空き家の活用を促すビジネスの一つとして、空き家の時間貸しが注目されている。売却や賃貸住宅への転用だけではない、時間貸しの可能性を探る。
一時的な利用可能で需要
20、30代が支持
時間貸しスペースと利用希望者のマッチングサイト「スペースマーケット」を運営するスペースマーケット(東京都渋谷区)が発表した調査によると、空き家所有者の10.9%が、検討したい収益化の方法にレンタルスペースと回答した(円グラフ参照)
調査名は「第2回スペースシェアに関する全国実態調査」。スペースマーケットが設立したスペースシェア専門のシンクタンク・スペースシェア総研(同)が実施した。全国の20〜60代の空き家所有者を対象に、2023年7月21〜24日の4日間でインターネット調査を行った。有効回答数は1万人だ。
特に、空き家の収益化でレンタルスペースを支持したのは20〜30代。20代は86人のうち19.8%、30代は96人のうち14.6%が、レンタルスペースを収益化の方法として検討していることがわかった。
カーシェアなど、物をシェアする価値観を持ったミレニアル世代からの支持が厚いといえる。
利用者側のニーズはどうか。スペースマーケットに掲載された会場利用者の用途としては、利用件数が多い順に①会議などビジネスシーンでの利用②パーティー会場③動画や写真の撮影会場④趣味・遊びの空間となっている。同サイトへの掲載会場は空き家に限らないが、利用者層のボリュームゾーンは25〜35歳。こちらもミレニアル世代からのニーズの高さがうかがえた。
民泊より参入容易
「自分も使えて、他人に貸して収益も生む。空き家の時間貸しは、理想的な利活用の形かもしれない」と話すのは、空き家活用(東京都港区)の和田貴充社長だ。
同社は、オーナーや地方自治体向けに空き家の流通から利活用までをサポートする事業を展開する。空き家所有者からの相談件数は月100件ほど。このうち6〜7割が売却も意識しながら時間貸しに関心を持っているという。
空き家所有者が売却に踏み切れない要因として、自身がまだ使う可能性が残っていることが挙げられるという。これに対し時間貸しは、物件の所有権をオーナーが持ち続けるので、必要なときに物件を使えるメリットがある。
同じく空きスペースを貸す民泊との違いは、貸し出しの手軽さにある。
民泊の場合は一定の規定を満たす必要があり、簡易宿所にする場合には営業の許認可を取るため費用もかかる。時間貸しはこれが不要だ。「きれいに使用していた部屋であれば、清掃や簡単な修繕のみで貸し出しを開始できる場合もあるので、初期コストも少ない」(和田社長)
月間売上30万円も
実際に空き家を時間貸しし、繁忙期で月30万円超の売り上げを生み出した例もある。
東京都西東京市で、19年から空き家の時間貸しを行う青山りえこオーナーは「築60年の空き家が持つ古民家風の雰囲気を生かしながら、壁の塗装や畳の張り替えといったDIYと清掃だけで時間貸しを始めた。月5〜10件の問い合わせがある」と話す。
空き家は、西武鉄道新宿線の田無駅から徒歩15分に立地する平屋の物件だ。いろりや縁側のある昔懐かしい雰囲気が、コスプレ愛好家などからの撮影会のニーズを獲得している。利用者層は20〜30代の女性が多いという。
利用料金は1時間4000円で、最低利用時間は4時間。集客は、時間貸し専用のポータルサイトを1社利用する。
維持管理においては、青山オーナー自身で清掃を行う。同じ敷地内に、母屋となる青山オーナーの自宅が立つため、利用者が訪問した際にはできる限り対面で使い方の説明などを行う。
青山オーナーは「賃貸住宅の家主になることも荷が重かった。時間貸しはハードルを感じずに始められた」と語った。
(齋藤)
(2023年12月11日20面に掲載)