コロナ下での在宅時間の増加によって、住宅のDIYニーズが高まっている。ホームセンター各社はDIY関連商品の売り上げにけん引され、2020年度の決算で軒並み増収となった。賃貸住宅業界でも、DIYをフックにして事業を伸ばす会社が現れている。今回はそのうち2社の取り組みについて紹介する。
家賃1万5000円アップの事例も
ウエダ不動産事ム所、SNSで物件が話題に
管理する200戸のうち約半数をDIY可能な賃貸が占めているのが、ウエダ不動産事ム所(熊本市)だ。同社の管理物件では、DIYした室内の写真を『インスタグラム』に投稿する入居者が増加。その投稿を見て、入居を希望する人が続々と現れているという。同社が管理しているDIY可能な賃貸は、コロナ禍以前から入居率ほぼ100%を維持しているが、最近では退去前から次の入居者が決まるケースが、目立つようになっているという。
同社のDIY可能な賃貸は、クリーニングなどを除いて原状回復を行わず、前の入居者がDIYを行ったままの状態で次の入居者を迎え入れている点が特徴だ。SNSにアップされたDIY済みの写真のイメージのままの物件に、次の入居者は住むことができる。
こうした強みを生かすべく、同社は入居者がDIYを施した物件や、リノベーションした物件だけを集めて紹介する『あんぐら不動産』を運営し、入居者募集や管理受託に活用している。加えて、入居者によるDIY事例のインスタグラムなどのSNSへの投稿も、集客を後押ししている。
DIY事例を投稿する入居者は、コロナ禍前には10人程度だったが、今では30人ほどまで増えている。特に、30~40代の主婦がDIYした室内の写真を投稿するケースが多いという。人気なのは壁のペイントや、棚の造作など、閲覧者がまねできそうなDIY事例の写真だ。
上田洋平社長は「退去のたびに家賃がアップした物件もある」と話す。例えば、築40年超のアパート『I LOVE(アイラブ)並木坂』の1室は、DIYを可能にした当初の家賃は5万円。現在3人目の入居者が住んでいるが、6万5000円で貸し出している。
ウエダ不動産事ム所
熊本市
上田洋平社長(43)
カザールホーム、入居者の施工を支援
建築や賃貸管理を手掛けるカザールホーム(大阪府堺市)では、所有する賃貸住宅をDIY可として貸し出したいオーナーに向けて、DIY賃貸借サポートシステム『DIYのいえ・アシスト』というサービスを提供している。提供実績はまだないが、2020年5月のサービス開始から、累計15件の問い合わせがあった。
中島久仁社長は、「室内の状態が心配になり、施工できる範囲を制限しすぎて、DIY可能な賃貸とは言い難い取り決めになってしまうケースもまだまだある」と難しさを語る。
『DIYのいえ・アシスト』は、住戸内でDIY可能な範囲や箇所を事前にオーナーと取り決めた上で入居者のDIYをサポートするサービスだ。DIYを行う際には、同社で工事を行っている職人を現地に派遣し、部材の購入や施工を手伝う。
また、大阪府住宅供給公社(大阪市)と提携し、堺市にある茶山台団地の空室3室を利用して、参加者が無料でDIYを体験できる工房『DIYのいえ』を運営。週に2回のペースで、壁へのペイントや造作棚の取り付け、襖(ふすま)への壁紙貼りといった、賃貸住宅で可能なDIYの練習ができるワークショップを開催している。オーナーに入居者のDIYを受け入れてもらえるよう、『DIYのいえ』へ足を運んでもらうことで、DIY賃貸借への理解を図っていく構えだ。
DIYのワークショップを通じてオーナーの理解を促す
DIY賃貸に関しては、市場のニーズや認知度が高まってきているだけでなく、国が意欲的に後押ししていることもあって、取り組みへのハードルは年々下がっている。国土交通省がホームページで公表しているガイドブックや契約書式例、本紙で紹介している事例などを参考に積極的にチャレンジしていってほしい。
カザールホーム
大阪府堺市
中島久仁社長(50)
(7月5日24面に掲載)
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