「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉が嫌いだ。言葉だけが独り歩きし、実態を伴っていないのだ。
興味を持って調べてみても「DXとはデジタル技術を用いた社会変革のことを指し...」などと小難しく書いてある。「そんなことだから嫌われるのだ」と思わざるを得ないが、IT企業の経営者としてこのDXの惨状に責任も感じる。
せっかく不動産DXをテーマにした連載の機会を頂いたので、不動産会社にとって本当に価値のあるDXについて全力でお伝えしたい。
実践率は3割弱
DXの歴史を振り返ると、急速に広がったのは2020年。新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた頃で、リモートワークや非対面営業の推進に都合のいいキーワードだった。
しかし、コロナ禍が落ち着いた現在、DXに取り組む企業は少ないのが実情だ。23年10月に当社で実施した調査では、取り組む企業は全産業平均で30.4%、不動産業界では27.3%と低い水準にある。それもそのはずで、これまでのDXはコロナ下でもどうにか営業活動を行うためのものだったからだ。
売り上げに直結
では、今後取り組む価値のあるDXとは何か。それは、コロナ下に取り組まれた企業存続のためのものではなく「顧客ファーストなDX」だ。顧客のニーズに応えるためのDXであれば、売り上げ拡大に直結するため重要である。
DXで実現できる顧客ファーストは大きく二つある。一つ目は、新たな価値を顧客に提供することだ。例えば、電子契約は面倒な来店や手書きの必要がなく契約できるため、顧客満足度の向上が見込める。加えて契約締結のための来店が減ると、物件を探す顧客への対応に集中できるため、より手厚い接客が可能になるだろう。
ちなみに、「電子契約を求めているのは若者」だと思うかもしれないが、当社で実施した調査では60代でも半数以上の人が「電子契約を使いたい」と回答した。幅広い世代で好意的に受け入れられているため、導入した際のリターンは大きい。
二つ目は、顧客行動をデータとして蓄積・分析し、顧客が望むアプローチを行うことだ。例えば顧客情報管理システム(CRM)でメール開封の時間帯・曜日の分析を行うと、その顧客が「住まい探しについて考えるタイミング」が見えてきて顧客が求めているときに連絡することが可能だ。
従来ベテランスタッフだからこそできた「顧客に寄り添った追客」が新人でもある程度可能になり、より多くの顧客に満足してもらえるだろう。
このように、DXで顧客ファーストを徹底していくと売り上げ拡大につながる。攻めの戦略と捉えることでDXは今一度価値のあるものになるのではないだろうか。
いえらぶGROUP
共同創業者・常務取締役
庭山健一
マンションデベロッパーでの勤務経験を生かして、2008年にいえらぶGROUPを設立。不動産業務支援システム事業、受託開発事業など営業陣を統率。14年に常務取締役に就任。
(2024年1月1・8日35面に掲載)