環境配慮型の賃貸住宅 設備・エネルギー編

東京ガス,シーラ,ファイバーゲート,ユビ電,ヒナタオエナジー,ENECHANGE(エネチェンジ),ライナフ,アマゾンジャパン,ヤマト運輸

商品|2022年04月25日

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 2050年までに温室効果ガスの排出実質ゼロを目指す日本を含め、世界的に脱炭素への意識が高まっている。賃貸住宅においては、環境対策への取り組みと入居者サービスの向上を両立させる事例も出始めた。太陽光発電システムや電気自動車の充電設備を軸にサービスを展開する会社とその取り組みを紹介する。

共用・専有部に再エネ電力供給

厚さ2mmのパネルが強み施工時の穴開けも不要

 東京ガス(東京都港区)グループでエネルギー事業を展開するヒナタオエナジー(同)は、太陽光エネルギーサービス「ヒナタオソーラー」を20年10月より提供している。厚さ2mmの太陽光パネルが大きな特徴で、初期費用無料で導入可能なサービスだ。

ヒナタオソーラー

ヒナタオソーラーのスキーム図(ヒナタオエナジー)

 パネルが薄く、1㎡あたり約3kgの重量のため、壁面にも設置が可能だ。屋上への設置の際は防水層などに取り付けて使用する。重量や高さ制限で導入が難しかった物件にも設置ができ、施工時は穴開けが不要だ。屋根面積が200㎡程度必要になることが設置条件となる。

 標準条件では、初期費用は無料で施工期間は通常5日程度。太陽光で発電した電気は原則として、共用部の電力として使用する。太陽光で発電して利用した料金を月々の使用料として、ヒナタオエナジーが徴収。余った電力に関しては、ヒナタオエナジーにて売電する仕組みだ。太陽光発電では足りない共用部の電力も別途ヒナタオエナジーと契約して調達することが可能である。利用料金は案件ごとに提案を行う。標準契約期間は20年で、期間内の保守・点検もヒナタオエナジーが行うため、メンテナンス費用は発生しない。非常時の防災性を高めるために蓄電池を併せたセットプランもある。

 22年3月には、投資用マンション事業を行うシーラ(東京都渋谷区)が手がける東京都北区の投資用ワンルームマンションで、蓄電池と併せて採用されている。災害時もヒナタオソーラーの電力をUSBコンセントなどから入居者が使用できるようにする予定だ。

 住宅向けWi-Fiサービスを展開するファイバーゲート(東京都港区)では、新規事業となるエネルギー事業を推進していく方針だ。具体的な取り組みの一つとして始めたのが、マンション入居者への再生可能エネルギー由来の電力の供給である。建物屋上に設置された太陽光パネルで発電した電気を入居世帯に送電する。建物内には蓄電池も備えられており、日中に発電した電気を日没後も安定的に供給する仕組みだ。

ファイバーゲート

マンション内に設置された蓄電池(ファイバーゲート)

 入居者はファイバーゲートが提供している電力プラン「FG(エフジー)でんき」に加入することで、日常生活で使用した分の電気代を再生可能エネルギーで賄えるようになる。

 この仕組みを取り入れた第1号物件として、2月、埼玉県川口市に全12戸の重量鉄骨造3階建てマンションを竣工した。入居者は専用アプリ上で電気使用量を確認できるほか、IoT機器を介して家電の操作や玄関ドアのスマートロックの施解錠が遠隔でできる。入居者向け付加価値サービスとして実証実験を重ねながら、サービスの改良を進めていく。

EV充電課金サービスアプリで使用・支払いが完結

 電気自動車(EV)充電サービス事業を手がけるユビ電(東京都渋谷区)は、21年6月よりEV充電サービス「WeCharge(ウィーチャージ)」を提供している。

スマートフォンアプリ

WeChargeの専用アプリ画面(ユビ電)

 大きな特徴は充電器を販売しているのではなく、「WeChargeHUB(ハブ)」を通して一般的なEV用コンセントを制御し、WeCharge専用アプリによる課金・運用を可能にした充電サービスを提供する点にある。コンセントに添付するQRコードを専用アプリで読み込むことで充電が始まる。専用アプリと車両に付属している充電ケーブルがあれば、自宅以外のWeCharge対応のスポットでも充電可能だ。利用者はアプリ上で登録したクレジットカードで決済を行う。WeChargeを導入している物件のオーナーには利用された電気料金の相当額がユビ電から支払われる。WeCharge対応のコンセント1つを導入する場合、施設規模によって開きがあるが、充電設備本体、WeChargeHUB、電気工事費を含め、30~60万円程度。

