Terra Charge(テラチャージ:東京都港区)は、電気自動車(EV)の充電インフラ(以下、EV充電)で日本におけるトップシェアを狙い、積極的な受注獲得を進める。2月には社名を、TerraMotors(テラモーターズ)から、EV充電のサービス名と統一した。EV充電を主力として、事業を拡大していく。
賃貸住宅5割超、低価格でリード
制度改正が追い風
Terra Chargeは、2022年4月に、EV充電「Terra Charge」の販売を開始し、2年弱で受注を2万5000台にまで増やした。国や自治体からの補助金を活用し、実質的な費用負担なく賃貸住宅にEV充電設備を取り付けることができる点をオーナーに訴求。契約件数を伸ばす。
そんな同社に追い風が吹いている。経済産業省によるEV充電設備への補助金制度が23年度の予備分以降、変更された。それまで補助金支給の選定は申請順だったが、改正後は費用対効果の高い案件を優先する方式となった。つまり、申請額が低いほうが優先されるようになったのだ。経産省が定めた期間内の申請のうち、金額が低くかつ経産省の基準を満たす案件に補助金が振り分けられるようになった。
同社は家庭向けの3kWの普通充電器が主力商品だ。低速で充電にかかる時間が長い分、ほかの充電器に比べ、1件あたりの設置費用が6kWの充電器に比べ、抑えられる。経産省の発表によると、改正後の普通充電器の平均申請額は1kWあたり約4万円低下している。その分、低価格のEV充電器が有利になっていると同社ではみている。
メーカーとして商品開発から行っており、安定した価格で提供できる体制を持っていることも差別化ポイントの一つだという。
提携管理会社83社
TerraChargeのサービス開始以来、同社は、集合住宅での導入提案に力を入れてきた。受注台数のうち69.1%が集合住宅だ。賃貸住宅だけで見ると約1万4000台と、全体の56%を占める。
大手を中心に賃貸管理会社とアライアンスを組み、全国で83社と提携する(1月18日時点)。ハウスメーカー系など管理戸数の多い管理会社が意欲的にオーナーへ設置を提案する動きが活発だという。賃貸住宅での受注のエリア比率は、中部エリアが42.7%、関東エリアが25%の順で大きい。地方の大都市である、福岡市、宮城県仙台市、北海道札幌市でも受注を増やしていく。
全従業員約140人のうち、新規開拓の営業担当は40人強。提携先の管理会社から紹介を受けたオーナー一人一人と面談をしている。「ベンチャーだが、どぶ板営業をいとわないことが当社の強みでもある」(徳重社長)
今後、EVが普及したときに、利用が多いと見込まれるのが住宅だと考えられる。「アメリカ政府の研究でも、住宅での需要が圧倒的という調査結果が出ている。従来どおり賃貸管理会社との提携を増やしていく方針は変わらない。それをよりアクティブにしていく」(徳重社長)
「国内市場は点ではなく、面での展開も進めている」と徳重社長が話すように、半径100㎞にどれほど同社のEV充電設備があるかがポイントになるという。
自治体の施設や商業施設への導入も推進する。全国で55の自治体と提携する(3月28日時点)。大手商業施設の運営会社との提携も秒読みだ。「今のEVだと、フル充電した状態で400㎞は走れるようになっている。ただ、消費者側の目線で『充電が切れたらどうしよう』といった心理的な不安を解消する必要がある」(徳重社長)
インド、タイで展開
「国内市場は点ではなく、面での展開も進めている」と徳重社長が話すように、半径100㎞にどれほど同社のEV充電設備があるかがポイントになるという。
自治体の施設や商業施設への導入も推進する。全国で55の自治体と提携する(3月28日時点)。大手商業施設の運営会社との提携も秒読みだ。「今のEVだと、フル充電した状態で400㎞は走れるようになっている。ただ、消費者側の目線で『充電が切れたらどうしよう』といった心理的な不安を解消する必要がある」(徳重社長)
生活圏にできるだけ多くのEV充電がある状態にしておくことが、EV普及の後押しにもなるとする。
国内と並行して海外のEV充電マーケットにも照準を当てる。23年10月にインドで、同年12月にタイでEV充電事業を開始した。
タイでは、EVの新車販売の割合が21年の1%から、24年には10%と、10倍になっている。タイ王国政府がEVの普及に積極姿勢を見せていることが要因の一つだと徳重社長は見る。ガソリン車とEVの値段が同じ水準であり、電気代がガソリン代の3分の1となっている。
インドにおいては、EVの電気代がガソリン代の5分の1まで下がる。運営コストが大幅に下がるため、タクシー会社がEVに切り替えている状況だ。
タイの首都バンコクではマンションの3割にEV充電器が設置してあるといい、残り7割のマーケットを同社で取りにいくという。
日本と異なり補助金制度がないため、同社が費用を全額負担して設置。その後、運営で上がる売り上げで投資分を回収するビジネスモデルだ。「マンションであれば2~3年くらいで投資費用を回収できる。」(徳重社長)
国内では補助金を活用したビジネス、海外では投資ビジネスとして、EV充電インフラのマーケットで存在感を高めていく。
資金調達が鍵
EV充電インフラ事業の継続性の鍵は、EVの普及と資金調達だという。一つ目のEVの普及については、支持される国産商品が生まれれば、国内での販売台数も増加していくとみる。
二つ目の資金調達については「スタートアップは、開発が先行することもある。大事なことは、資金調達を継続できること。当社は、23年に大手企業やベンチャーキャピタルから総額40億円の出資を受けた実績があり、得意な領域。EV充電のマーケット自体も注目されているので、自信がある。事業継続は問題ないだろう」(徳重社長)
国は30年までに30万台のEV充電器設置を目標に掲げている。この間に国内でトップシェアを取ることを至上命題とする。
その先の新規ビジネスの可能性も見据える。同社が提供するEV充電のアプリを通じて、いつどの時点で電気が使われているかを分析することもできる。これを利用して電気料金の安い時間帯に効率的に充電し、充電料金を下げるAI(人工知能)サービスを提供し、売り上げにつなげることも可能だという。また、商業施設における充電利用者の情報をデータビジネスとして活用することなども視野に入れて動いていく。
徳重社長は、日本において起業を加速することへの貢献を自身のミッションとしている。「日本における成功したスタートアップのモデルになる。特に、既存の大手企業が強いインフラ分野で当社がトップシェアを取ることの意味は大きいと考えている。日本で新しい事業に挑戦するスタートアップがどんどん育つようにしていきたい」(徳重社長)
(2024年4月22日20面に掲載)