賃貸管理会社における、原状回復の業務実態と課題点
管理・仲介業|2023年07月28日
賃貸管理会社の原状回復業務に関して、体制や業務管理の方法を、全国の賃貸管理会社に取材しました。各社の成り立ち、規模、商圏、主力事業が異なるため、体制には大きな違いがあるようです。入居者と家主が工事費用を案分するため、双方に徹底した説明を要することが原状回復業務の要(かなめ)となります。退去受付から原状回復工事が完了するまでの一連の業務を、課題とともに検証します。
§1 原状回復工事の件数
管理戸数の17~20%がボリュームゾーン
管理戸数に対して原状回復工事件数の割合を見ると、17〜20%程度の会社が多いようです。一般的に、管理戸数の10〜20%前後が退去者といわれていますが、今回の調査でも、それに近い数字が上がってきました。
§2 退去立会と原状回復工事、内製か外注か
退去立会いのみ外注するケースも
賃貸住宅の場合、原状回復工事を行う前に、入居者とともに行う退去立会いが重要です。工事費用の負担に関して、入居者の責任範囲を確定する場面だからです。この立会業務を社内スタッフで行う管理会社と、外注事業者に依頼する管理会社に分かれました。外注する場合、退去立会いを依頼する業者に原状回復工事も依頼しているところが大半でした。
社内スタッフが対応する場合、家主への説明や、入居者と家主の双方との交渉にあたるなど経験値や専門スキルが求められます。そのため、スタッフの育成が大きな課題となるようです。内製化する管理会社の場合、現状はベテラン社員が対応しているケースが大半でした。
※原状回復工事をテーマに取材するにあたり、建設部門や工事部門を持つ会社を中心に取材したため、内製化している管理会社の比率が高くなっています。賃貸仲介管理業務をメインとする会社では、工事部門や建設部門を持たないところも多いため、実際には、調査結果よりも外注している会社が多いと思われます。
§3 退去立会の実態
事例1/入居時に入居者自身が室内を確認
実際に各社は退去立会をどのように行っているのでしょうか。
首都圏を中心に250戸を管理するマリオン(東京都新宿区)では、トラブルを防ぐため、入居時の鍵の引き渡しの際に、室内状況の確認を入居者自身に行わせています。その内容をもとに作成した報告書を同社で保管し、退去時に書類と照らし合わせながら原状回復の費用を確認します。これにより、居室内で損傷が見つかった場合、経年劣化によるものか入居者の瑕疵によるものかの判断が明確になり、交渉をスムーズに完結することができています。
事例2、3/退去立会なし、業務効率化を推進
退去立会を行わない管理会社も増えています。1200戸を管理する大興不動産延岡(宮崎県延岡市)も、その一つです。理由は、人手不足による業務効率化を図るためです。2000年の時点で退去立会を廃止しました。一方で、廃止に伴うクレームを防止するための策も講じています。
その一つが、「設備点検確認書」の作成です。キッチン、玄関、浴室などの状態を3段階に分けて評価します。入居前に撮影した写真と照らし合わせて、設備交換が必要か否かを判断します。
一方で、設備の多様化が進み、旧来の確認書でカバーしきれないケースも増えています。そのため、居室ごとにチェックするべき設備項目の作成に時間を取られるようになり、次の課題となっているようです。
1300戸を管理する高山不動産(石川県金沢市)も、業務効率化の推進から、退去立会を廃止した一社です。立会をしない代わりに、退去当日、高山修一社長が一人で物件を訪問して点検します。工事が必要な箇所を見て、見積もりを作成します。
原状回復費用については、基本的には敷金内で収めつつ、タバコを吸った部屋など、敷金で収まりきらないことが予想される場合は、高山社長がその旨を入居者に報告し、合意を得ています。
▶▷大興不動産延岡、退去時立会なしで効率化
▶▷高山不動産、立会不要で業務効率化
管理会社20社以上の原状回復業務取材記事を 管理会社ノート 原状回復編 |