特殊工法で防水性を長期保持【建物の価値を維持・向上できる大規模修正】

カシワバラ・コーポレーション,ヨコソー,翔設計,朝日リビング,マツミ,SHINSEI(シンセイ),ジェクト,繕

統計データ|2023年06月13日

 建物が持つ本来の機能を維持するための大規模修繕工事は、長期間を見据えた賃貸経営には欠かせない。設備投資とリノベーションを同時に実施することで、高い競争力を保つこともできる。修繕工事を手がける各社の取り組みを紹介する。

修繕スパン、従来の2分の1に

カシワバラ・コーポレーション、30年保証の屋上防水

長寿命化でコスト減

 集合住宅の大規模修繕を手がけるカシワバラ・コーポレーション(東京都港区)は2020年より、自社オリジナルの屋上防水工事「K+ Roof Guard(ケープラスルーフガード)30」を提供している。

 弾性に優れたポリオレフィン樹脂を主成分とする防水シートを、既存の防水層の上に施工する。保証期間は、従来の塩化ビニール樹脂系防水シートを使った工事の2倍の30年間。RC・SRC造の陸屋根が施工対象だ。

K+ Roof Guard30施工時の写真

既存の防水層の上から専用固定具を使って施工する

 一般的に塩化ビニール樹脂系の防水シートは、弾性確保のために可塑剤を混和する。可塑剤は経年で硬化・収縮するため、防水シートが割れたり、接ぎ目部分に隙間ができ漏水したりする原因になっていた。ポリオレフィン樹脂は元々弾性が高いため、可塑剤を混和していない。物質が水と反応して劣化する加水分解もしないため、屋上の水たまりなどにも強い。カシワバラ・コーポレーションでは防水シートの厚みを類似品よりも0.2~0.5mmほど上回る2mmとすることで、長期の保証を実現した。厚みが出るほど施工時の取り扱いの難易度は上がるが、防水機能は長期間持続する。同社の豊富な実績と技術力を生かした屋上防水工事といえる。

K+ Roof Guard30施工完了後の屋上の写真

施工完了後の屋上

 1回の防水工事の費用は塩化ビニール樹脂系シートを使った防水に比べて約1.3倍だ。しかし10年ごとの定期点検を行えば、従来は12~15年に1度行う必要があった防水工事が30年に1度となるため、長期的には修繕コストを抑えられる。

 ビルディングメンテナンス事業戦略本部の下山博士氏は「K+ Roof Guard30をはじめとした高品質な工事で、建物を大切に使いたいと考えるオーナーに寄り添っていく」と話す。

ヨコソー、工事後対応を重視

施主との交流会も開催

 主に分譲マンションの大規模修繕を手がけるヨコソー(神奈川県横須賀市)は、2019年11月に賃貸住宅の大規模修繕に対応する専門部署を設立した。

 同社は1980年ごろからマンションの大規模修繕事業を開始した。2022年度の施工実績は約150棟で、そのうち賃貸住宅は5%弱。以前は、分譲住宅と分けずに対応していた賃貸住宅の修繕のために専門部署を設立したのは、賃貸住宅オーナーからの問い合わせが増加してきたためだ。

ヨコソー バルコニーの塗装の写真

バルコニーの塗装の様子

 足元では新型コロナウイルスの流行により延期となっていた大規模修繕工事の受注で分譲住宅の施工件数は好調。一方で、技術の発達により工事寿命が延びたことで、分譲住宅の大規模修繕の需要は読みづらくなっている面もある。同社では賃貸住宅の大規模修繕の受注も進めていく方針だ。

 同社の強みの一つは工事後の丁寧なフォローだ。アフターフォローの専門部署を設置して工事後の建物のトラブルに対応できる体制を整え、次の修繕までのメンテナンスの支援を行う。また、年に1回、施主を招いた交流イベント「あんふぃに祭(ふぇすた)」を開催する。社員や役員との交流のほか、マンション管理に関するセミナーも準備し、参加した施主からも好評だという。

あんふぃに祭での交流会の写真

あんふぃに祭での交流会の様子

 佐々木俊輔取締役は「竣工以来、数十年の間に一度もメンテナンスをしていない賃貸物件は多い。万が一、修繕不足で事故が起これば所有者責任も発生する。施工会社として、そういった建物が少しでも減るよう、情報発信などに取り組みたい」と話す。

