新型コロナウイルス下で47都道府県の賃貸住宅マーケットに及んだ影響を探る本企画。今回は九州の大分県だ。地場の不動産会社への取材では、留学生や観光関連の法人の仲介に苦戦していたことが分かった。ただ最近では、入国制限の緩和や日本人観光客の増加もあり、賃貸市況は変わりつつある。
別府市、ホテル関連復調の兆し
別大興産、郊外で新たな需要県外からの移住も
大分市と別府市を中心に3万8975戸を管理する別大興産(大分県別府市)は、賃貸仲介件数がコロナ前との比較で微減にとどまり、大きな打撃は受けなかった。賃貸仲介件数は18年10月〜19年9月の9670件に対し、20年10月〜21年9月が9449件で2.3%減だった。22年の繁忙期は、まん延防止等重点措置が解除された2月21日以降、鈍化していた客足が回復。年間成約の2割を占める法人の部屋探しについては、これまで3月中旬から下旬にかけてピークを迎えていたが、4月以降にずれ込んだ企業もあったという。
水際対策で実施された入国制限は、留学生の賃貸仲介に影響を与えた。同社では、別府市にある立命館アジア太平洋大学(APU)に通う留学生の賃貸仲介を行っている。学生寮に1年間住んだ後に部屋を探す留学生の顧客がコロナ下でなくなり、留学生の仲介はコロナ前に来日していた学生のみとなった。賃貸営業部の青野友和課長は「入国制限緩和を受け、留学生の部屋探しは回復していくだろう」とみる。
21年9月までの1年間で成約した賃貸物件の家賃は、18年同期比で平均5%上昇している。大分市を中心に供給が加速する新築を仲介するケースが増えたことが一因だ。また、大分市内の中心地となるJR日豊本線大分駅周辺に関しては、家賃を数千円上げても成約する既存物件もあるほど活況だ。
新たな顧客動向としては、テレワークの実施や早期退職を機に、北東部にある杵築市と国東市に県外から移住する30〜40代の単身者らもいた。同エリアは大分空港に近いため、県外や首都圏へのアクセスの利便性が高い点が特徴だ。「郊外エリアだが、コロナ下で新たな需要が生まれている」(青野課長)
タカラ不動産、大分大学周辺は学生賃貸が苦戦
大分市で3000戸を管理するタカラ不動産(大分市)は、例年1〜3月に集中していた客足が、2021年は1〜6月まで分散し、外出自粛の影響を受けた顧客動向の変化があった。ただ、年間の賃貸仲介件数はコロナ前と変わらず横ばいだった。
一般客と学生を中心に仲介を行い、学生の部屋探しはコロナ下で減少気味だった。大分大学がオンライン授業を実施し、1人暮らしをせず実家で受講する学生が増えたことが一因とみる。
矢野宏一社長は「学生の仲介は、今後も厳しくなる」と語る。コロナ前に大分大学の周辺で学生向けの賃貸住宅の開発が進められ、減少した学生の需要に対し物件が飽和状態にある。空室が続く部屋も少なくないという。
対策として、同社では大分大学の学生とコラボし、ウェブページを設立。おすすめの授業や、管理物件の情報などを掲載し、今後、在学中の住み替えや卒業を機に部屋を探す顧客の集客につなげたいとしている。
タカラ不動産
大分市
矢野宏一社長(43)
≪大分市の賃貸住宅市場≫
人口は47万6386人で、5年前に比べ2105人減少。世帯数は1万468世帯増え、22万7321世帯となる。(人口と世帯数は22年3月末日現在と17年3月末日現在を比較)
ゆのまち不動産、繁忙期は法人回復コロナ前の1.5倍に
別府市で1500戸を管理する、ゆのまち不動産(大分県別府市)は、コロナ下で冷え込んだ観光地の法人需要が回復したことで、22年繁忙期の賃貸仲介件数がコロナ感染拡大前の19年比で1.5倍に増えた。
外国人を含む観光客の減少により、別府市内で働くホテル従業員らの観光関連の法人は、借り上げ社宅の解約が20年夏以降に相次いだ。ただ、最近は日本人観光客が回復傾向にあり、賃貸需要も復調の兆しを見せている。21年秋ごろには、警備会社が社宅として10戸以上を借り上げた。金丸涼介専務は「建築現場の警備員による法人契約は、再開発の加速を予想させる。現に、大型ホテルの開発が数件進んでおり、法人仲介においては今後伸びそうだ」とみる。