WeCharge

WeChargeによる充電(ユビ電)

 一般的に高速道路などの急速充電の設置が先行し、集合住宅における自宅での充電設備の拡充に課題があった。WeChargeの場合は、200Vのコンセントに車両付属のケーブルを挿すだけで充電が可能であり、高額な充電器を設置する必要がないため、集合住宅にも導入しやすい。山口典男社長は「集合住宅を中心に夜間など駐車時間を活用したEV充電の環境を広めていきたい。加えて、宿泊施設など外出先でも充電できるよう環境を整え、どこでも自分の電気を取り出せるような未来を目指し、幅広い普及を目指す」と話す。

 22年1月末時点で都内を中心に40カ所の充電スポット、212のコンセントで導入実績がある。巣鴨の賃貸住宅マンションでは、付属の駐車場全4区画で導入され、1月から運用している。

 脱炭素社会をデジタル技術で推進する脱炭素テック企業ENECHANGE(エネチェンジ:東京都千代田区)は、21年11月1日より「エネチェンジEV充電サービス」の提供を開始した。集合住宅や施設、駐車場などの空きスペースに、EVの充電設備を設置し、運用までサポートするサービスだ。

エネチェンジEV充電

エネチェンジEV充電サービスの設置イメージ(ENECHANGE)

 料金プランは4種。充電料金の設定権や充電料金の還元、初期費用や月額費用の有無など、導入する物件のオーナーの意向により選ぶことができ、プランの途中変更にも対応する。期間限定で提供している「お試しプラン」は、充電料金を同社が設定し充電売り上げの還元がない代わりに、初期費用と月額費用が無料で、オーナーの持ち出しなくEV充電設備の導入が可能だ。

 利用者向けのスマートフォンアプリも、今後提供していく予定。アプリ上で充電料金の決済や、充電設備の場所・利用履歴の確認ができる。利用者からの問い合わせには同社が対応し、オーナーが利用状況や売り上げなどを把握するための管理機能もそろえている。

 EVの充電料金を収益にするより、EV充電設備を導入することで、物件の付加価値を高めることが大きな狙いだ。日本におけるEV充電設備の設置数はまだ多くないため、競合物件との差別化につなげられる。EVを所有する高所得者層の入居者を狙うこともできる。

 EV充電サービス事業部責任者の内藤義久執行役員は「1基でも多くEV充電設備を設置して、便利でクリーンな社会に貢献していきたい」と話す。

置き配で再配達抑制、CO2排出削減へ

 脱炭素など環境配慮の意識が高まる中、配送物の再配達を防ぎ、CO²スオートロックが付いている物件では建物に入館できないという課題があった。

 スマートロックを開発・販売するライナフ(東京都文京区)は、16年8月に発売した集合住宅オートロックの遠隔解錠装置「Ninja Entrance(ニンジャエントランス)」を活用。21年3月よりヤマト運輸(東京都中央区)との実証実験や、アマゾンジャパン(東京都目黒区)が提供する「Key for Business (キーフォービジネス) 」 の認定パートナーになり、「置き配 with Linough(ウィズライナフ)」として提供している。

 オートロック解錠装置は点検口や管理人室などに設置。配達員は、端末に送られてくるワンタイムパスワードを使ってオートロックを解錠し、指定場所に荷物を届けることができる。

 ヤマト運輸の対応エリアは5月に東京都内全域、7月以降に全国へと広げる予定だ。4月時点の対応棟数は受託ベースで全国3000棟。導入時や毎月のコストは発生せず、オーナー負担は装置の電気代のみとなる。杉村空取締役は「荷物によって宅配ボックスで安全に受け取りたいものと、置き配で手軽に便利に受け取りたいものがある。入居者が自ら選択できることが重要になる」と話す。

 Key for Businessは、「amazon(アマゾン)」で注文した荷物の配送時のみ、ドライバーが独自アプリを使ってエントランスのオートロックを解除できるサービスだ。万が一置き配した荷物が盗難に遭った場合は、状況に応じて再送や返金などを行うサービスも併せて提供している。

amazon

配送荷物を持ったドライバーのみが専用アプリで解錠できる(アマゾンジャパン)

 サービス対象物件は1棟10戸以上のマンション。対象エリアは10都道府県で、アマゾンジャパンが委託する配送事業社や個人事業主が配送を請け負うエリアとなる。21年末時点で1000棟以上に導入済み。今後も順次対象エリアを拡大していく。

(2022年4月25日8・9面に掲載)

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