コロナ禍の影響は?エリアルポ~愛媛編~

日本エイジェント, トミナガ不動産商事, 丸和, 公益社団法人愛媛県宅地建物取引業協会

管理・仲介業|2021年11月19日

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 新型コロナウイルス下における賃貸マーケットの今を伝える「エリアルポ」、今回は愛媛県を紹介する。四国の北西部に位置する同県は四国最大の都市である松山市を擁する中予、工業が盛んな東予、第一次産業が盛んな南予の3エリアに大きく分かれる。3区域それぞれで賃貸業を展開する3社と、オーナー、不動産業界団体にコロナ下での賃貸市場への影響を聞いた。

オンライン授業意向で学生仲介20%減

≪松山市の賃貸住宅事情≫
 中予第一の都市かつ、愛媛県の県庁所在地。推計人口は10月現在50万9593人と県内人口の4割近くを占める。世帯数は24万2178世帯。入居者は地元企業に勤めるサラリーマンが多い。他地区と比べて家賃が安い。物件の供給過多により新築でも空室が出てきている。

日本エイジェント、新築でも空室が人口減の上供給過多

 四国唯一の人口50万都市である松山市を拠点に約1万4000戸を管理する日本エイジェント(愛媛県松山市)ではコロナ禍の影響はそう多くなかったと話す。ただし、学生と法人でニーズの減少がみられたという。

 学生については、地元松山市内にキャンパスを置き、学生数約5700人(2019年)を擁する松山大学がオンライン授業へ移行したことにより実家から出ずに様子見をされている状態が続いており、まだ回復していない。21年の繁忙期では大学の仲介件数はコロナ前より20%少なくなった。

 法人は異動控えからニーズが減っていたが、9月より回復傾向にある。

 家賃相場は1Kで3万5000円。松山市の家賃相場は愛媛県内でも最も安く、今治市や新居浜市に比べ、1割以上低いという。築年数が20~30年程度の物件が多いが、同時に新築も増え続けており、何棟も所有するオーナーに対しては銀行の融資も通りやすい状況だ。ハウスメーカーでもファミリー向けの物件で新築が増えている。家賃も愛媛県全体の平均程度で、2DKで5万5000円、3LDKで6万5000円が相場だ。それでも、最近は人口減少と供給過多から新築でも入居が決まりづらくなり、安くなる傾向にあるという。

 入居者は6割が単身者、4割がファミリーだ。ファミリーの場合は持ち家のニーズが高く、賃貸入居者は20~30代がメーン層。また、松山市内には大学が4つあり、学生が入居者の20%を占める。法人は15%程度だ。入居者は地元の人間が多く、地元企業に勤めているサラリーマンがメーン。入居率は同社で約90%、市全体で約80%だ。

 現在、物流のために松山空港、松山港をつなぐ環状道路の工事を行っており、インフラ整備により賃貸物件の需要増加を同社は期待する。

 「松山市内は高齢化が進んでおり、今後は高齢者向け賃貸の必要性がさらに高まっていくだろう」と資産運用事業部の大野和義チーフマネージャーはコメントした。

 

≪今治市の賃貸住宅事情≫
 東予第一の都市。推計人口は14万9223人と愛媛県でも第二の都市。世帯数は6万7669世帯。造船関連の入居者が全体の3割を占める。3年前より持ち家志向が高まっていたが、コロナ禍の影響でさらに持ち家の購入が進み、空室が増え、家賃の下落を招いている。

トミナガ不動産商事、ファミリー物件に空き 自主管理不安で受託増

 愛媛県第二の都市であり、造船やタオルの街である今治市で約1000戸を管理するトミナガ不動産商事(愛媛県今治市)ではコロナ禍の影響で単身者、ファミリー共に管理物件での退去が増えた。

 給与面の不安から単身者は実家に戻り、ファミリーは在宅時間が増えた影響で持ち家を購入し、退去が増加。そのため、ファミリー向け物件では2000~3000円程度の家賃の下落が起きた。また、法人関係も例年より異動が少なく、ニーズが減少。8割で稼働していた物件が、6割にまで稼働が下がったケースもあり、自主管理に不安を持ったオーナーから管理を委託され、1年で管理戸数が50~60戸増えた。

 今治市は単身者向けは1DK、1LDKが多い。1DKでの家賃の相場が4万円前後だ。一方、ファミリー向け物件は3DK、2LDKがメーンだ。同社の管理物件は築25年程度の物件が多く、エアコンやTVモニターホン、インターネット無料などをつけ、リノベーションを行った上で、家賃を約5000円下げて募集することで新築物件と対抗している。また特にここ1、2年はハウスメーカーのアパート建築が増加した。

 入居者は単身者が6割、ファミリーが4割を占める。4年前に岡山理科大学獣医学部の今治キャンパスができた影響もあり、同社管理物件では単身者の2割は学生だ。今治市は造船とタオル関係の入居者が多い。造船関係の入居者が最も多く、3割を占める。同社の入居率は約89%。今治市全体は約74%だ。

 母家一道副社長は「今治市は、自転車の聖地であるしまなみ海道があり、今治駅前に自転車を部屋まで持っていけるホテルも新しくでき、観光地としても人気が高い。また、今治タオルのブランディングも成功している。地元の認知度があがり、地元産業が盛り上がることで、IターンやUターンが増えることに期待している」とコメントした。