翔設計、設計会社が修繕コンサル

目的に合わせ中長期の計画

 RC・SRC造の大規模修繕であれば、設計会社のコンサルティングを利用する選択肢もある。

 集合住宅や公共施設の設計、修繕コンサルティングなどを行う翔設計(東京都渋谷区)は、賃貸住宅の大規模修繕コンサルティングも手がける。オーナーから依頼を受けて建物を調査し、オーナーの目的に合わせ、中長期的に見て必要な修繕や改修を提案。要望に応じて施工事業者の手配や長期修繕計画の作成も行う。計画を提供することが仕事であるコンサルタントとして、工事を行うことを前提としない提案ができる点が強みだ。

 同社は歴史的建造物の保存から事業を開始した。新築や大型施設の設計も行っていることから、建物構造から設備までさまざまな角度からの診断が可能だ。老朽化マンションの長寿命化に資する取り組みを支援する、国土交通省の「マンションストック長寿命化等モデル事業」にも多数採用された実績がある。

 大規模修繕コンサルティング事業の開始からは約20年。これまでに約1100のマンション管理組合、約30人の賃貸住宅オーナーからコンサルティングを受注した。建物設計と修繕計画を多く手がけてきた建物の専門家として、不具合箇所を直す修繕と、建物の価値を上げる改修の両面を見据えた提案を行う。賃貸住宅の場合、その建物をあと何年使い、どれくらいの収益率を追求するのかを踏まえ、入居率や家賃を上げるための最新設備の導入を提案する。想定使用年数が残り少ない場合は、不要な工事を省く提案をすることもある。

 コンサルティングの料金は案件ごとに相談に応じる。修繕工事の工程のうち調査・計画を同社が担い、工事事業者が行うのは施工のみ。そのため、合計料金はコンサルティングを利用しない場合と同程度になることが多いという。

 オーナーだけでなく、管理会社からの相談にも乗る。管理物件の状態確認を請け負った事例や、築古物件のオーナーへ家賃の値下げ以外の提案をしたいという不動産会社に、入居者との交渉を含む建て替え計画をアドバイスした事例もある。

朝日リビング、物件競争力の向上策も提案

診断時にエリア調査実施

 大規模修繕のほか、内外装リノベーションも手がける朝日リビング(大阪市)は、賃貸経営を意識した修繕計画をオーナーに提案している。

 建物の大規模修繕は10年から15年に1度を目安に行うが、その程度の期間がたつと周辺の賃貸住宅との競争力は落ちる。単なる修繕では集客力の改善が難しいことから、エントランスの改修や内装リノベを併せて実施することもある。初回の建物診断時に近隣の競合物件や街の特性などを調査し、入居者ターゲットの設定と改装デザインのプランの作成を行ってオーナーに提案する。約1200社の提携不動産会社との情報交換を通じて、エリア分析を実施している点も特長だ。

福岡市にある築27年のマンションの施工事例の写真

福岡市にある築27年のマンションの施工事例。入居者ターゲットに合わせたエントランスのリノベも実施した

 修繕・改装時には、施工後のイメージを不動産会社と共有し、工事期間中でも入居募集がしやすくなる取り組みも行いながら物件の稼働率向上に努める。施工中は入居者の不安を抑えるため、工事作業員の顔写真を掲示。完成後のイメージCG(コンピューターグラフィックス)も公開する。

 竹原徹常務取締役は「オーナーのキャッシュフローを考慮しながら、今やるべき工事を提案している」と話す。内外装のリノベ工事においては、施工前と比較して入居率や家賃がどの程度改善できたかを振り返り、社内で表彰する取り組みも行っている。全国主要都市を含む23拠点で営業展開しており、2021年度の年間施工件数は約6500件となる。

マツミ、所有目的に沿った計画書作成

修繕のリピート率は約9割

 外壁塗装や防水・シーリング工事などを手がけるマツミ(大阪府茨木市)は年間約200棟の賃貸住宅の大規模修繕を実施している。

 オーナーに大規模修繕を提案する際は、まず物件について長期的な賃料収入が目的であるのか、それとも短期的な転売における収入であるのかなど、所有する理由をヒアリングする。物件調査や見積書作成は無料で、物件の劣化状況と所有目的や資産に応じて最適な大規模修繕工事の計画を提出する。

 マツミは1967年より、マンション・アパートのほかビルや工場などの大規模修繕工事を手がけている。50年以上の実績を基に、入居率向上に寄与する提案を行うことができるのが強みだ。例えば女性をターゲットとする際は、エントランス部分を明るくするためのデザイン塗装や照明の変更などをアドバイスする。入居者ターゲットに合わせたデザインを提案することで、大規模修繕のリピート率は約90%の実績がある。

マツミが手がける物件の写真

同社が手がける物件の一例

 2020年からはオーナーの知識向上と交流の場をつくることを目的に情報サイト「親兄弟メンバーズ」を開設。工事や補修をはじめとした賃貸経営におけるノウハウや事例をコラムやセミナーなどで発信しており、23年5月末時点で約1500人の会員がいる。

