空き家が深刻化し社会的な問題となっている中、SDGsの視点からも空き家を活用したビジネスが注目を集め始めている。空き家活用にビジネスチャンスはあるのか。実際に携わっているトップランナーにビジネスモデルや採算性について聞いた。
空き家数846万戸で過去最高
総務省が5年ごとに行っている「住宅・土地統計調査」によると、2018年の空き家数は846万戸と13年と比べて26万戸(3.2%)の増加となっている。総住宅数に占める空き家の割合は13.6%と、13年から0.1ポイント上昇した。空き家数も空き家率も過去最高となっている=グラフ1参照。
08年までは共同住宅の空き家の伸びが顕著だったが、以降は微増にとどまっている。一方で、戸建ての空き家数は右肩上がりで増加を続けており、空き家問題はさらに深刻化することが予想される=グラフ2参照。
ここからは、空き家活用のトップランナーがどのようなビジネスを展開しているのかを具体的に紹介していく。
和工房、所有者と投資家をマッチング
3カ月で相談件数が94件
アパートの建築やリノベーション、空き家再生などを手掛ける和工房(愛知県半田市)は、岐阜県や三重県を中心に94件の空き家を再生し、賃貸住宅として活用してきた実績を持つ。
現在、力を入れているのが、8月に開始した「ヤモタス」だ=図1参照。投資家が改修費用を負担し、もとの所有者から空き家を借り上げ、賃貸住宅として運営する。資金面の問題から所有する空き家の活用に踏み切れない所有者のために、自身の負担は0円で空き家を再生できるうえに、賃料収入を得られるモデルを構築した。
サービスの流れは、①投資家が閲覧できるサイト上に、オーナーから依頼があった物件の情報を公開②投資家が投資したい物件を選び改修費用を支払う③改修後に賃貸住宅として運用を開始、の3段階。
戸建て住宅を対象としており、改修費用は平均250万円程度を想定。着工から2〜3カ月ほどで入居可能な状態に仕上げる。リーシング後は、改修にかかった費用に応じて、賃料の5〜9割を投資家が、1〜5割をオーナーが受け取る。借り上げの契約期間は13年を基本としている。
サービス開始から5カ月ほどで、すでに92件の問い合わせがあった。そのうち8割は、40代後半から50代のサラリーマンや主婦を中心とする空き家の所有者からで、その9割以上が相続済みもしくは親が介護施設などに入居済みで空き家となった物件に関する相談だ。現在、40数件が検討中、8件の契約が確定している。残り2割は空き家を活用した賃貸住宅への入居希望者からの問い合わせだ。
22年1月末には1件目の物件の改修が完了する予定。対象となるのは、愛知県名古屋市中川区にある最寄り駅から徒歩15分、築40年超の戸建て物件。所有者は親から物件を相続した40代後半の女性。改修費用は約320万円、貸し出し賃料は8万5000円を予定している。運用する投資家は名古屋市在住、50代後半のサラリーマン家主だ。
また、同じく8月から「シングルマザー大家業プロジェクト」も開始している。シングルマザーを対象に、空き家を活用した家主業をサポートするというサービス。空き家再生事業の拡大に加え、シングルマザーが長期的に安定した収入を得られる手段を提供することで社会問題の解決にもつなげる狙いだという。
同プロジェクトでは、空き家の見学、資金調達、家主業についての学習、空き家再生完了後の入居者募集までトータルで支援する。一定期間内に家主業の継続が難しくなった際には、物件の買い取りも行う。
空き家を購入して家主業を行う場合、改修費用を含めて、総投資額は500万円前後が目安となる。また、同社が展開するヤモタスを利用した場合、空き家を購入しないので、80万円程度から賃貸経営が可能になる。
松久保正義社長は「改修費用が掛かりすぎる場合は、賃貸住宅としての運用が難しい。その場合は、売却をサポートして、少なくとも市場に流通させることが重要」と話す。
和工房
愛知県半田市
松久保正義社長(41)
空き家コンシェルジュ、支援団体と情報共有し生活困窮者らに住居を
空き家に関する相談を無料で受け付け、建築や税務、法務などの各専門分野からアドバイスおよびサービス提供を行う、NPO法人空き家コンシェルジュ(奈良県橿原市)は、19年から「空き家×居住支援サブリース・居住支援コーディネート会議」モデル構築事業に取り組んでいる=図4参照。
これは、居住支援を必要とする人と空き家をマッチングするプラットフォームを整備する事業だ。有江正太代表は「空き家を活用した賃貸住宅への入居相談の4割ほどが、居住支援が必要であると推測される条件を提示する人たちからのものだったため、両者のマッチングによる問題解決を考えた」と話す。
同社では奈良県や大阪府、和歌山県、徳島県などで空き家を活用した賃貸住宅のサブリース事業を手掛けている。累計300件以上の実績を持ち、現在は約130件の入居中の物件を運用している。賃料のボリュームゾーンは3〜5万円。賃料の安さから、一般的な賃貸では入居審査に通りにくい、生活困窮者や高齢者の入居が目立ち、DVなど過酷な家庭環境から逃れるための入居も一部ではあるという。
同事業に関して、同社がまず取り組んだのは、居住支援にかかわる福祉団体の現状把握だ。奈良県内にある156の団体に、居住支援の実績や課題に関するアンケートを依頼したところ131件の回答があった。
各団体が行っている支援内容は生活支援から行政手続き代行、見守りなど多種多様だが、支援対象者からの住まいの相談を受けたことがある団体は全体の77%に上った。さらに、「専門家等住まいの相談先の有無」については、63%が「いいえ」と回答。そして、57%が専門家との連携の必要性を感じていることが分かった。
こうした現状を鑑みて、同社は、不動産事業者と福祉団体が、居住支援を必要とする人の情報と彼らを受け入れられる空き家の情報を共有し、マッチングすることができるプラットフォームの構築に取り組んでいる。
7月には、空き家対策の課題解決を図る先進的な取り組みとして国土交通省の「令和3年度住宅市場を活用した空き家対策モデル事業」にも採択されている。22年からは、実際の案件に取り掛かり、ケーススタディを進めていく予定だ。
加えて、対応マニュアルや事例集などを用意して、空き家と福祉の両方の知識を有する相談員の育成を並行して進めている。また、福祉利用専門の空き家バンク開設も検討しているところだ。
有江代表は「自身が要支援者であることを本人が自覚していないケースも多く、要支援者と空き家をマッチングするだけでは限界がある。福祉団体と連携して、既存のセーフティーネットにかかっていない人たちをフォローすることが重要」と話す。
空き家コンシェルジュ
奈良県橿原市
有江正太代表(49)
(2021年12月20日4面に掲載)