私は、アパートを所有しており、各部屋を貸し出す賃貸人でもあります。アパートが築年数の経過に伴って老朽化してきたので、建て替えを検討しています。現在、アパートには賃借人が複数居住しているので、建て替えにあたって、その人々に退去してもらうことになるのですが、その際の立ち退き交渉について留意すべきことを教えてください。
立ち退きには利用状況、現況を考慮
アパートに賃借人が居住している状況では、建て替えのための工事を進めることはできません。そのため、現在居住している賃借人には退去してもらう必要があり、何らかの理由で賃貸借契約を終了させなければなりません。
このとき、仮に賃借人に数カ月間の賃料不払いが発生していたような場合には、賃貸人側から賃貸借契約を解除して終了させることができます。しかし、そのような事情がない場合には、賃貸人が賃借人に対し、退去希望日の6カ月前までに解約申し入れをし、または、賃貸借契約期間満了の6カ月以上前に更新を拒絶する旨の通知をしたうえで、さらに「正当の事由」(借地借家法28条)が必要となります。
「正当の事由」の有無は、基本的には賃貸人と賃借人における建物使用の必要性を比較衡量(こうりょう)して決められます。そして、その比較衡量のみでは判断が困難な場合に、補充的に、建物賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況、建物の現況、立ち退き料についても考慮されることになります。なお、立ち退き料については、0円での明け渡しが認められる場合もありますし、反対に、高額の立ち退き料を提示したにもかかわらず明け渡しが認められない場合もあることには注意が必要です。
このように、法的に「正当の事由」が認められるかの判断は困難を伴います。しかし、実際の案件では賃貸人と賃借人の間で退去についての交渉を行い、何らかの条件を付して賃貸借契約を合意解除することで、賃借人に退去してもらうことが多いです。
立ち退き交渉において争点になりやすいこととしては、やはり立ち退き料の額でしょう。立ち退き料の相場ですが、私が過去に経験した案件では、賃料の6~8カ月分を立ち退き料として支払うことが多いという印象です。ただ、これはあくまでも目安であり個別の案件によって異なります。例えば、賃貸人の退去希望日が賃借人の予定していた退去時期と偶然一致していれば、立ち退き料を支払わずとも退去してくれることもあります。
なお、立ち退き交渉では、賃借人の感情として、住み慣れた自宅から追い出されると感じてしまうことが多く、感情的になってしまい、話し合い自体が難しくなる賃借人が数多くいます。そのため、賃貸人自身が賃借人と交渉していくことはかなりの困難を伴いますので、立ち退き交渉については弁護士に依頼することをお勧めします。
森田 雅也 弁護士
上智大学法科大学院卒業
2008年弁護士登録
2010年Authense法律事務所入所
年間3000件超の相続・不動産問題を取り扱う
(2021年12月27日15面に掲載)