入居者向けアプリなどの意思疎通ツールを比較 ~前編~

三井ホームエステート, パレットクラウド, 前田, スマサポ, 第百不動産, 日本情報クリエイト, タマキホーム, いい生活

企業|2022年01月31日

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 入居者への対応は、賃貸管理会社にとって業務効率化やコスト削減の効果を見込める業務の一つだ。入居者向けアプリ(以下、アプリ)や「LINE」などのコミュニケーションツールの選択肢が広がる中、各社、どのようにツールを活用し、効果をあげているのか。アプリの導入企業と、LINEを利用する企業の計7社に効果と課題を聞いた。

アプリで契約更新85%、郵送費267万円減

 入居者とコミュニケーションの機会を増やすことは、いち早く入居者の不満を解決することにつながり、結果的には長期入居やリピーターを狙うことができる。近年ではLINEといった気軽に連絡が取れるツールや、専用のアプリも登場してきた。アプリを実際に導入した場合、どのようなメリットがあるのか。まずは、アプリを活用する会社4社の事例を紹介していく。

三井ホームエステート、手続き速くなりスタッフ負担減

 全国で約3万6800戸(2021年12月末時点)を管理する三井ホームエステート(東京都千代田区)では、アプリとしてパレットクラウド(東京都渋谷区)が提供する「パレット管理」を活用。賃貸借契約の更新業務のオンライン化により、コストの大幅削減に成功した。

 同社の入居率は約97%。入居者の80%が個人で20%が法人。個人のうちの約55%が単身者、残りの45%がファミリーだ。

 アプリを導入したのは20年4月。現在、入居者の3割が登録済みで、アプリの利用料は非公開だ。賃貸借契約の更新や解約、修繕や苦情などに関する問い合わせに使っている。約半数がアプリ経由での問い合わせになっているが、最も利用されているのは更新機能だという。

パレット管理の契約更新ページ

パレット管理の契約更新ページ。アプリ上で完結する(提供:パレットクラウド)

 更新機能とは、アプリから直接賃貸借契約の更新手続きを行える機能。同社では東京エリアの個人契約を対象にアプリでの契約更新が可能だ。約85%がアプリ経由で手続きを行っている。

 アプリへの加入経路も契約更新がきっかけになっている。同社では新規入居時のアプリ加入率は約3割だが、更新の際にアプリに加入する入居者は約8割に上る。契約更新の案内の際に、はがきでアプリから更新が可能な旨を送り、加入を促している。この際に、アプリを希望しない入居者にのみ、郵送にて更新手続きを行う。

 アプリ導入前はすべての契約更新書類を郵送。東京エリアの個人契約のうち、紙での郵送が年間約4400件あったが、導入後は約650件と約15%にまで大幅に削減。結果、年間約267万円の郵送費用を削減できた。

 今後は、更新手続きのスピードアップにも期待する。紙の場合は更新書類の送付、返送、内容の確認後に押印し、また送付する作業が発生し、平均で約2カ月を要していた。アプリ経由では、機能的には即日で申請を終わらせることも可能だ。現状では月単位で案件を処理している関係もあり、アプリでも1カ月から2カ月弱は手続きに要する。

 入居者への対応においては、気軽にアプリ上から問い合わせができることから、逆に問い合わせが増えた。同社では、修繕に関する問い合わせについてはアプリからの問い合わせも含めてコールセンターが約8割対応している。同社で対応を行うのはコールセンターで対応しきれない案件のみで、各エリアの担当者が対応している。名義変更の依頼や解約の申し込み、設備に関する相談を含めた問い合わせは年間約3万件あるが、そのうち1〜2割がアプリからだ。軽微な修繕や苦情関係については感覚的に約1割多くなったという。課題は、営業時間外の問い合わせへの対応だ。アプリで時間と場所を選ばず問い合わせできるようになったため、営業時間外の連絡も増えている一方で、現場のスタッフはすぐに対応ができない。入居者にとっては営業時間外という認識が薄いため、なぜすぐに対応してくれないのか不満が生じることもある。

 営業推進部営業推進課の坂本泰亮課長は「営業時間外の旨を自動返信する機能があれば解決できる。近日、実装されるので期待している」とコメントした。

 

前田、電話問い合わせ月間で100件減少

 1都3県を中心に8458戸(21年12月末現在)を管理する前田(東京都渋谷区)では、スマサポ(東京都中央区)が提供するアプリ「totono(トトノ)」を採用し、電話問い合わせへの対応の負担が減った。

 同社の入居率は90%台後半。1Kが管理物件に多いこともあり、約9割が単身者だ。入居者の9割は社会人だが、そのうち約4割を水商売関係と外国人が占める。社会人以外は学生で1割未満。年齢層は20〜30代が8割となっている。

 アプリを導入したのは21年2月。アプリの利用料は非公開だ。アプリの加入者は3417人で約3割(14日時点)。加入の主な経路は新規入居の際の同社や客付けの仲介会社からの案内だが、契約更新の際やホームページやポスティングを通じたアプリの案内をきっかけに加入したケースも3割ほどある。

 入居者からの問い合わせ件数は21年12月で約1200件でそのうちアプリ経由は333件。同社では問い合わせへの対応は基本的に外注のコールセンターが対応し、コールセンターで対応しきれない案件を4人で対応している。

 アプリの導入1年で、電話での問い合わせ件数は月間で約100件減った。アプリの導入が進めばさらに減少すると同社はみる。

「トトノ」の問い合わせ画面

問い合わせ内容によってトーク画面も区分されている

 一方で、アプリから気楽に問い合わせできるようになったことで小さい疑問などの問い合わせが増えてきた。それでも同社は「入居者と連絡が取りやすくなったので問い合わせの増加は苦ではない」という。

