賃貸市場、コロナ禍の影響は?エリアルポ~山形編~

山形市農業協同組合, 太平堂不動産, 西山不動産, 東洋開発

管理・仲介業|2021年12月22日

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 新型コロナウイルス下の各地の影響をルポする本企画。今号は山形県の賃貸マーケットの現状をレポートする。3世代同居率が日本一高い県としても知られ、賃貸住宅の需要は独身世代向けが中心という印象がある山形県。主要都市である山形市、酒田市、米沢市の地場不動産会社4社とオーナーに話を聞いた。

米沢市、工事関係者増で住宅不足

 山形県の統計結果によると総人口は105万4625人(11月1日時点)。1950年の約135万7000人をピークに、一時期増加傾向に転じたものの、現在は減少傾向にある。一方、世帯数は39万9901世帯(11月1日時点)で、5年前と比較し4798世帯増加している。

 総務省の「平成30年住宅・土地統計調査」によると、山形県内の賃貸住宅戸数は11万2500戸(空き家を含む)。国土交通省の「住宅着工統計(年度次)」によると新築住宅の着工数は20年は1273戸。5年間の推移を見ると17年の2152戸をピークに減少傾向にある。

≪山形市の賃貸住宅事情≫
 人口は24万6211人(21年11月1日時点)で世帯数は1万3373世帯。4年間の推移を見ると人口は減少傾向、世帯数は微増だ。東北エリアの産業の中心である宮城県仙台市へは車で1時間前後と比較的近い。東北に営業所を持つ企業は、仙台市と山形市の営業所を統合する傾向も見られ、法人の流入については減少傾向にあるようだ。

山形市農業協同組合、2週間の休業も問い合わせは増

 管理戸数3052戸と県内で最大の管理規模を誇る山形市農業協同組合(山形市)では、コロナ下において大きな影響はなかったという。ただ、山形市内のコロナ感染対策への意識が強く外出人口が激減。20年4月17日〜5月10日のうち、営業日の2週間で店舗休業を行った。この休業期間の影響で、新規の入居が減り、一時的に入居率が1%減少。93〜94%台に落ち込むも、現在は回復し95%となっている。

山形農業協同組合の本社外観写真

山形市農業協同組合の本社外観

 同社が拠点を置くのは県庁所在地の山形市。山形市農業協同組合の会員が所有する賃貸住宅の資産運用を目的として不動産の管理や仲介を行っている。管理エリアはJR奥羽本線「山形」駅を中心に半径3.5km圏内。管理物件は、ファミリー向けが約84%、単身者向けが約16%を占める。

 管理物件の入居者属性は、個人が8割、法人が2割を占める。家賃平均は、新築で8万〜10万円。築30年台では4万円前後で入居可能な物件もあるという。

 コロナ下で感じた変化について大山敏弘代表理事組合長は「肌感覚ではあるが、コロナ前と比較しメールでの問い合わせが2割程度増えた。DX(デジタルトランスフォーメーション)化が進む時代背景にコロナ下の外出自粛が後押ししたのではないか」と話す。

 自社サイトへの訪問数も、月間平均3万件とインターネット流入が増加。コロナ前は月間平均2万件がピークだったという。

 新築も手がける同社は、今後も他社新築物件との差別化を意識したコンセプト型住宅などの展開を推進していく方針を掲げる。家賃の高い新築は主に法人需要を獲得できるうえ、同エリアではサッカーやバレー、バスケットボールなどのプロスポーツ選手が入居する傾向にあるといい、同層の獲得も意識していくとする。

太平堂不動産、カップル需要増住環境見直しか

 管理戸数約800戸の太平堂不動産(山形市)では、21年7月以降に同棲カップルや結婚後の住まいを探す顧客がコロナ前と比較し2〜3割増加している。同社グループ管理部の武田千絵子次長は「外出自粛で滞在時間の長い住環境の見直しや、外で会えない分、同居の選択を取る傾向にあるのでは」と語る。

太平堂不動産の本社外写真

太平堂不動産の本社外

 同社の入居者属性は個人が約70%、法人が約30%。個人のうち、社会人が80%、学生は20%を占める。管理物件の家賃は、単身者向けが2万8000〜7万5000円、ファミリー向けが3万5000〜12万5000円となる。

 同棲カップルの需要増加のほかに、コロナ下でネットからの問い合わせが増加しているという。武田次長は「コロナ前からネット検索からの流入の傾向は高まってきていたが拍車をかけた印象。ネット上で内見希望物件を絞って来店する顧客が増え、来店成約率は65.2%とコロナ前と比較し12%アップした」と話す。

 ネット検索が主流の現在に、アピールできる物件画像の掲載が求められると同社はみる。注力しているリノベーションやリフォームを引き続き推進していく方針だ。

 

≪米沢市の賃貸住宅事情≫
 人口は8万466人(21年11月1日時点)、世帯数は3万3387世帯。4年間の推移を見ると人口は減少傾向、世帯数は微増だ。中核工業団地「米沢八幡原中核工業団地」への企業誘致で、東北エリアでも有数の工業の街。法人の流入が多いため、駅前に立地する賃貸の家賃は首都圏と変わらない価格設定なのが特徴となる。

