手に取った瞬間、ふわっとした軽さが伝わる。一般的な土の感触とは大きく異なるこの素材は、植物や野菜を育てる培地として使用できる木質培地「グロウアース」だ。
木材加工時の端材、培地に活用
開発したのは、総合建材メーカーの大建工業(大阪市)。建材の製造過程において、木材加工時に発生する端材を再利用している。軽量で手が汚れず、繊維状と粒状から成る原料の配分によって水はけや水持ちをコントロールすることができる利点を持つ。
大建工業は4月、このグロウアースを活用した新規事業の営業を本格的に始めた。提案するのは、マンションやオフィスビルの屋上などで野菜を栽培できる菜園システム「みんなのエコ菜園」だ。プランターや栽培道具、苗などをセットで提供し、都市部でも手軽に家庭菜園を楽しめる環境をつくっていく。当面は、都市部の商業施設、賃貸住宅、オフィスや高齢者向け施設を中心に提案を進め、3年間で累計売上高10億円を目指す。
グロウアースの特長の一つが、その軽さだ。一般的な園芸用培土が1㎥あたり約1000~1600kgあるのに対し、グロウアースの重量はそのおよそ3分の1。建物の構造設計上、住居や屋上に土を設置する場合、深さ10cm程度で積載荷重の上限に達することが多い。グロウアースを使うことで一般的な土の約3倍の深さがとれるため、多様な種類の野菜が栽培できるようになる。
軽量でありながら、グロウアースの繊維が絡み合うことで風による飛散を防ぐ。原料が木材のため、可燃ごみとして処理できる利点もある。これまでに計4棟のオフィスビルや商業施設の屋上に導入した。
賃貸住宅への提案も進めていく。開発営業部・菜園事業担当の秋葉裕太氏は「屋上菜園の導入が物件の差別化や入居者満足度の向上につながると考える。建物のバリューアップや大規模修繕、屋上防水工事の実施時も、導入の一つのきっかけとしてもらいたい」と話す。2024年春ごろからは、東京都台東区と神奈川県横浜市の賃貸マンションで稼働を予定している。
導入にあたり、現地調査やプランニングは大建工業が手がける。マイファーム(京都市)など貸農園運営会社とも連携し、農園管理や栽培支援の体制も整えていく。広さの目安は50~100㎡で、空き地や駐車場での利用も可能。調査から最短3カ月程度で運営を開始することができる。
大建工業グループでは設立70周年を迎えた15年に、長期ビジョンとして「GP(グロウプラン)25」を策定。木材など持続可能な資源を活用した素材の開発を通じて、循環型社会への貢献を目指す。
(2023年12月4日9面に掲載)