 従来は入居者への連絡手段は電話を中心としていたが、若い年齢層の入居者では電話がつながらないことが多かった。アプリ導入により、連絡がつきやすくなった。中には、電話では1カ月は連絡が取れなかった入居者が、翌日か翌々日には返信をしてくれるようになった事例もあるという。

 対応の履歴が残るのもメリットだ。電話では「言った、言わない」になると録音データを探すのに苦労していたが、チャット形式なので検索も容易だ。また、電話やメールと違い部内全体で内容を共有できる。

 PM事業本部経営企画室の松川未央プロパティマネージャーは「電話だと連絡がつきづらかったり、反対に入居者からの熱量が高く、同じことを何度も言われたりと対応が進みにくく、担当者の精神面での負担も大きかった。アプリからだと、入居者も考えて文章を送ってくるので感情的になりにくく、社員の精神面の負担も軽減された」と話した。

 

第百不動産、利用料で収益増 即日対応も増加

 長崎県佐世保エリアで3004戸を管理する第百不動産(長崎県佐世保市)では、アプリの導入によって売り上げアップにつながっている。

 導入するのは日本情報クリエイト(宮崎県都城市)が提供するアプリ「くらさぽコネクト」だ。

 アプリを導入したのは19年9月。利用料は非公開だ。導入後は、新規の入居者ほぼ全員に加入してもらい、全体の管理戸数のうちの約3割にあたる938人が利用している。

 入居率は92.1%。単身者が58%、ファミリーが42%を占める。また、全体のうち学生が17%、自衛隊関係者が15%を占める。

 同社では、アプリの会費として月額2000円を入居者負担としているため、売り上げの増加にも貢献している。アプリ会員向けサービスの内容は対応地域店舗のクーポン券や商品情報の配信、24時間駆け付けサービス、会員限定のイベントなどだ。約660社の提携企業からは無償でクーポンを提供してもらっており、同社の負担はない。

 入居者への対応については一長一短だ。入居者からの年間1200件の問い合わせに対し、2人体制で対応をしている。アプリ経由の連絡が約360件と30%を占める。特に学生からの問い合わせはアプリ経由では6割を占める。

 修繕箇所や故障した機器の品番を入居者に撮影してもらうことにより、現場確認の手間が軽減した。結果的に対応のスピードアップにはつながっている一方、現場での負担は増えているという。チャットではメールと違って、対応のスピード感が問われるからだ。結果的にアプリ導入前より即日対応が増えた。

 アプリの導入により問い合わせを未然に防ぐ効果も出ている。入居者へのお知らせは今まで全戸にポスティングしていたが、現在はアプリ利用者にはアプリ経由で通知。加えて、大雨警報の発令や、寒さが厳しいときはパイプ凍結への対処方法など、ポスティングや掲示板での対応が難しかった内容もアプリで通知している。結果的にトラブルの発生を防いだり、対処の早期化につながっている。

「くらさぽコネクト」のお知らせ画面

アプリ経由で届けるお知らせはオーナーからも好評

 一方で、入居者が通知をオフにしてしまうとメッセージ配信に気が付かない場合もある。

 同社レスキューセンターの山内康平センター長は「空いた時間に問い合わせできるうえ、修繕事業者の訪問の回数も写真を送ることでかなり減ったので、入居者にとっても負担が減っている。電話や何回も問い合わせをするのが苦手な人からの反応が良い」とコメントした。

 

タマキホーム、現場確認不要に対応の期間半減

 約1500戸を管理するタマキホーム(沖縄県那覇市)では、いい生活(東京都港区)が提供するアプリ「pocketpost home(ポケットポストホーム)」を導入し、入居者対応期間が半減するなどの効果が上がっている。

 同社の入居率は98%。入居者の約8割がファミリーで、残りの2割が単身者。入居者の多くは20代半ばから30代半ばだ。

 アプリを導入したのは21年2月。同アプリの使用料はプランにもよるが月1万円(税別)からとなっている。新規入居者には必ず登録してもらうようにしており、現在入居者のうちの約3割にあたる500人ほどが加入済みだ。

 同社への入居者からの問い合わせ件数は、21年2月1日〜22年1月1日までで約2500件。そのうち、アプリ経由での問い合わせは600件と約24%を占める。アプリからの問い合わせには3人で対応する。現段階ではコスト面で感じているメリットはないが、対応完了までの期間は半分にまで短縮した。

 同社ではアプリ経由でない場合は、現場を直接確認したうえで事業者の手配をしていた。しかし、アプリを利用することにより、入居者が修繕が必要な箇所や、故障した機器類の品番を写真や動画で送ってくれるようになった。結果、管理担当者や事業者が直接現場確認に赴く必要性がなくなり、施工会社の手配が必要な案件では、対応完了まで2週間かかっていたのが、1週間で済むようになった。

「ポケットポストホーム」のトーク画面

入居者とのトーク画面。故障した機器の品番も写真を活用することでわかる(提供:いい生活)

 加入率の低さを課題としており、年内の加入率8割が目標だ。

 不動産管理部の下地貴之部長は「当社で導入しているアプリの場合、LINEと違い、こちら側の既読がつかないので都合のいいタイミングで返事ができる」とコメントした。

(2022年1月31日4面・5面に掲載)

関連記事▶入居者向けアプリなどの意思疎通ツールを比較【[前編][後編]】

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