異常の早期把握でリスク管理【高齢者の入居を支援 見守りサービス】

国立社会保障・人口問題研究所,公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会,国土交通省,今野不動産,中部興産,興産アメニティ,R65,東京ガス,ネコリコ,ヤマト運輸,LIFULL(ライフル),公益財団法人日本賃貸住宅管理協会,象印マホービン

管理・仲介業|2023年09月04日

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 2024年から一般世帯総数が減少に転じる。一方で、単身高齢者の世帯数は増加しており、賃貸住宅においても入居ニーズが見込まれる。本特集では、単身高齢者の入居受け入れに関する不動産会社などの取り組みと、孤独死対策となる見守りサービスについて紹介する。

対策商品で家主の理解得る

受け入れ実態研究 孤独死恐れが多数

 国立社会保障・人口問題研究所(東京都千代田区)が18年に発表した「日本の世帯数の将来推計(全国推計)2018(平成30)年推計」によると、一般世帯総数は23年の5418万世帯をピークに減少していく。一方で、65歳以上の単身世帯数は増加し続け、20年の702万から、40年には896万世帯に到達する見込みだ。65歳以上の単身世帯の増加に合わせて、賃貸住宅における単身高齢者の入居ニーズは高まっていくだろう。

グラフ 一般世帯総数・65歳以上の単身世帯数の将来推計

 しかし、これまで賃貸住宅への高齢者の入居はなかなか進んでこなかった。受け入れ状況の把握と改善を目指し、公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会(以下、全宅連:同)は、18年から20年にかけて「住宅確保要配慮者等の居住支援に関する調査研究会」を立ち上げ調査研究を行った。

 その研究の一環として18年には、全宅連に加入する不動産会社を対象に単身高齢者の入居受け入れに関するアンケートを実施。結果、高齢者世帯への賃貸住宅のあっせんを「積極的に行っている」不動産会社は7.6%にとどまった。積極的になれない理由として「大家の理解が得られないから」という回答が51.5%、大家の理解が得られない理由については「孤独死の恐れがあるから」と回答した割合が89.3%と最も多かった。

 これを受け研究会では、孤独死に付随するリスクを整理し、孤独死の基準や告知の在り方について議論を行った。不動産会社の声を伝えるため、国土交通省主催の「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン(以下、告知ガイドライン)」の検討会にも同研究会のメンバーが参加。21年に国交省が告知ガイドラインを制定する一助となった。

全宅連 高齢者の賃貸住宅への入居支援ガイドブック改訂版の表紙

高齢者の賃貸住宅への入居支援ガイドブック改訂版の表紙(全宅連)

 21年には同研究会の調査研究の成果をまとめた「高齢者の賃貸住宅への入居支援ガイドブック(以下、ガイドブック)」を作成。高齢者の来店対応から賃貸借契約、入居期間中と契約終了までにおいて必要な情報をまとめ、告知ガイドラインの内容も盛り込んだ。全宅連のホームページからダウンロードし、誰でも活用できる。制作に携わった全宅連不動産総合研究所は、多くの不動産会社にガイドブックを役立ててもらい、高齢者の入居のための取り組みを広げていきたいと考えているという。

人の死の告知、基準示す 国交省がガイドライン策定
 国交省は2021年10月、宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドラインを策定した。過去に人の死が発生した不動産を取引・媒介する際に宅建業者が負うべき義務を整理したもの。老衰・病死などの自然死や日常生活の中での不慮の死で、特殊清掃などを必要としなかった場合は、一般的に買主・借主への告知の必要はないという基準を示した。基準がなかったことで過度に大きくなっていた人の死による物件価値下落リスクを減らし、物件の円滑な流通を促す。

国の基準説明 将来見据え準備も

 高齢者の受け入れに取り組む不動産会社は各地にある。

 賃貸管理・仲介を行う今野不動産(宮城県仙台市)は東日本大震災後、仮設住宅から民間賃貸住宅への入居の支援を手がけたことを機に、高齢者の入居に関する取り組みを本格化。身寄りのない高齢者の緊急連絡先を担う支援機構の設立や、家賃債務保証・見守りサービスのセットプランなどの提供をしている。

 同社では高齢者が来店した際は、年齢だけでなく収入や心身の状態などをヒアリング。賃貸住宅の案内のほか、公営住宅や病院への紹介も行う。今野幸輝社長は「単に高齢というだけであれば、国交省の告知ガイドライン、「残置物の処理等に関するモデル契約条項」といった国の基準や家賃債務保証・見守りサービスなどの対策の説明をすることで、多くのオーナーは納得する」と話す。

