兵庫県の県南部は大阪市へのアクセスが良く、同時に県内にも企業や工場があることから勤務地が離れた共働き世帯などからのニーズが高い県だ。コロナ下では法人の異動が停滞するなどさまざまな影響があるが、市況はコロナ前に比べて回復しているのか。兵庫県で賃貸業を展開する4社とオーナー一人に話を聞いた。
≪兵庫県の賃貸住宅事情≫
人口は2021年11月1日時点で約543万人。世帯数は約241万世帯。20年11月比で人口は約6万人減少、世帯数は約1万世帯増加している。
≪神戸市の賃貸住宅事情≫
9の区から成り立っている。人口は151万8220人と県内で最も多く、県全体の約30%が神戸市の人口だ。市内には企業が多く、神戸市内で生活が完結する入居者が多い。
ハウスプロメイン、法人・外国人の低調で需要減少
管理戸数4600戸のハウスプロメイン(兵庫県神戸市)では、コロナ下において法人と外国人の需要が落ち込み、入居率が1%下落した。
同社は兵庫県内を中心に管理・仲介を行っている。管理物件は神戸市内立地が35%と最も高い比率を占める。家賃帯は、築年数にもよるが1Kやワンルームなどの単身者向けが6万円前後、3LDKや4LDKなどのファミリー向け物件全体で7〜10万円ほど。
コロナ禍による大きな打撃はなかったとするが、一部の法人需要や外国人需要が低下した。法人に関して、同社はメーカーなど、10社と提携している。年間の法人契約数は100〜150件ほど。20年はその法人契約数が1割減少した。三宮営業所の松谷隆幸所長は、「県外移動の自粛により、一部企業で異動控えがあった」と話す。
加えて、外国人需要に関しても、コロナ下における渡航制限により、例年30件ある外国人入居が消滅した。法人、外国人需要が減ったことにより、入居率が96%から95%へと1%低下した。
松谷所長は、「21年の法人契約は19年以前に回復した。このままコロナが落ち着けば、外国人需要も回復するだろう」と期待を寄せる。
飛鳥土地、派遣社員の退去雇用止め影響か
管理戸数約1400戸の飛鳥土地(兵庫県姫路市)では、コロナの感染が拡大し始めた20年3〜4月においてワンルームの稼働率が2割低下した。
飛鳥土地本社外観
同社は姫路市を地場に不動産業を行っている。管理物件のうち、姫路市所在の物件は9割以上を占める。姫路市から車で45分程度の場所に理化学研究所の事業所があり、そのほかにも姫路市内には工場が立ち並び、工業エリアとなっている。
入居者のうちワンルームの入居はほとんどが社宅利用だという。ワンルームの平均家賃は4万円だ。コロナで、工場に勤めていた派遣社員の退去が相次ぎ、ワンルームの空室率は20%増加した。全体の入居率は90%にまで落ち込んだという。小野善国社長は「工場勤めのうち80%ほどは派遣社員で構成されていると踏んでいる。姫路市内や近辺に勤めていた派遣社員が雇用止めとなり、退去に至ったのではないか」と話す。
ワンルームは全体の管理物件のうち10〜15%程度にとどまっており、業績への大きな打撃とはならなかった。だが、空室が増加したオーナーの収益確保のため、同社では家賃減額交渉や家具家電の導入を行った。家賃減額に関して、築30年以上の物件は特に入居付けができず、15%の減額となったという。
家賃減額、家具家電導入の結果、同年8月頃から入居率は上向きになり、現在では入居率95%までに回復した。入居に至ったのは、空室前と同じく工場勤めの人が多かったという。
飛鳥土地
兵庫県姫路市
小野善国社長(46)
≪尼崎市の賃貸住宅事情≫
人口は45万7513人と県内4番目。大阪市へのアクセスが良いうえに、家賃が大阪市と比較し5000円～1万円程度安いことから、大阪市のベッドタウンという側面がある。
アエラハウス、店舗仲介を強化成約30件と好調
管理戸数1500戸のアエラハウス(兵庫県尼崎市)では、店舗の仲介が伸長。21年11月現在で、賃貸仲介が20年対比700万円の増収となった。コロナ下で減収となったテナントが退去し、特に駅近など好立地の空き店を同社で積極的に仲介したことが要因だ。
同社は尼崎市を足場に賃貸管理・仲介、売買仲介などを行う。尼崎市は元々工業エリアだったが、20年ほど前に再開発が行われ、ショッピングモールが建設された。
また、大阪市のベッドタウンとしての役割を持つ。JR東海道本線「尼崎」駅から大阪市へ電車を使い10分圏内で向かうことができ、加えて相場家賃は大阪市よりも5000円〜1万円ほど安い。そのため大阪市に勤務する層からのニーズが高い。平均家賃は1Kやワンルームなど単身者向け物件で6〜7万円。1LDK〜4LDKのカップル、ファミリー向け物件で9万円だ。