西山不動産、公共施設などの建て替え相次ぐ

 管理戸数1300戸の地場大手不動産、西山不動産(山形県米沢市)では、物件不足に悩んでいる。西山和子社長は「法人向けに貸し出す高価格帯の物件に空きがない。公共施設の建て替え工事などの時期が重なり工事関係者が一斉に流入。自社サイトに掲載できる空室物件が100件を切っている」と語る。管理物件の入居率は95%だ。

 同社の管理物件の入居者属性は、個人が7割、法人が3割。ただ、個人の中にも、会社からの家賃補助を使用した契約が多く、価格帯の高い法人向け物件への入居者も含まれる。個人のうち、社会人が8割、学生が2割となる。

西山不動産の本社外観写真

西山不動産の本社外観

 管理物件の平均家賃は、法人単身者向けで駐車場1台分込み6万円前後。個人単身者向けは駐車場2台分込みで約5万円だという。コロナ下で家賃変動は大きく起きていないが、法人の借り上げる物件の上限家賃が1000〜3000円ほど下がっている傾向がある。

 コロナ下で工事が重なっているのは、市役所や市立病院の公共施設に西山不動産公共施設などの建て替え相次ぐ加え、民間企業が誘致した太陽光パネル設置の工事だ。長い工事で2年後の23年まで続くといい、法人向け賃貸の供給不足が懸念される。だが、このための新築供給を同社で推進するめどは立っていないという。

 西山社長は「ハウスメイト」や「ピタットハウス」など全国展開するフランチャイズチェーンにも加盟し、首都圏に住む人からの検索にヒットする工夫も凝らしている」と語る。法人需要の高いエリアで、間口を広げることにも意欲を見せた。

 

≪酒田市の賃貸住宅事情≫
 人口9万8964人(21年10月31日時点)、世帯数は4万2525世帯。4年間の推移を見ると人口は減少傾向、世帯数は微増だ。日本海に面した立地で、物流の拠点として発展した酒田港があるエリアだ。賃貸住宅を利用する法人の流入が減少傾向にあるという。

東洋開発、法人需要低迷でファミリー層減

 管理戸数2122戸の東洋開発(山形県酒田市)では、コロナ禍による直接的な影響ではないが、18年ごろから低迷していた法人の流入に回復の兆しがないという。板垣卓渡取締役は、「人口減少時代における企業の人材確保の傾向から、退職のきっかけの一つにもなる転勤を極力減らす傾向が出てきたのでは」とみている。なお、同社の売上高に影響は出ていない。

 特に法人のファミリー層の移動が減少気味で、価格帯の高い分譲賃貸や戸建て賃貸など繁忙期の2〜3月には埋まっていた印象の物件が、18年以降埋まりにくい状況が続き、コロナ下でも変わらないという。ファミリー東洋開発法人需要低迷でファミリー層減向け物件の2LDKで家賃は7万〜10万円だ。

 同社は個人7割、法人3割を仲介するが、この法人の割合が17年から1割減少したという。

 管理物件の入居者属性は、社会人9割、学生が1割となる。新築を除く物件の平均家賃は、単身者向けで3万5000円(駐車場1台分込み)、2人以上向けで4万5000円(駐車場2台分込み)となる。家賃変動は2〜3年間の推移で2000〜3000円減少。町自体の人口減少と法人移動の減少が理由のひとつのようだ。

 酒田市エリアの家賃減額傾向を受け、管理料の売り上げへの影響を警戒する。同社では今後、別エリアでの新規事業展開も推進していく。世界自然遺産として登録されている沖縄県西表島に、自社所有のホテルを22年4月に竣工予定。ホテル事業を新たな柱の一つとして稼働させていく計画だ。

 

旅行代理店が半年間家賃滞納

 山形市内に全3棟45戸を所有する菅原貴博オーナー(宮城県仙台市)は、コロナ下も全物件満室稼働を維持。1件、事務所利用案件の家賃滞納が発生したが、現在は完済し入居を続けている。

 事務所の家賃滞納が発生したのは20年3月ごろ。同年9月に完済となったが、約6カ月の滞納だった。事務所利用で入居していた旅行代理店で、コロナ下の外出自粛が売り上げに大きなダメージを与えたと予想される。経済産業省管轄の中小法人、個人事業主向け月次支援金により、滞納分の回収に至ったという。

 菅原オーナーの物件の一つには、山形大学や東北芸術工科大学などに通う学生向けもある。コロナ下で学生全体の引っ越し需要が低迷していたが、同物件は満室稼働だ。「山形市エリアの学生向け物件は、木造や軽量鉄骨構造が多い中、RC造の家具・家電付きという設備面での差別化を図ったことが、満室につながったのでは」と菅原オーナーは分析する。

 コロナ下で引っ越し人口が減少すると、人気の物件から埋まっていく構造になる。菅原オーナーは、「ヒエラルキーの上層に位置付けられる魅力のある差別化物件に仕上げて入居率を安定させていきたい」と語る。

菅原貴博オーナーの写真

菅原貴博オーナー(50)
宮城県仙台市

 

(2021年12月20日7面に掲載)

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