マンスリー賃貸に参入する動きが一部で目立ち始めた。大手ポータル『グッドマンスリー』の掲載物件数は約2万1000件と前年から約4000件増加。マンスリーは一般に貸し出すより賃料を高く設定でき、既存物件に家具家電を設けるだけで参入できる手軽さが増加の一因とみられる。背景には宿泊施設の宿泊料が高騰する一方、研修を手厚くしたい企業の需要の高まりがある。複数の外部要因がマンスリー市場に変化をもたらしているようだ。
利用者増加、参入企業相次ぐ
月単位の契約で賃貸できるマンスリー賃貸は、ホテルと賃貸住宅の中間に位置する形態として昔から定着している。そのマンスリーを「今年から取り扱う」とするアパート・マンション管理会社が出始めている。確かな統計はないものの、例年の取材と比べて参入を表明する声は多い。
管理戸数約2万2000戸の日本財託(東京都新宿区)は5月よりマンスリーの取り扱いを開始した。法人の社宅として一般賃貸を紹介してきた事業基盤を生かす考えだ。
S‐FIT(エスフィット‥東京都港区)も7月から参入。提携法人が1000社を超え、マンスリー事業を行うための土台が整ったと判断した。「これまで法人向けには一般賃貸を紹介してきたが、今後は出張や研修などの短期間利用でも提供ができるよう選択の幅を広げる」(中島守康部長)。同社では既存のマンスリーとの差別化を図る目的で、定額で自由に短期居住ができるサブスクリプション型のサービスとし、10月末時点で150戸を運用している。
管理戸数1万3000戸のライフサポート(愛知県名古屋市)も8月から参入。人材を増やさずに売上高を上げる手段として「マンスリーは一般賃貸管理と相乗効果が高い」(森英治社長)とみる。
いずれの企業も既存事業との相乗効果の高さが、参入意欲を高めているとうかがえる。
マンスリーの検索サイト大手『グッドマンスリー』では、掲載物件数・閲覧数・反響数ともに年々増加傾向にある。同サイトを運営するグッド・コミュニケーション(東京都港区)の田中良治リーダーは「年間で約1万PV、問い合わせ数は年間約1000件増えている」と語る。
法人需要が下支え
参入企業が増える背景には、長期出張や研修用途で拠点を確保したい一般企業の利用増が関係しているという。
マンスリー大手、リブマックス(東京都港区)では、新入社員研修などで100~200戸まとめて借りる法人が直近で10%ほど増加。「発注戸数は年々上がっている」と同社の東日本マンスリーマンション事業部、柳村洋部長は話す。同社はマンスリーを約8000戸運営。稼働率は85%超、顧客の9割以上が出張や研修に使う会社員だ。
法人需要が高まっている原因は主に2つある。一つは、新入社員向けの現地研修を手厚くするために、まとめて部屋を確保する一般企業が増えている見方だ。
人事労務に詳しい産労総合研究所(東京都文京区)の担当者は「リーマン・ショックや東日本大震災で一時的に下げた教育予算が戻ってきている」と分析。一部では離職防止策として、教育に力を入れる企業も見られるという。
リクルートワークス研究所(東京都中央区)によれば、来春の大卒求人倍率は1・83倍。リーマン・ショック後2番目に高い水準となり、人材採用に苦しむ企業は多い。
採用難などが見える一方、ホテル市場の活況がマンスリー需要に密接にかかわっている。
インバウンド需要の高まりからホテルが乱立し宿泊価格が下落した地域では、宿泊費用がマンスリーと並び、利用企業側にマンスリーの価格メリットがなくなる。リブマックスの田中玲上席執行役員は、「ホテルの急増により、一時的にマンスリーの稼働率が急激に下落した地域があった。業態が異なるホテルも競合となる」と語る。
観光庁の『宿泊旅行統計調査』(19年6月)によれば、宿泊施設の平均稼働率は60%前後で高止まりしている。みずほ総合研究所(東京都千代田区)の宮嶋貴之主任エコノミストによれば、この数字は「バブル期を超える過去最高水準で推移」しているという。18年の外国人延べ宿泊客は9428万人と調査以来最多を更新した。宮嶋氏は、「伸び率は鈍化したものの、宿泊料金は年々高騰している」と説明する。
一部で供給過剰を懸念
だが法人ニーズの高まりに疑問を呈する企業もある。レジデンストーキョー(東京都千代田区)では約700戸のマンスリーを運営している。東京五輪の工事などにかかわるインフラ関係の企業がすでに多数契約している。「あくまで特需。個人利用が増加していることもなく、ニーズに大きな変化はない」(木下憲一マネージャー)。「変わらないパイを多くの企業で取り合っている印象」と指摘する。
ポータルの反響数、掲載数増から、需要が高まり、参入増も感じられる。稼働率を維持・向上するためには、マーケットに依存せず、個別の企業努力が問われてくる。