賃貸借契約の完全電子化が業界で普及するためには、関連して発生する契約の一つである家賃債務保証業務のオンライン化も必須といえよう。今回は年々利用率が上昇している家賃債務保証会社のDX(デジタルトランスフォーメーション)化の推進状況について6社に取材し、完全電子化の可能性を探った。
賃貸借契約の電子化見据えた動き
日本賃貸保証、代理店の業務軽減自社システムで直接契約
賃貸借契約の電子化の全面解禁を見据え、すでに家賃債務保証契約の申し込みや契約のオンライン化を実現する会社が出てきている。
日本賃貸保証(以下、JID:千葉県木更津市)では、2020年10月より、自社システムの「JID-WEB(ジェイアイディウェブ)」を通し、入居者との電子での家賃債務保証契約(以下、保証契約)に対応している。代理店である賃貸仲介会社は、電子契約ページへのリンクが記載されたSMSやメールを入居者に送付することで入居者自身で契約を完了することができる。そのため代理店は保証契約の業務負担が軽減される。
JID-WEBは自社開発システムで、本格的な運用は20年10月から開始した。JID-WEBで行えるのは保証契約の締結のほか、申し込み・契約状況の確認、審査状況の確認、各種契約書のダウンロードなどだ。
JID-WEBによる電子契約はSMSを介して行う。代理店は、賃貸借契約時もしくは賃貸借契約後に入居者情報をJID-WEBに入力。入力後は自動で入居者へSMSが送られ、入居者とJIDの間で契約を行うことが可能だ。
SMSから電子契約ページに入った入居者が行う操作は三つ。代理店が入力した情報に相違がないかの確認、約款への同意、保証料の支払いへの同意だ。いずれの項目もチェックボックスにチェックを入れることで、確認と同意を得たものとする。従来、代理店で行っていた、保証委託契約書の記入や保証会社へのファクス、入居者への契約書原本の郵送業務などがなくなったことで、1件あたり10~20分ほどの業務時間を減らすことが可能になったのではないかと同社では分析する。
梅田真理子社長は「電子契約はファクスでの契約の取り交わしと比較し、誤字脱字などのケアレスミスが防げたり、ファクスを往復することで文字がつぶれて読めなくなるなど、人為的なミスを防ぐことができる」と話す。
一方で、電子契約の実施率は全体の契約のうち17%にとどまり、特に中小の不動産会社での普及にハードルを感じており、使い慣れた紙面契約から電子契約への切り替えに腰が重い状況という。
同社では電子契約の実施率を向上するため、21年4月から月に1~2回程度、電子契約のやり方などを伝えるオンラインセミナーを開催している。参加者にはウェブ用カメラをプレゼントするなどで参加を促進し、毎回20~50社ほどの参加がある。
21年10月時点の売上高は110億1600万円。同時点での保有契約数は58万件で、新規の年間契約件数は約9万5000件。代理店社数は2万9000件ほど。
日本賃貸保証
千葉県木更津市
梅田真理子社長(49)
エルズサポート、代理店向けシステムをリニューアルオープン
エルズサポート(東京都新宿区)では、電子申し込みが可能な新商品な「LACTii(以下、ラクティ)」とリニューアルした代理店向けシステム「LACTii KANRI(以下、ラクティカンリ)」の提供を開始し、保証業務の電子化を進める。申し込みや契約状況の確認がウェブ上で行えるようになったことで、ファクスでのやりとりが削減されるなどエルズサポートと代理店両者で業務効率化が促進されるという。
ラクティは電子申し込みや電子解約が可能な保証商品で、ラクティカンリでは契約や審査状況の確認などが可能だ。
電子化の推進の理由は、業務の効率化にあたる。ラクティの提供前は申し込みはウェブ上で行えず、基本はファクスで取り交わしていた。例えばファクスで申込書が送られてきた場合、同社は旧システムに手入力で審査対象者の情報を転記する必要があった。だが代理店がウェブ上で申し込みなどが行えるようになったことから、ペーパーレス化が進んだ。
加えて代理店側もラクティカンリにアクセスすれば申し込みや契約を行えるため、ファクス送信の必要がなくなる。そのほか入金報告などの各種手続きなどの機能を一括して利用できることから、代理店側の作業効率にもつながっている。
代理店のうちリニューアル後のシステムへの切り替えが完了したのは30%程度。エルズサポートの営業本部の田原勇部長は「リニューアルが不動産会社の繁忙期前に重なってしまったため、切り替えが遅れているが、22年夏ごろには100%を目指す」と話す。
21年9月期の売上高は53億1500万円。22年2月時点の保有契約数は22万8000件で、年間の新規契約数は6万2000件。代理店社数は1万6300社。代理店である不動産会社の規模感は、管理戸数100~1万戸超。
ジェイリース、現場社員が効率化実感 電子化促進意識を醸成
ジェイリース(大分市)では、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入し、日々もしくは毎月発生する固定業務を自動化した。固定業務を行っていた社員が自動化による作業時間の削減を実感したことで、他業務での電子化を促進する意識の醸成につながった。
RPAは19年に導入した。自動化しているのは代理店情報の取り込み作業など。RPAの導入で、社員1人あたり1時間ほどの作業時間の削減につながっている。
同社がRPA導入による効果を実感しているのは、作業時間の削減だけではなく、社員ひとりひとりの電子化を促進する意識の醸成につながったことだ。経営企画部の川上統部長は「RPAによる自動化のメリットを肌で感じたことで、『この業務も自動化できないか』と社員からボトムアップで意見が出るようになった。これからデジタル化・DX化を進めるにあたり社員の電子化への意識が高まったことが一番の成果」と話す。
同社ではRPAのほか、19年に電子保証申し込みを導入し、代理店の入居申し込みシステムとの連携や、電子契約の導入で、代理販売委託契約のペーパーレス化を行っている。それにより、代理店の作業量が8割程度減少したとみている。
21年3月期の売上高は76億円。家賃債務保証の保有契約数は66万件ほど。年間の新規契約数は13万6000件だ。代理店社数は1万9000社。
(2022年4月4日4・5面に掲載)