20年間家賃下がらず
1981年創業の久里屋設計(愛知県名古屋市)は、注文住宅や店舗、商業ビルなどの設計監理を事業とする。2000年頃から、地主の土地活用として賃貸住宅を手がけることが増え、なかでも実績の多いRC造の賃貸マンション設計数は、累計約100棟に上る。
同社が設計を手がける建物は、名古屋市北部・中央部、愛知県尾張エリア、岐阜県南部に多く、耐火性・遮音性を重視するためRC造が大半を占める。市場への供給数が比較的少ない1LDK・2LDKの間取り設計を得意とし、DINKS・ファミリー層の入居者を獲得している。大塚勝久社長は「築年数が20年を超える物件もあるが、いずれも家賃の下落が少なく入居率も安定している」と自信を見せる。
03年3月に愛知県小牧市内で竣工した「ヴァルワール」もその一つだ。名古屋鉄道小牧線小牧駅からバス便で20分程度の同物件は、7階建てで、1LDK19戸と2LDK11戸の全30戸からなる。各戸の賃料は、入退去の経緯によりそれぞれ変動値が異なるが、家賃総額でみれば新築当時が188万8000円だったのに対し、24年12月末時点では186万6000円とほぼ横ばいだ。周辺にRC造の物件が少なく、オートロックなど都心部の物件と同等のセキュリティー性能を備えている点が、入居者に選ばれる理由となっている。
広めのウオークインクローゼットを設けた(ヴァルワール)
長期的な資産価値を維持するための設計コンセプトについて、大塚社長は「賃貸仲介の担当者への聞き取り調査に加え、注文住宅の設計で得られる、実際に住む人からの潜在的ニーズの把握を日ごろから怠らないことが肝要だ」と話す。
計画地域内における競合物件との類似も避ける。昨今では名古屋駅周辺などの都市部において、1K・ワンルームを得意とするデベロッパーの開発が著しいが「需要を上回って供給される物件の行く末は、火を見るより明らか」(大塚社長)。地域における入居者属性と、それに合わせた専有面積、セキュリティーレベルを軸に設計を行う。
維持管理の側面から、寿命の長い材料を使い、雨漏りを防ぐため勾配屋根にするなどの工夫も加える。利回り確保の点では、初期投資費用の大きな部分を占める建築工事費を、妥当な価格で発注することも重要視する。そのため設計監理と施工を分離し、施工は競争入札で複数の施工会社から選ぶ。それらの結果、表面利回りはRC造で5~7%、木造で7~9%となっている。
久里屋設計
愛知県名古屋市
大塚勝久社長(73)
(2025年2月3日15面に掲載)