 宮脇みき社長は「親やきょうだいなど、自分の家族の物件を施工する気持ちでオーナーや物件に向き合うという企業理念の下、現在の営業体制を構築した。社員や現場の職人の教育を徹底することがオーナーから満足してもらっている要因だ」と語る。

SHINSEI、半年間で50件受注

詳細な資料で説明徹底

 2022年12月に設立したSHINSEI(シンセイ:大阪市)は、関西圏を中心に大規模修繕やリフォーム事業を手がける。

 事業開始から約半年間で、50件の工事を受注している。賃貸住宅のほかオフィスや分譲マンションにも対応。修繕内容は屋根・外壁の修繕や屋上の防水工事、階段やベランダなどの共用部の床シートの貼り替えとなる。大規模修繕における施工期間は、10~30戸の物件の場合2カ月~2カ月半、40~60戸は3~5カ月程度だ。

SHINSEI 共用部の修繕事例写真

共用部の修繕事例

 オーナーへの提案時には施工後の様子がわかりやすいよう、3D(3次元)を用いて外壁などのイメージパースを作成するほか、見積もりとともに施工フローを記載した資料を提供する。提案時に詳細な資料を用いて説明することで、工事中や施工後のトラブルが起きないようにする。

 空室が多く、入居率を上げたいというオーナーからの要望があれば、修繕の際に物件の付加価値を高めるための改修工事も提案。エントランスでは館銘板や壁・床のリフォーム、浴室設備ではトイレとバス、洗面から成る3点ユニットバスの交換などの改修工事を手がける。

 植村亮太社長は「今後は多くのオーナーや建設会社に信頼してもらえるよう、子細な施工資料などを用いながら、空室対策のためのリフォームを含めた大規模修繕を提案していきたい」と語る。

ジェクト、オーナーの要望に対応

賃貸経営に寄り添う

 4000戸の賃貸物件を管理する不動産会社のジェクト(神奈川県川崎市)は、管理物件や施工物件を中心に年間100~150棟の修繕を行っている。

 2020年に創業100周年を迎えた同社は、08年に「工事部門リニューアルグループ」を設立した。大規模修繕に関する事業を専門に担当している。同社の管理物件や、自社の建築事業で施工した物件への施工が多いが、管理を受託していない物件や他社施工の物件にも対応する。

 大規模修繕において同社が手がけるのは、建物の外壁修繕や屋上防水などが中心だ。下地から施工した屋上防水工事には10年間の防水保証が付き、保証期間内に漏水などのトラブルが発生した場合は無償で対処する。

ジェクト 大規模修繕の事例の写真

大規模修繕の事例

 ジェクトの特徴は、オーナーの賃貸経営における収支計画に沿って提案や施工を行う点だ。仲介・管理部門と、修繕工事を担当する工事部門リニューアルグループが連携を図り、修繕計画や物件の現状を常に共有できる体制を整える。各事業部の担当社員が大規模修繕の施工状況を把握しているため、オーナーからの質門や要望にもいつでも対応することができる。

繕、カード決済が可能

ポイントがたまるのも特典

 繕(東京都足立区)は、分譲マンション、ビルを中心とした大規模修繕工事の実績が累積300棟を超える会社だ。営業エリアは1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)で、近年は賃貸住宅の工事受注も強化している。

 同社の最大の強みは工事代金をクレジットカードで決済できることだ。オーナーは、同社に依頼すると大規模修繕だけでなく、入退去の際の原状回復やリフォームの費用もカードで支払うことができる。さらにカードのポイントを使って、新たな設備を導入すれば、コストを削減しつつ建物の付加価値を向上させることが可能だ。

 以前施工したマンションのオーナーには、同社からカード決済を提案して、支払ってもらったという。同社の葭葉恒成社長は「カード決済により工事代金2000万円分を対象にしたポイントが付く。さらに航空会社のマイレージサービスの還元割合が高く、海外旅行でかなり得をしたと喜びの声があった」と話す。さらにこの大規模修繕工事をきっかけに、トイレなどのリフォーム工事の受注にもつなげることができた。

 工事代金のカード決済は3年前に開始した。同社では以前から工事に使う建材などをカードで購入していたことから、顧客もカード決済を利用してもらえると満足度が高まると思ったと葭葉社長は言う。同社では、今後もオーナーへの大規模修繕工事の提案を積極的に行っていく予定だ。

繕 葭葉恒成社長の写真


東京都足立区
葭葉恒成社長(46)

 

(2023年6月12日8・9面に掲載)

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