コロナの感染が拡大した20年10月ごろから、駅前のテナントの退去が目立つようになったという。大浦崇弘社長は、「コロナ前まで長く空かなかった駅前の好立地な店舗が空室となったことを受け、店舗仲介に注力した」と話す。実際に入居希望の問い合わせが日に2〜3件ほど相次ぎ、19年以前は年に2〜3件ほどしかなかった店舗仲介が、20年〜21年にかけては約30件に上り、例年の10倍になった。
大浦社長はコロナ後について、「家賃補償など、コロナ下で発生した補償の返済が2〜3年後に始まることで、経済が低迷するのではないか。景気に左右されないよう、管理戸数を増加させ、ストック収入を増やすことで備えたい」と話した。
アエラハウス
兵庫県尼崎市
大浦崇弘社長(47)
≪西宮市の賃貸住宅事情≫
人口は48万4835人と県内3番目。市内には小学校が多く所在しており、企業が並ぶ大阪市や神戸市へのアクセスも30分程度で向かえる。そのためファミリー層からのニーズが高い。
クリアライフ、家族向けが苦戦 学期中移動避け
管理戸数700戸のクリアライフ(兵庫県西宮市)では、20年3月ごろから、ファミリー向け物件への入居付けが低迷している。法人で家族帯同の移動が減少し、単身赴任での引っ越しが増えたためだ。
同社は兵庫県内を中心に賃貸管理などを行っている。ファミリー向けのリーシングが苦戦しているのは、西宮市内の物件だ。管理物件のうち西宮市の物件は10%程度だが、ファミリー層は長期入居につながりやすいことから空室のままなおざりにはできない。
西宮市の物件はファミリー層からのニーズが高い。市内には小学校が40校あるうえに、企業が並ぶ神戸市や大阪市に、それぞれ電車を使って30分ほどで向かえるためだ。相場家賃は10万円程度。
阪急西宮北口駅の様子(提供:西宮市役所)
同社では、20年3月においてファミリー向けの管理物件の成約件数がコロナ前に比べ30〜40%低下した。背景に、コロナ下で企業の異動が春期に行われなかったことが関係しているという。例年3月ごろに40件発生する法人仲介は、家族帯同する場合がほとんどだった。だが、20年はコロナ感染が拡大し始めた頃だったため、企業が異動を控えた。結果的に21年11月から異動は行われたものの、小学生の子どもを持つファミリー層は小学校の学期末とずれたことから子どもの学期中での引っ越しを避け、単身赴任を選ぶ家庭が多かったという。
同社の四條隆哲氏は「コロナは収束へ向かっているように思うが、新たな変異株が発見されるなど未だ不安定。22年の春も20年と同様になるのではないかと懸念している」と話す。
シェアハウス稼働半数以下
関西を中心に会員約300人を擁するドリーム家主倶楽部(兵庫県伊丹市)の代表、加藤薫オーナー(同)は、所有するシェアハウス物件の稼働率がコロナ下で低迷し、現在も回復していないという。加藤オーナーは「密による感染リスクを避けているのでは」と推測する。
加藤オーナーは専業家主として28棟217戸の賃貸住宅を所有している。住宅のほか、シェアハウスや店舗も所有。いずれのエリアも関西圏のみで、兵庫県内が7割、大阪府2割、京都が1割という内訳だ。単身者向け物件で4〜6万円、ファミリー向け物件で約10万円の価格帯が多い。
シェアハウスは伊丹市内に1棟所有しており、間取りは7LDKで、ワンルームの部屋が7つある。阪急電鉄伊丹線「伊丹」駅から徒歩8分程度の場所に位置している。入居者は20〜30代の社会人がほとんど。特に、伊丹駅から県外へ出るには乗り換えの必要があるため、伊丹市内に勤務する人が多いという。外国人の入居も受け入れている。
コロナ前は満室で稼働していたが、20年6月以降より退去が続き、現在も入居者数が2〜3人にまで低下している。他人と居住スペースを共有していることによる感染のリスクを忌避したり、中国人の入居者が帰国したことが要因だ。
加藤オーナーは「最近ではコロナの感染者数も落ち着き始めたが、いまだ感染リスクを避けたいと考える人が多いのか、入居申し込みは少ない」と話し、稼働率の回復は現在も見込みがない状況だ。
一方で、所有する賃貸物件では行政の補助があったことで家賃の滞納などはなかった。
今後は、25年に開催する大阪万博を目的に来阪した観光客が、隣接する兵庫県内へ流入することを見据え、店舗物件の仕入れ強化に注力していきたいとしている。
ドリーム家主俱楽部
兵庫県伊丹市
加藤薫オーナー(51)
(2021年12月13日9面に掲載)