 沖縄県で約1万6000戸を管理する中部興産(沖縄市)は、電球の点灯状況で見守りを行うサービスを導入し高齢者の受け入れに備えている。

 沖縄県は新型コロナウイルス下でも高い入居率を維持していたことから、県全体で高齢者の受け入れが進んでいない状況だという。同社では今後、高齢単身世帯が確実に増えていくことを踏まえ、受け入れに向けて22年3月から前述の見守りサービスの利用を開始した。グループ会社の興産アメニティ(沖縄県那覇市)は23年1月から、65歳以上の高齢者専門の物件紹介を手がけるR65(東京都杉並区)と提携し、高齢者向けポータルサイトへの掲載を行っている。

拒否経験を調査 制度整備で変化も

 R65は、16年から高齢者が入居可能な物件のみを紹介するポータルサイト「R65不動産」を運営し、高齢者の賃貸住宅への入居を支援する。

 同社は賃貸住宅への高齢者の入居状況を把握・周知するために、賃貸住宅を探した経験がある65歳以上の高齢者を対象にアンケート調査を行っている。23年6月の調査結果では、賃貸住宅への入居を断られた経験のある高齢者の割合は26.8%で、21年の調査と割合はほとんど変わらない。

 一方、以前は苦労していた地方での不動産会社向けセミナーの集客は非常に好調だという。山本遼社長は高齢者の入居への関心の高まりは、ここ3年ほどで国交省の告知ガイドラインや残置物の処理等に関するモデル契約条項といった制度が整ってきたことが要因だと分析する。「死後事務委任契約や見守りサービスの利用により、孤独死によるリスクを減らしながら高齢者を受け入れられることが認知され始めた」(山本社長)

電気メーター利用 生活リズムを検知

 ここからは高齢入居者を想定した見守りサービスを紹介する。R65では、高齢者の入居受け入れ促進のため、低価格で利用できる、見守りサービスと孤独死による損害を補償する保険がセットになった「R65あんしん見守りパック」を提供する。

 電気メーターを利用した見守りサービスで、電気の使用状況から自動で30分ごとに生活リズムを分析。15時間以上いつもと違う生活リズムを感知した際に自動音声による電話で安否確認を行い、電話に出ない際は管理会社や入居者の家族にメールで通知する。

 孤独死が発生した際は、最大で36カ月分の家賃を保証するとともに、原状回復工事や遺品整理のための費用など最大で100万円まで補償する。

 初期費用不要で、月額1078円(税込み)で利用できる。23年7月末時点で、約400戸で導入実績がある。

ドアセンサー設置 問い合わせ約3倍

 都市ガス最大手の東京ガス(東京都港区)が提供する見守りサービス「まもROOM(ルーム)」の22年度の問い合わせ件数は、21年度比で約3倍だった。23年度も22年度と比べ、約1.3倍のペースで伸長している。 入居者宅のトイレなどのドアにセンサーを設置して利用する同サービスは、一定期間ドアの開閉がなかった場合、東京ガスから入居者へ電話で安否確認を行う。入居者と連絡がつかなかった場合は、家族などの緊急連絡先に電話をする。緊急連絡先とも連絡が取れなかった際には、管理会社やオーナーに東京ガスからメールで知らせる。

東京ガス まもROOMのドアセンサーの写真

両面テープでドアにセンサーを設置するため、大がかりな工事も必要ない(東京ガス)

 初期費用は無料でセンサーや通信機器は東京ガスが設置するため、管理会社やオーナーの導入負担は最小限に抑えられる。それに加え、入居者が何か操作をする必要がなく、生活スタイルを変えずに過ごすことができる点が評価されている。

 23年4月には従来の提供エリアを拡大し、1都6県(東京、神奈川、埼玉、千葉、茨城、群馬、栃木)でサービスを展開している。今後は全国展開も視野に入れ、提供体制の構築を進める。

冷蔵庫に取り付け ネット環境は不要

 IoT機器の開発を手がけるネコリコ(東京都千代田区)は21年8月より、冷蔵庫のドア開閉センサーを利用した見守りサービス「まもりこ」を提供している。

 振動を検知するセンサー付きの端末を冷蔵庫に設置することでドア開閉の日時を記録し、一定期間開閉がない場合にスマートフォンアプリに通知する。開けっ放しにすることがなく、毎日使う冷蔵庫への設置により、見守りの確度を高める。端末は電源さえあれば設置可能で、インターネット環境は不要だ。

ネコリコ まもりこの写真

一定期間開閉がないと、アプリ画面のアイコンが赤くなり通知が送られる(ネコリコ)

