不動産に入社する気はなかったという。
渡邉社長が事業承継を視野に入れ始めたのは24歳のころだ。新卒で入った会社の先輩がきっかけだった。「その先輩は、先代が急逝したことで突然家業を継がざるを得なくなったものの、先代がどんな仕事をしていたのかまったくわからなかったようで途方に暮れていた。何かあってから継ぐのでは遅いのだと気付いた」(渡邉社長)
経営者としての仕事ぶりを、先代が存命のうちに見て、学びたいと思い、桂不動産への転社を決意した。創業一家ではあるものの、一般社員としてキャリアをスタートさせた。渡邉社長は「転社の際には先代から『ほかの新入社員と同じく履歴書を用意しろ』と言われた。しかも当時自宅と会社は隣同士だったにもかかわらず、履歴書を手渡しではなくポストに投函(とうかん)する工程も踏んだ」と振り返る。家族だからといって特別扱いされることなく、あくまで1人の従業員としてけじめをつけた対応だった。
転社後は不動産売買を担当。その後、賃貸仲介店舗の立ち上げを任されるようになり、5店の支店の立ち上げに関わった。その時に賃貸仲介、管理や土地活用など不動産の業務を網羅的に習得していった。新店舗を軌道に乗せた功績が認められ、32歳で専務に昇格。実力をつけ、周囲にも実績が認められたことで、専務に昇格した頃から社長就任を視野に入れ始めたという。その後10年間、専務を務めた。
創業45周年記念パーティーを控えたある日、先代に呼び出された渡邉社長は、突然「社長、やるか」と言われ、面食らいつつも承諾したという。
社長就任後は、長く、先代の仕事を間近で見てきたこともあり、業務に支障をきたすことはほぼなかった。自社株については社長就任以前から購入を続け、15年には40%を保有するようになった。
社長就任直後から、自身の考え方を常日頃から社員に浸透させることを目的として、不定期で「社長通信」という社内報を社内のコミュニケーションツールを通して全社員に配布している。23年2月時点で650号を発行した。
内容は「桂不動産の社員としての考え方」や「人徳向上」をテーマに、渡邉社長が日々の業務の中で思ったことを記している。
社長に就任後、代替わりに伴う人離れもほぼ起こらなかったという。ストック収入の拡大を会社の方針として、管理戸数や自社所有物件の増加に力を入れ、就任前である12年度と比較し、22年度売り上げは276%に増加した。
「22年7月には先代が急逝した。これまでは何か迷いがあれば先代に相談できる環境があったが、今後はもう甘えられない。10年以内をめどに残りのグループ会社3社での社長の擁立を目指し、私という1人の社長に依存しない経営体制を整えていきたい」(渡邉社長)
桂不動産
茨城県つくば市
渡邉宗明社長(48)
(2023年4月10日4面に掲載)