ただ、仲介件数の5割を占めていた学生の部屋探しは、当面3割程度のままで冷え込むと予測している。
学生の仲介については、同社のメイン顧客であるAPUに入学する学生のうち、外国人留学生が入国制限でいなくなったため打撃を受けた。入国制限が今春に緩和され、外国人留学生の入学が期待されるも、新入生の一般賃貸への住み替えは1年先になるため、しばらくは日本人学生の仲介のみになりそうだ。
金丸専務は「APUは23年4月の新学部創設によりキャンパスの増設を行っている。同時に260戸の学生寮を敷地内に建築しており、一般賃貸を探す学生が単純に増えるとは言い難い」と語る。
収益物件における地銀の融資については、不動産投資の実績があるオーナーは借り入れることができている一方で、サラリーマン投資家は頭金を用意しても借りられないなど、厳しい状況が続く。
≪別府市の賃貸住宅市場≫
人口は11万2655人で、5年前に比べ5043人減少。世帯数も1010世帯減り、6万767世帯となる。(人口と世帯数は22年3月末日現在と17年3月末日現在を比較)
中信不動産、法人8割に低下も一般客は影響なし
中津市で800戸を管理する中信不動産(大分県中津市)は、22年1〜3月の法人仲介が例年の8割程度にとどまった。保険会社、小売業、製造業関連企業が仲介全体の6割を占めているが、業績の影響で依頼が減った一部の法人もあった。
一方で、仲介全体の4割を占める一般顧客の仲介にはほぼ影響がなかった。結婚や1人暮らしを始める市内での住み替えはコロナ下でも例年並みの需要があった。
収益用物件の売買については、既存物件の購入希望者は多いが、収益性の高い物件の流通が少なく、取引が乏しい状況にあるという。また、大分市や別府市と比べて地価が安く、ダイハツ(大阪府池田市)やTOTOサニテクノ(大分県中津市)の工場棟などがあることから法人需要も見込めるため、ハウスメーカーの建築が進み賃貸住宅は供給過多になっている。
瀬口詠一郎社長は「新築があふれているため、既存物件のリーシングが厳しい状況にある。費用をかけてリノベーションしても家賃が安いエリアのため採算が合わず、設備導入や初期費用を抑える空室対策で入居を促している」と語る。
中信不動産
大分県中津市
瀬口詠一郎社長(47)
≪中津市の賃貸住宅市場≫
人口は8万2626人で、5年前に比べ1913人減少。世帯数は1663世帯増え、4万334世帯となる。(人口と世帯数は22年3月末日現在と17年3月末日現在を比較)
建築費に加え地価も高騰
大分市を中心に230戸を所有する久留浩一郎オーナー(大分市)は、コロナ下で所有物件の稼働は安定しているが、法人や学生の入居が決まりづらくなったと感じている。
法人は、大分県外から県内に引っ越してくる予定だった転勤者が2件キャンセルとなった。
学生については、例年2〜3人ほどある大分県立看護科学大学の学生の新規入居が22年は0件だった。オンライン授業の実施で、実家で受講できるようになったことが要因とみる。
投資用物件の建築費は、資材価格の上昇を受けて高騰している。RC造の賃貸住宅1棟の着工が6月に控えているが、1年前に建築会社が見積もった建築費よりも25%ほど高くなる通知が3月にあったという。「建築費に加え、地価も上がっており、利回りを考慮すると1年前から新築が建てづらい状況にある。また、実績のある投資家は融資を受けることができているが、初心者のサラリーマン家主は自己資金を20%入れる計画を立てても融資が通らないなど、先行き不透明なコロナ下で、銀行の融資引き締めも起こっている」(久留オーナー)
大分市
久留浩一郎オーナー(44)
(2022年4月25日10面に掲載)