 別居する親を見守りたい子どもや、高齢者が入居する物件の管理会社が購入している。価格は、端末代金が1万3200円、月額料金が端末1台あたり550円(いずれも税込み)となる。

 23年4月からは、オプションとしてブラウザー用管理画面「まもりこビュー」の提供を開始した。複数の端末の記録の一覧やメールでの通知が可能で、月額料金は端末1台あたり110円(税込み)だ。管理会社などの利用を見込む。

 8月からは、まもりこの月額料金が6カ月間無料になるキャンペーンを行っている。10月3日までの申し込みが対象だ。

電球交換のみ ヤマト社員が訪問

 配送事業を行うヤマト運輸(東京都中央区)は、電球の点灯状況で見守りを行うサービスを19年より展開している。

 サービス名は「クロネコ見守りサービスハローライト訪問プラン」。SIM(シム)カードが内蔵された専用のLED電球に交換するだけで利用することができる。電球の設置はヤマト運輸の社員が行う。前日の午前9時から当日の午前8時59分まで点灯・消灯の動きがない場合は、登録した通知先に自動でメールを送る。通知先である親族らが現場に行けない際には、依頼を受け同社のスタッフが現場の様子を確認し、状況を伝え、親族から依頼があれば消防や警察に通報する。

ヤマト運輸 クロネコ見守りサービスハローライトの写真

LED電球とSIMカードが一体となっている(ヤマト運輸)

 利用料金は月額1078円(税込み)で、初期費用や途中解約費用はかからない。23年8月8日時点で、賃貸住宅や一般住宅で約1万人の契約者がいる。最近は家賃債務保証会社の利用も増加。24の地方自治体とも業務委託契約を交わしており、自治体の負担でサービス提供を行っている。

LIFULL、接客時に必要な知識確認

無料で使えるチェックリスト

 不動産ポータルサイト「LIFULL HOME'S(ライフルホームズ)」を運営するLIFULL(東京都千代田区)は4月、高齢者の受け入れの際に必要な知識や準備の理解度をウェブ上で確認できる「高齢者接客チェックリスト」を公開した。

 LIFULL HOME'S内で高齢者や外国人らと不動産仲介会社の店舗をつなぐ専用ページの運営などを行う「FRIENDLY DOOR(フレンドリードア)」事業の一環だ。事業責任者のキョウイグン氏が社内の新事業提案制度に応募、社会課題の解決を目指す同社の方針により採用され、2019年から始まった。

 リストの項目は、全宅連による高齢者の賃貸住宅への入居支援ガイドブックをベースに、同ガイドブックの制作にも関わった公益財団法人日本賃貸住宅管理協会(同)あんしん居住研究会の伊部尚子委員が監修した。地域包括支援センターなど高齢者を支える公的施設に関する知識や、高齢者来店時にヒアリングすべき事項を把握しているかなどを問う。回答者は「はい/いいえ/わからない」のいずれかを選択し、自身の理解度を把握。回答後には各項目の解説を見ることができる。これまでの利用者は管理会社の役員・部長などが多く、高齢者の入居を推進したい会社の経営層が使用しているとみられるという。

象印マホービン、電気ポットで安否チェック

使用状況を通知

 炊飯器をはじめとした家庭日用品を製造する象印マホービン(大阪市)は、5月に高齢者安否確認サービス「みまもりほっとライン」をリニューアルした。

 専用の電気ポット「i-POT(アイポット 以下、ポット)」で、利用者の安否や健康状態を確認するサービスだ。利用方法はポットの電源コードをコンセントに差すだけとなっている。ポットを使用するたびにその操作履歴と時間を自動で記録。直近の利用履歴5件を利用者の家族らに1日最大3回メールで送信する。利用者がポットを空だきした際の履歴も残る。

象印マホービン i-POTの写真

キッチンに付帯設備として設置したイメージ

 リニューアルでは、管理会社を対象に、複数の利用履歴をまとめて一つの画面で確認できる機能を実装した。これにより、高齢者向け集合住宅や賃貸物件に住む利用者の健康や認知機能の状態、安否を一括確認することが可能となった。

 物件の付帯設備としてポットを常設することを想定。導入費用は5500円、月額料金は3300円(いずれも税込み)だ。初月の利用料は無料となる。

 CS推進本部の樋川潤シニアアドバイザーは「2001年の提供開始より利用者は累計1万3000人以上と、多くの人に愛用されている。ポットが高齢者との円滑なコミュニケーションに結び付く事例も多い。認知症や孤独死防止への対策設備として、不動産業界へ提案していきたい」と語る。

(2023年9月4日8・9面に掲載)

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