賃貸市場、コロナ禍の影響は?エリアルポ~山口編~

上原不動産, アーバンエステート, スクエア, アイ・アール

その他|2021年12月31日

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 新型コロナウイルス下における賃貸マーケットの今を伝える「エリアルポ」、今回は山口県を紹介する。広島と福岡の都市部に挟まれていることもあり、隣接する市にはその影響も見られる。今回は人口トップの下関市を始めとし、山口市、宇部市、周南市、岩国市の人口トップ5市にて賃貸業を展開する4社とオーナーにコロナ下での賃貸市場への影響を聞いた。

来店半減エリアも

≪下関市の賃貸住宅事情≫
 人口は山口県で一番多く、推計人口は11月で25万1417人。世帯数は11万5187世帯。中古の戸建て賃貸への投資需要が高い。入居者は家賃が高くても新しく勤務地に近い物件を好む転勤族と、地元から離れたくなく、駅近で家賃が安い物件を好む地元民で二極化が進む。

上原不動産、中古戸建投資の売買の動き激化

 関門海峡を挟み、福岡県と隣接する下関市を商圏に約1900戸を管理する上原不動産(山口県下関市)はコロナ禍で外国人の入居が減ったという。下関駅近くに日本語学校があるため、インドネシア人とベトナム人による利用が多かったが、コロナ禍による帰国が多く約15件ほどの解約が発生した。いまだ外国人留学生が戻らないため、入居率自体も約2〜3%落ちている。

 同社に管理を委託するオーナーは約200人。そのうち8割が投資家系のオーナーで2割が地主系だ。下関市ではここ10年で中古の戸建てを購入する投資家が増えており、同社の管理物件でも約3割を占める。

 下関駅周辺エリアは山坂が多く、車が通れず駐車場がない物件が多いが、取得する投資家が後を絶たないという。地元育ちの入居者からのニーズがあり、購入費用が安い割に高く貸せるからだ。

 下関駅エリアは駐車場付きの賃貸住宅が少ないことから、多くの顧客は郊外を好む。実際に下関駅エリアに住むのは地元から離れたくない地元民と、証券会社などに勤める県外からの転勤族が中心だ。転勤族は会社に近ければ多少家賃が高くともよいという考えだが、地元住民は駐車場がなくとも駅から近く安ければ良いと考えており、二極化が進んでいる。

 家賃の相場は、単身者は1DK、1LDKがメーンで3万5000〜5万が相場だ。ファミリーは20〜40代がメーンで、3DKで4万5000〜6万円程度。

 現在、下関駅前では古い市営住宅を取り壊す計画が進んでおり、2022年12月からは立ち退き始まり、23年には解体される。跡地は再開発が予定されている。

 同社では下関市の人口の36%が65歳以上という現状を鑑みて、これからさらに高齢者向け賃貸のニーズが高まっていくと見る。「9月には住宅確保要配慮者居住支援法人の指定も受けた。入居の審査が厳しい方々へ住まいを見つけ審査を通すアシストに力を入れていきたい」(橋本千嘉子常務)

 

≪山口市の賃貸住宅事情≫
 山口県の県庁所在地。推計人口は11月時点で19万3051人。世帯数は8万7588世帯。山口大学があるため、学生からの賃貸ニーズが高い。また、その需要を見越しての新築物件が多く、供給過多の傾向にある。

アーバンエステート、山口大生需要も供給過多の傾向

 県内人口2位の県庁所在地である山口市を拠点に約1600戸を管理するアーバンエステート(山口市)では20年5月にミニミニ(東京都港区)とフランチャイズ契約を結んだ効果もあり、コロナ禍であっても来店数が20年比で2割増加した。

 同社に管理を委託するオーナーは約180人。投資家系オーナーが7割、地主系は3 割程度だ。山口大学があるため学生需要が高く、それを見込んだ投資が多い。

 学生向け物件は1Kが約9割を占める。家賃の相場は3万5000円程度だ。単身者の社会人は20〜30代がメーン。1K、1LDKに居住することが多く家賃相場は1LDKで5万円前後だ。ファミリーは30〜40代がメーン。3LDKの希望が多く、家賃相場は7万5000円前後だ。

 山口市はいくつかのエリアに分けられる。学生が多く、同社が拠点を置くのが市の南南東にある平川エリアだ。

 東部の大内エリアでは小学校が2つあり、エリア人口も多い。同時に供給も一番多いために空室率も高い。

 中部の湯田エリアは最近、田畑の売却があり、戸建て用に分譲され、ファミリー層から人気だ。築浅物件が多く、家賃相場も平川エリアより5000〜1万円ほど高い。

 西部の小郡エリアは新幹線が止まる新山口駅があるため、社宅代行会社が入る顧客の場合はこの近辺を希望することが多い。ここも築浅物件が多く家賃が5000〜1万円ほど高い。

 髙山浩樹社長は「大内エリアの農業試験場が3年後に防府市に移転する予定。この18.7haの官地の利活用により、人口が流入し、大内エリアの空室解消の起爆剤になる可能性もある」とコメントした。

アーバンエステート 髙山浩樹社長の写真

アーバンエステート
山口市
髙山浩樹社長(49)

 

 