 

≪宇和島市の賃貸住宅事情≫
 南予第一の都市。推計人口は6万9176人。世帯数は3万1102世帯。農業従事者が多いがほとんどが持ち家。賃貸はそれ以外のサラリーマンなどの入居者がほとんど。宇和島道路ができたことにより松山からの出向者のニーズがなくなった。

丸和、生活保護増低家賃人気 マンスリー一時ゼロ件

 農林水産業が盛んな宇和島市で管理・仲介を行う丸和(愛媛県宇和島市) ではコロナ禍の影響で生活保護受給者が増え、3万2000円の物件が満室になった。反対に家賃帯が中程度の3DKで6万5000円程度のマンションや、広めの2DKで5万7000円やワンルームで4万7000円のアパートではコロナ前と比較し、5~10%空室率が高まっている。解約も増えている傾向にあり、コロナ禍前にはほぼ満室だった同社の管理物件は、コロナ禍から企業の異動がなくなったため空室が出てきている。中でも同社が所有するマンスリー物件は一時入居がゼロになった。法人が出張などに利用していたが移動制限により需要がなくなったためだ。10月から全国的に緊急事態宣言が解除されてきたことで、企業の出張などの動きが戻り、最近は多少回復傾向にあるものの、今でも1割以上が空室だ。

 宇和島市の家賃の相場は横ばいが続いており、単身者向けの1Kで約4万円。ファミリー向けの3DKで5万5000~6万5000円が相場だという。唯一、1LDKの新築は相場が上がっており、以前は約6万円だったのが今では7万5000円程度になっている。病院付近に新築を増やしているオーナーがおり、その家賃に合わせて相場が上がっているという。

 入居者は大学がないため、社会人のみだ。最近は単身者が増えており、1Kに空きがでないほどだという。

 宇和島市は農林水産業が盛んな土地だが、これらの職に就いている人々は持ち家が多く賃貸に住むことがなく、地元の企業の勤め人が多い。

 宇和島市では3年前の豪雨災害から、物件の資産価値の低下の問題も出ている。山の付近で建築不可の土地が増え、海岸沿いでも鉄筋造でないと建築不可になり、資産価値が低下。金利の見直しの際に金利が3倍になったケースもあったという。

 15年に全線開通した宇和島道路により松山市まで車で1時間程度となり、オフィス物件のニーズが減少。さらに、コロナ禍からオンラインでのやり取りが可能になり、現在ではオフィスの約6割が空室だ。

15年に全面開通した宇和島道路。

15年に全面開通した宇和島道路。松山市まで1時間程度で行き来することができるようになった

 古谷和重社長は「今後も家賃は横ばいで推移するだろうが、1LDKの家賃は上がっているので投資としては回収しやすく、新築は増えていくとみている。土地の価値が下がっているので売値は安い。担保価値や将来売れる可能性など総合的な面では不動産投資は松山の方がよいのでは」と話した。

丸和 古谷和重社長の写真

丸和
愛媛県宇和島市
古谷和重社長(64)

 

 

ハウスメーカーの案件増加

2LDKで10万円超えも

 愛媛県松山市に2棟12戸を所有する秋山幸枝オーナーは敷金ゼロやフリーレントなど初期費用を抑えられることを前面に押し出していたため、コロナ禍でも影響はなかったという。

 入居者は松山市の道後エリアになると学校が多いため、都会から家族ごと引っ越してくることが多く、物件もファミリー向けが中心だ。ファミリー向けの分譲マンションを貸し出しているオーナーもいるほど需要が高い。1DKになると単身者のサラリーマンなど中間層の入居者が多く、20~30代がメーンだ。

 今治市は岡山理科大学があるために新築アパートが学生向けによく建っている。家賃は1DKで5万円以上するという。

 建築はハウスメーカーの案件が増えており、中予では共同住宅や一棟建てのマンションを建築することが多い。その一方で東予と南予では長屋がはやっているなど地域差がある。加えて近年の傾向では、高級志向の物件が増え、2LDKで10万円台であっても満室になったという。「補助金を出す大手企業勤務の県外から異動してきたサラリーマンが入居しているのでは」と秋山オーナーは推測する。

秋山幸枝オーナーの写真

秋山幸枝オーナー(46)
愛媛県松山市

 

 

 

公益社団法人愛媛県宅地建物取引業協会、松山は社会人・学生共にコロナの影響

東予は企業の影響で住宅不足に

 公益社団法人愛媛県宅地建物取引業協会(愛媛県松山市)はコロナ下で愛媛県内の賃貸市場にも影響が出たと話す。

 特に松山市での影響が大きかったという。在宅勤務になったことから家を購入するファミリーが増え、ファミリー向け賃貸で空きが出ている。学生に関しては、地元の国立大学ではあまり変化がなかったものの、松山市内の私立大学では他県からの入学者が減少した。

 そのほか、新居浜市では財閥系の企業が社宅を含め、建物設備のリニューアル工事を進めており、建設関係業者の出入りが多く、それに伴う賃貸住宅の物件不足が起きると同時にクラスターの発生もあった。

 戸田良常務理事は「松山市は地価と比べると賃料相場がかなり安い。行政の生活弱者に対する保護の体制が整っており、生活保護受給者向けの物件が多く、それが平均を押し下げている状況もある」とコメントした。

(2021年11月15日8面に掲載)

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