入居者の孤独死発生時のリスクに備える死後事務委任契約。国土交通省と法務省から契約書のモデルが発表されており、推定相続人がいない場合には管理会社が受任者となることも期待されている。死後事務委任契約も活用しながら、孤独死発生後の残置物処理や契約解除に取り組む不動産会社の事例を紹介する。
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自分の死後に発生する葬儀や埋葬などの手続きを信頼できる人に委任する契約。国土交通省と法務省が賃貸管理会社やオーナー向けに発表した「残置物の処理等に関するモデル契約条項」は、委任者である賃借人が、自身の死後の賃貸借契約の解除や残置物処理を受任者に委ねる内容となっている。締結の主な目的は、入居者の孤独死発生時に推定相続人が見つからなくてもスムーズに原状回復を進め、次の募集につなげること。 |
高齢者受け入れに活用
委任契約の受任者 管理会社は適切
死後事務委任契約を締結することで、孤独死発生後に法的リスクを避けながら賃貸借契約解除・原状回復を進めることができる。高齢者の入居を進める管理会社のなかには、リスク回避のために死後事務委任契約を活用する会社も出てきている。
死後事務委任契約においては、賃貸管理会社が入居者から委任を受けた受任者となることも想定される。受任者になると、賃貸借契約解除や残置物処理の対応を行うことができるようになる。国交省と法務省が共同で策定した「残置物の処理等に関するモデル契約条項」(以下、モデル契約条項)では、受任者として推定相続人、推定相続人がいない場合には居住支援法人や賃貸管理会社などの第三者が想定されている。国交省住宅局参事官付マンション・賃貸住宅担当の船田一元課長補佐は「モデル契約条項は法令で義務付けられるものではないが、国交省と法務省が共同で策定したものだ。死後事務委任契約で管理会社が受任者となり得ることも、法的に可能であると捉えてほしい」と話す。
4年で実績50件 「メリット多い制度」
220戸を管理するキャピタルハウス(東京都中央区)は、モデル契約条項が発表された2021年から、死後事務委任契約の締結に取り組む。25年8月21日時点で累計50件ほどの契約を締結。実際に残置物を処分したケースも5件ある。
同社は高齢者や外国人といった住宅確保要配慮者(以下、要配慮者)の入居受け入れに力を入れている。全入居者に占める高齢者の割合は2割ほど。18年に見守りサービスと孤独死保証のセットプランをつくり、21年からは65歳以上の単身者で身寄りのない人、もしくは生活保護受給者に対しては、同セットプランと死後事務委任契約の締結を入居条件としている。
契約書は、モデル契約条項を参考に、国交省に電話で問い合わせながら自社で作成した。残置物処理と賃貸借契約解除の両方を定めている。死後事務委任契約を締結している場合は、孤独死発生後すぐに賃貸借契約の解除・残置物処理の手続きを開始するという。本店の坂本勉店長は「身寄りのない賃借人にとって、死後事務委任契約にはデメリットも負担もない。オーナーのリスクも当社の業務負担も減らすことができる、メリットの多い制度だと考えている」と話す。
残置物のみ定める 緊急連絡先に通知
残置物処理に関してのみ死後事務委任契約を活用するケースもある。民間・公営合わせて2400戸を管理する志乃丘商事(石川県小松市)は、残置物処理に関する死後事務委任契約をこれまでに20件締結(8月7日時点)。賃借人の利益に配慮しながら、次回募集までの速度を上げる。
志乃丘商事では、管理する賃貸住宅の半数にあたる1200戸が公営住宅だ。公営住宅の入居者は6割以上が65歳以上であるため、高齢者入居の孤独死リスク対策は必須となる。契約書は、篠岡沁一郎社長がモデル契約条項を参考に作成。賃貸借契約の解除に関しては、定期借家契約とすることで孤独死後に契約解除ができないリスクを減らしている。
顧問弁護士と相談しながら契約書を完成させ、24年から65歳以上の単身入居者を対象に締結を依頼し始めた。締結に応じるのは7~8割だという。残置物の撤去費用は家賃債務保証で賄う。高齢者の入居時は残置物処理費用が支払われる家賃債務保証契約を必須としている。
死後事務委任契約を締結していても、孤独死発生時には緊急連絡先に郵送で通知する。残置物の確認などが必要な場合は1カ月以内に同社に連絡するよう依頼。篠岡社長は「残置物の処理後に相続人が名乗り出てくることも考えられ、リスクはゼロではないと思う。それでも、残置物のために孤独死発生後の空室期間が延びれば、単身高齢者を入居させるのが難しい。可能な範囲で賃借人やその相続人の意思を確認している」と語る。
相続人捜索の負荷軽減に効果
転貸では契約不可 戸籍閲覧の場合も
サブリースを行う場合、受任者となることはできない。4万2000戸を管理する三好不動産(福岡市)のグループ会社で、物件の借り上げで要配慮者の住居を確保するNPO法人介護賃貸住宅NPOセンター(同)では、孤独死発生時には何らかの方法で相続人と連絡をとる。
孤独死発生時に相続人の連絡先が不明な場合は、戸籍を取り寄せることもある。戸籍を頼りに隣県の相続人の住所を訪ねたともあるという。生活保護受給者なら、行政に相続人への連絡を依頼する。安田豊事務局長は「定期的な入居者訪問時に、さりげなく親族との関係性や死後の葬儀の希望を聞いておく。一部の方とは、散骨や納骨の死後事務委任契約を締結している。20年前から居住支援を行っているが、これまでは孤独死発生時には相続人の意向を確認することができている」とコメントした。
(中村)
(2025年9月8日1面に掲載)





