賃貸仲介大手のエイブルは、女性社員の活躍推進に本格的に乗り出した。2021年に専門部署の準備室を立ち上げ、吉田晴雄社長の強いコミットメントの下、働き方の柔軟化や意識改革を進めている。営業統括本部人材開発本部の佐藤愛女性活躍推進担当部長に「女性店長30%」を目指す同社の取り組みを聞いた。
イベントで意識改革、 制度も拡充
「キャリア成長のための育成強化」
エイブルは、女性人材の活躍が会社の成長に欠かせないと考え、イベントや環境整備を実施する。
女性活躍推進準備室を発足したのは21年11月。厚生労働省が実施した23年度の調査では、日本企業における女性の管理職比率が平均12.7%だったのに対し、同社の同準備室発足時の女性店長比率は7.6%だった。
女性管理職が広がらない背景には、いくつかの要因があった。一つに、ライフステージの変化に対応できる働き方の選択肢が限られていること。加えて、上層部のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)や、女性社員の昇進に対する心理的ハードルもあった。
不動産業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)やIT化が進む中、新たなイノベーションを創出するには、人材の均質化からの脱却が必要不可欠となる。
同社では営業部門の女性比率が42%にまで上昇する中、より柔軟性の高い働き方を取り入れ、女性のキャリアアップを会社として後押しする方針を決定。社員の多様性を高めることが、企業の持続的成長につながると考えるに至った。
そこで同社が最も重視したのが、経営トップによるコミットメントだ。吉田社長自らが多様な人材活用を重要な経営課題として捉え「女性店長比率30%を目指す」という目標を掲げた。
経営会議や社内報などを通じて全社に向けて発信した。
佐藤部長は「女性優遇ではなく、女性のさらなるキャリア成長のための育成を強化するという会社としての人材戦略。それをトップの言葉で明確に示した」とその意義を説明する。
このトップの覚悟は社内に大きな変化をもたらした。
店長候補者研修の女性参加比率が、25年度の19.2%から26年度に27.3%まで急増するなど、具体的な成果に結びついている。
座談会でロールモデルから学ぶ
具体的な施策として、25年から入社2~3年目の若手女性社員約200人を対象に、自律的キャリア形成を目的とした「キャリアフォーラム」を全国で開催。
先行きに不安を抱きやすい若手に対し、早い段階で自身のキャリアに対するマインドセットを促すことが狙いだ。
「会社は後押しをするが、気づき、切り開いていくのは自分自身であるというメッセージを伝えた」と佐藤部長はコメントした。
同フォーラムでは、自己効力感を高めるためのメイク講座を実施。役職に就いた場合と一般社員のままでいた場合の生涯年収の違いなど、金銭面に関する現実的な内容も伝えた。
座談会では、身近なロールモデルとして、さまざまなバックグラウンドを持った25人の女性店長に参加してもらった。
女性店長が一人もいない営業部も珍しくなく、ロールモデルが見えないことが若手にとってキャリアアップを目指す大きな壁となっていたためだ。
実際に活躍している女性店長との交流でリアルな姿が見えたことにより、女性スタッフの意識も変わった。キャリアフォーラム参加後のアンケートでは「店長を目指したい」と答えた割合が6%増加した。
産休・育休からの円滑な復帰を支援するため、24年から年に1回「育休交流会」を定期的に開催している。
産休・育休中の社員が子どもを連れて参加し、復帰済みの社員と働き方に関する実情を共有する場だ。復帰への不安を軽減する効果があり、同社の育休復帰率は97.7%と高い水準を維持している。今後は、子育てが一段落した両立期の社員に向けたキャリアフォーラムの開催も検討しているという。
時差出勤導入、育児期もフルタイムを希望
子育てを行う女性社員への制度面での支援も本格化している。24年12月には、産休後の早期復帰を後押しする10万円の手当やベビーシッター費用補助などを導入した。
これは単に労働時間を短縮するための支援ではない。育児と両立しながらキャリアアップを目指す社員の意欲に応える制度設計となっている。
中でも注力しているのが「時差出勤制度」だ。時短勤務の適用が終了した育児期社員がフルタイムで成果を上げられるように、始業時間を早める選択肢を用意。フルタイムでのパフォーマンス向上を促進した。
「制度導入により、時差出勤を利用できるのであればフルタイム勤務を希望する、という育児期の社員が想像以上に多いことが明らかになった。時差出勤に関して今後、対象者を拡大していくことも検討中だ」と佐藤部長は語る。
不動産業界は夜間の接客が多くなりがちだ。時差出勤を活用して早く出社し、迅速に反響対応や来店を準備。それにより、他社に先んじて契約を獲得するなど、生産性の向上につなげることができるという。
一方で課題も残る。不動産業界は時間的制約が業績評価に影響しやすい。業界において、女性が管理職として継続的に活躍するためには、抜本的な働き方改革が不可欠だ。
佐藤部長は、時間や場所にこだわらない適切な選択肢を導入することを検討し、固定観念にとらわれない働き方を拡充していく必要性を指摘する。
今後は、男性社員の巻き込みも重要なテーマに据える。女性活躍推進室においても、今後は多様なバックグラウンドを持った社員の視点も取り入れたいと考えている。「多様な視点が加わることで、生産性向上に向けた議論が組織全体で活発化し、真のイノベーションにつながるはず」
(河内)
(2026年5月25日20面に掲載)





