【賃貸仲介会社の経営分析】佐賀と福井の会社でコロナ影響でIT重説需要増
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管理・仲介業|2022年03月02日
5月までに実現する賃貸契約の完全電子化の動きを受けて、賃貸仲介業務における契約関連業務の実態に迫る本企画。今回はIT重説などで業務効率化を図る2社を紹介する。
栗原不動産、電子申し込み実施率8割
社内のペーパレス化にも寄与
年間450件を賃貸仲介する栗原不動産(佐賀県唐津市)は、新型コロナウイルス下で導入した電子申し込みシステムにより、入居申し込みの8割をオンラインで対応している。仲介業務のオンライン化は、社内のペーパレス化やフリーアドレス化につながるなど、社員の働き方にも影響を与えている。
売上高のうち、事業構成比は分譲住宅の建築が50%、売買仲介が40%、賃貸仲介が10%となる。唐津市を商圏とし、1拠点で賃貸仲介事業を行う。従業員12人のうち、3人が賃貸仲介の営業スタッフだ。
賃貸仲介の売上高には、家賃1カ月分の仲介手数料とAD(広告費)のほか、保険などの代理手数料を計上する。ADに関しては、大手3社のポータルサイトに月間600戸の物件を掲載するための「入居促進費」として位置づけ、オーナーの理解を得ている。
営業スタッフ1人あたりの賃貸仲介件数は、年間150件だ。仲介件数のうち、専任媒介が4割、一般媒介が6割。営業スタッフの主な業務内容は接客、内見案内、重要事項説明(重説)となる。契約書類の作成など、事務作業は営業スタッフとは別の専任スタッフが行う分業制をとっている。
入居申し込みの実施比率は、電子が8割と大半を占める。同社では、2020年12月ごろに導入した日本情報クリエイト(宮崎県都城市)が提供する業者間物件流通サービス「不動産BB(ビービー)」における電子入居申込機能を利用。自社でオンライン申し込みシステムを持つ大手管理会社の管理物件を除く、同社や他社の管理物件の申し込み時に使用する。
家賃債務保証会社は、ジェイリース(大分市)、全保連(東京都新宿区)、オリコフォレントインシュア(東京都港区)の3社を利用する。入居審査に関しては、紙の申し込みの場合はファクス、電子申し込みの場合は、顧客が入力した情報を保証会社に直接送り、オンラインで完結する。
重説の実施比率は、対面が7割、非対面が3割だ。IT重説は、遠方客や法人のほか、コロナ感染者の濃厚接触者らを中心に利用。顧客とのやりとりはLINEのビデオ通話機能を活用している。
賃貸借契約は重説後、同日に行い、入居日に店舗で鍵を受け渡す。申し込みから契約までの所要期間は平均2週間だ。
同社は、業務効率化と事業拡大を図るために、仲介業務のオンライン化を進めている。電子申し込みシステム以外では、顧客情報をクラウド上で管理する基幹システムを導入。出力書類が減りペーパレス化が実現したことで、社内は座席を固定しないフリーアドレスにできた。社内の収容スペースにも余裕がうまれ、事業拡大を視野に入れた新卒採用で社員の増員にも対応できている。
同社の井上紗矢香マネジャーは「入居者が加入する保険は、オンライン申し込みができる保険会社に切り替えを検討中。オンライン化による業務効率の向上で、働き方も変わりつつある」と語る。
平田不動産、IT重説需要逆戻り
車社会で対面契約の要望増
年間仲介件数約400件の平田不動産(福井県小浜市)では、新型コロナウイルス下の20年4~5月においてIT重説実施割合が9割に到達していたが徐々に需要が減少。現在は2割に実施率が落ち着いた。移動に車を使うエリアのため、電車を利用する都心とは違い、来店の感染リスクが低いことが来店需要を回復させていると平田稔社長はみる。 同社の売上高は3億円。このうち、賃貸管理が50%、自社物件の家賃収入が30%、賃貸仲介と売買仲介がともに10%だ。全従業員15人のうち、賃貸仲介部門のスタッフは3人。営業担当が2人、事務との兼任が1人となる。
賃貸仲介店舗は1店舗を構え、商圏は小浜市を中心におおい町、高浜町、若狭町を網羅する。仲介を行う顧客の属性内訳は、一般社会人が62%、法人が30%、学生が8%。
賃貸仲介事業の売り上げは約3000万円。これには、仲介手数料、AD、付帯商品などの紹介手数料、家財保険の代理店手数料を含む。
営業スタッフ1人あたりの平均年間成約数は約200件。平均成約単価はADを含めず約4万8000円。仲介手数料は家賃の1カ月分だ。賃貸仲介のうち、専任媒介が約85%、一般媒介が約15%。来店成約率は75%と高く、エリアに競合がいないことを理由に挙げた。
同社で対応する申し込みは、7割がウェブで、3割が紙。ウェブは、20年5月ごろに導入したイタンジ(東京都港区)の「申込受付くん」を利用する。家賃債務保証会社は、日本賃貸保証(以下、JID:千葉県木更津市)と日本セーフティー(東京都港区)を利用。JIDとはファクスでやり取りを行う。日本セーフティーは、イタンジとのシステム連携が済んでいるため、ウェブ上でやり取りを完結している。
重説と賃貸借契約は同日対応のケースが多い。対面が8割、オンラインが2割だ。IT重説については、20年3月から体制を構築し、スマートフォンアプリの「Facetime(フェイスタイム)」やLINEのビデオ通話機能を使用。同年5月ころからはZoomも加え、対応している。
IT重説実施率が9割まで到達した20年4~5月ころは、契約書については郵送か来店しての記入かの2択だったため、重説と契約は別日で対応していた。しかし、同年の年末から「重説と契約を一度に済ませたいので来店したい」という要望が増え、対面での重説後、その場で契約書に記入というケースがほとんどになってきている。
家財保険は、全管協少額短期保険(東京都千代田区)を利用し、やりとりはファクスだ。申し込みから契約までの所要時間は1~2週間となる。
鍵の受け渡しは、入居物件のゴミ出しの説明などを行うため、入居日の当日に100%店頭で行っている。
平田社長は「ITを活用した対応の選択肢は引き続き維持する方針」と語る。先行して、基幹システムのIT化に着手しており、さまざまなシステムのテストを行い、内部業務のIT化を年内には形にしたいと前向きな姿勢を見せる。
平田不動産
福井県小浜市
平田稔社長(41)
(2022年2月28日7面に掲載)