神奈川県川崎市において、グループで賃貸管理や収益不動産の売買仲介を行うエヌアセット(神奈川県川崎市)は、毎年300戸ずつ管理戸数を伸ばす。2023年2月末時点でグループ合計の管理戸数は4450戸に拡大した。「会社を成長させるうえで、地元に住み続けたい人を増やす取り組みは欠かせない」と宮川恒雄社長は話す。同社の成長戦略や地域密着型企業としての活動について聞いた。
保育園やシェアスペース提供
飛び込み訪問 提案窓口つなげる
エヌアセットは、管理戸数を伸ばし、川崎市におけるシェアを拡大、地域密着型企業としての成長を目指す。
年商はエヌアセット単体で10億円、グループ連結で16億円だ。事業構成比はエヌアセット単体で管理が32%、賃貸仲介が25%、売買仲介が25%、工事が6%となる。不動産事業とは別に、保育事業やコワーキングスペースの運営なども手がける。
従業員数はグループ全体で112人。エヌアセット単体では77人で、そのうち19人が管理部に所属する。
同社は川崎市高津区溝口を中心に、平均で年間300戸ずつ管理戸数を伸ばしてきた。23年2月時点のグループ合計の管理戸数は4450戸、エヌアセット単体で4002戸となった。管理を受託するオーナーは2248人で、地主系が9割、投資家系が1割という比率となっている。既存オーナーから新たな賃貸住宅の管理を任されるリピート受託は1年で82件あった。
管理戸数の増加に奏功した取り組みは、13年に立ち上げた「オーナー相談室」という、いわば管理の新規開拓チームだ。
空室や相続といったオーナーの悩み事への解決策の一つとして、同社への管理委託を勧めることで同社とつながりを持ってもらうきっかけとしている。14期(21年9月〜22年8月)の実績では、オーナー相談室経由での受託数は全体の3割を占めた。
オーナー相談室立ち上げ前の年間の管理受託数は100〜200戸だったが、相談室の設置後は、50戸ほど増えた。
オーナー相談室には、社員3人とパートスタッフ1人が所属。50代前半のパートスタッフが週4回程度、自主管理などのオーナーの戸別訪問を行う。話しやすいことが大切だと考え、オーナーと年代の近い人材を登用した。平均で月54人のオーナーに会いに行くという。
登記情報からオーナーの住所をリスト化し、一軒一軒を訪問。空室が多く悩んでいるであろうオーナーの優先度を高くし、訪問していく。オーナーと直接話をしながら、困り事や悩みについてヒアリングを行い、オーナー相談室の存在を伝える。オーナーが興味を示せば、同社に来店してもらうなどして、オーナー相談室の社員との面談の時間を設けるようにしている。その面談で具体的な提案を行う。
一番多く寄せられる相談は空室に関するものだという。管理の受託契約を結んでいないオーナーの場合、リフォームの受注ができない。そのため、同社の賃貸仲介部門と連携し、空室のリーシングをし、新規オーナーの信頼を獲得している。
「地域に還元を」住民の需要捉える
宮川社長は「地場不動産会社として地域に住みたい人や、住み続けたいと思ってくれる人を増やしたい。それを実現するためには『地域の共感』を集めることが重要」と話す。
地域の共感とは、住民が「『近所にあったらいいのに』と感じている施設などを敏感に把握して提供すること」を意味している。
その一つが保育事業だ。地域で待機児童の増加が問題化していたことから、同社は18年に保育園の運営を開始。保育園の運営事業における売上高は6000万〜6500万円ほどだ。
エヌアセットが運営する保育園
また、二つのシェアスペースの運営も行う。カフェを併設したコワーキングスペース「ONE(ワン)」と、子会社の、のくちのたね(同)が運営するレンタルスペース「nokutica(ノクチカ)」だ。ONEは主にリモートワークを行う会社員の利用が目立ち、nokutikaはフリーランスの人からの利用が多い。
「テレワーカーで仕事場を選ばない人が増えていることを踏まえ、溝口にもテレワークスペースの需要があるのではないかと考えた」(宮川社長)
エヌアセットが運営するコワーキングスペース
非営利事業では、地元の少年野球のスポンサーとして「エヌアセット杯」という大会を主催するなど、川崎市での知名度向上を図っている。
地元での管理受託数を増加させたり、地道に知名度向上への取り組みを続けたりすることが、管理受託のきっかけになることもあるという。
宮川社長は「大手不動産会社やハウスメーカー、不動産フランチャイズチェーンとは一線を画した、地域密着型の不動産会社として、『共感』からファンづくりをしていきたい。ファンをつくることが、長期的には、商圏への人口流入や長期居住につながれば」と話した。
エヌアセット
神奈川県川崎市
宮川恒雄社長(51)
(國吉)
(2023年6月12日7面に掲載)