≪岩国市の賃貸住宅事情≫
 人口は周南市に次ぐ第5位で推計人口は11月時点で12万7414人。世帯数は5万7823。自衛隊や米軍からの需要があるのが特徴。広島経済圏に入っており、家賃も山口市より1割程度高いが、反面学生需要は全くない。広島県の投資家から 需要がある。

スクエア、異動控えにより成約が3割減に

 広島に隣接し、自衛隊基地や米軍基地を擁する岩国市をメーンに約1900戸を管理するスクエア(山口県岩国市)ではコロナ禍の影響で異動控えが起き、通常の繁忙期と比べ成約が3割減ったという。また、法人関係以外でも、実家からの独立や同棲、結婚での引っ越しなどが減り、約1割成約は減少した。単身者では、5万円以下の低家賃帯の賃貸への反響が2割程度増えた。一方で家を購入した層が増えたことで、管理物件の退去も1〜2割増えた。

 同社に管理を委託するオーナーは約300人。感覚的には約8割が地主系オーナー、約2割が投資家系オーナーだが、ここ5年で投資家系オーナーが増えつつある。

 家賃は広島商圏に近い影響もあり、山口県下でも比較的高く山口市より1割程度高い。学生がおらず、単身者は社会人のみで20〜30代がメーン。1Kで3万5000〜4万5000円、1LDKや2DKで5万〜6万円後半が相場だ。ファミリーの場合は20〜40代前半が多く、3DKで5万5000円。

 岩国市内には米軍基地があり、一部は基地外に住むため、米軍の顧客も約5%を占めるという。「家具家電の備え付けや全室にエアコンを設置する必要などがあるため、同程度の物件と比べ家賃が4〜5割上がる」(安本渉社長)

スクエア 安本渉社長の写真

スクエア
山口県岩国市
安本渉社長(49)

 

 

≪宇部市の賃貸住宅事情≫
 人口は山口県3位。推計人口は11月時点で16万1308 人。世帯数は7万2650世帯。山口大学の医学部と工学部のキャンパスがあり学生需要が高い。また、医大周辺は医師や看護師からのニーズも高く、家賃が上がる傾向に。医大周辺の物件は投資家から人気が高い。

アイ・アール、学生の約9割がIT重説を希望

 山口市に隣接し、山口大学の医学部と工学部のキャンパスを擁する宇部市を商圏に約500戸を管理するアイ・アール(山口県宇部市)ではコロナ禍の影響でにより、体感で来店者が半減したという。成約数もそれに伴い減少した。在宅時間が増えたことから住宅購入者が増え、退去する入居者も増えた。

 20年から学生の場合は約9割がIT重説を希望するなど、来店を控える傾向にある。また、Iターン、Uターンの需要も出てきており、20年の夏には問い合わせが多かった。

 同社に管理を委託するオーナー数は非公開だが、地主系と投資家系が半々だという。宇部市は山口大学の医学部と工学部のキャンパスがあるため、その周辺は学生需要が高く、投資家に人気があり、空室も少ない。

 家賃の相場は学生向けの1Kで3 〜4 万円前後。単身者向けは20 〜30代がメーンで、1LDKの5〜6万円以下が人気だ。ファミリー向けは2LDK・3LDKで、相場は6〜7万円。ファミリーの場合は戸建て賃貸も人気で10件紹介する内の7〜8件は戸建て賃貸だという。

 ここ4、5年では、高齢者からの問い合わせが増加。今まで住んでいた古くからの戸建て賃貸がオーナーの高齢化により売却、取り壊しとなり立ち退きになるケースが増えているからだ。土岐山雪絵社長は「今までは月に1人来ればよかったのが、月に2〜3人は来店するようになった」とコメントした。

 

山口市で家賃値崩れ傾向あり

 山口県全域に約920戸を所有する島津和典オーナー(山口県周南市)の所有物件ではコロナ禍により入居が減ったが、退去も減ったことによりほとんど影響は出なかったという。

 島津オーナーが物件を多く所有する周南市では入居者は単身者とファミリーで半々。学生は1割程度だ。一方、同じく多く物件を所有する山口市では入居者の9割が学生だ。その他、下関市、宇部市、岩国市にも物件を所有するが、ファミリー向け物件はほとんど所有していない。

 山口市の学生向け賃貸は1Kで2万〜4万5000円が相場だ。一方、宇部市になると全体的に家賃は山口市より上がり、1Kで5000〜1万円相場は上がる。あまり物件数がなく、家賃の値崩れが起きていないからだ。

 山口市では学生向け物件の供給過多から値崩れが起きている。周南市内の物件も宇部市と相場はそう変わらない。周南市のファミリー向けは2DK〜3LDKとあり、家賃も3万〜9万円と幅広い。

 周南地域は山口県でも最も工場が多い地域なため、そこに勤務する人が多い。

 ただし、社宅があったり、賃金の高さからハウスメーカーの家賃が高めの物件に住んでいる場合が多いという。

 新築は家賃が40年以上前から少しずつ値上がりしている。ハウスメーカーが新築を独占しており、建築費の上昇に合わせ採算を取るために家賃を高く設定するからだ。

 「人口減少に合わせ、最近では世帯数も減少している。新築が増え続けているので古い物件が取り壊されない限りは空室が増え、家賃が下がっていくと予想する」と島津オーナーはコメントした。

島津和典オーナーの写真

島津和典オーナー(62)
山口県周南市

 

(2021年12月27日7面に掲載)

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