賃貸住宅マーケットを大都市ごとに分析する新連載。賃貸ビジネスに関わるデータやマーケットの特性・変化についてその地域に詳しい不動産会社に取材した。今回は神奈川県相模原市を深掘りした。
相模原市は東京・新宿まで電車で約40分、都内に比べ安い家賃で広い物件に住めることから新型コロナウイルス下で都内からの住み替え需要があった。JR横浜線相模原駅前の再開発やリニア中央新幹線の開通などで今後も若年層の流入が期待できる。一方で築古物件の空室増加と家賃下落が進み、駅から近い物件と遠い物件との間で格差が広がっているようだ。
駅近の賃料3000円上昇
スーパーなど多数家族層から高支持
相模原市内を中心に約800戸を管理する相模原土地開発(神奈川県相模原市)によると、2020年6月以降、同社の管理物件の賃料は平均でで2000〜3000円ほど上がったという。特に、駅から徒歩10分圏内、築15年以内の物件では、3000〜5000円上がっている。
相模原市中央区、緑区の同社管理エリアでは入居者属性に偏りはないという。リモート授業を受ける学生やテレワークを行う単身社会人を中心に、都心へのアクセスが良く、家賃が安い同市の住宅需要が増えているようだ。
相模原市はスーパーマーケットが多く買い物に困らないため、生活がしやすいというファミリー層からの支持も高いという。鈴木正彦社長は「相模原市では、27年にリニア中央新幹線開通が予定され、都内まで約7分で行けるようになること、また小田急電鉄多摩線が延伸し相模原駅につながる計画があるなど、今後も市内への人口の流入が期待できる」と話す。
スタジアム建設で若年層流入に期待
東京都・神奈川県全域で1350戸を管理する朝日建設(神奈川県相模原市)によるとコロナ下で在宅勤務になり、賃料や周辺環境を考慮し神奈川県央地域へと住み替える夫婦やカップルが増えているという。
相模原市にはサッカーやラグビーなどのホームタウンチームがある。14年にはJR横浜線相模原駅前の米陸軍基地の一部が返還され、その跡地にスポーツレクリエーション施設ができたことから、「今後も若年層を含め年齢層を問わず活躍する地域として賃貸マーケットへの好影響も期待できる」と広告宣伝部の大空正樹次長は話す。
また、大学が複数あることから学生が多いことも特徴だ。スーパーや病院が多いほか、公園、湖など適度な自然があるため、ファミリー層も住みやすい街だという。在宅時間が長くなる中、同社が建築する高性能の省エネルギー賃貸マンションの入居も好調だ。
大手商業施設閉店賃貸市況に陰りか
小田急電鉄小田原線相模大野駅周辺を商圏とする管理会社では、コロナ流行当初の20年春は、相模大野駅から北里大学までの中間エリアに住む学生の退去が数件あったという。その後、リモート授業が続き、22年の春は多少持ち直したが、学生の需要がコロナ前の状態に戻ることはまだ難しい状態だ。
19年9月末には相模大野駅前の「伊勢丹相模原店」が閉店。これはコロナと重なり、相模大野の街の活気が薄れた要因となったという。
同社の社長は「老若男女問わず集客力のあった商業施設の閉店が駅周辺のマーケットに与える影響は大きい。相模大野駅前を盛り上げてくれる起爆剤のような施設ができない限り、不動産に限らず市場は厳しい状況だ」と話した。
賃料の二極化進む築古で2万円台も
相模原市を中心に神奈川県・東京都を商圏とする管理会社によると、相模原市内では賃料の二極化が進んでいるようだ。
同社では単身者向けの1K〜1LDKが管理物件の多くを占める。相模大野駅近くの単身者向け新築物件の家賃が6万〜7万円であるのに対し、築30年のワンルームが2万〜3万円台と、差別化されていない築古物件の下落傾向が続いているという。
さらに、地域間格差も広がる。相模原市内の主要駅前は新築の住宅建設が活発である一方、JR横浜線橋本駅から山梨県境の地域にかけては自然豊かな環境であるがゆえに人口減少が進むだろうとの見解だ。
今後の相模原市について同社担当者は「相模原駅や相模大野駅周辺は再開発が進んでいるが、古き良き商店街を好む地元住民も多いため、不動産市場は活況というよりは安定微増を保っていくだろう」と予想する。
築古ワンルーム苦戦設備と広さが必須
相模原市を中心に管理、仲介を行っている会社によると、入居の決め手となるのは設備面の充実と広さだという。
同社の管理物件にはそれが顕著に表れている。相模原駅とJR横浜線矢部駅の中間エリアでは、築30年ほどのワンルームマンションの入居が決まらない状況だ。家賃が3万円台、広さ15〜16㎡でトイレとバス、洗面から成る3点ユニットバスとミニキッチンという設備の物件が多く、空室が目立っている。
一方で、矢部駅から徒歩12分、築11年、広さ37㎡のワンルーム物件では、戸建て住宅用の水回り設備を設置し、家賃6万5000円で8戸満室となっている。
同社担当者は「充実した設備や広さがないと成約は難しくなってきている。オンライン授業や在宅勤務など、実家を出なくてもいい環境下でより賃貸の需要は減っていくだろう」と話した。
神奈川県住宅供給公社、商店街と連携し団地再生
神奈川県住宅供給公社(神奈川県横浜市)では、相模原市にある全2528戸の「相武台団地」の再生事業を13年に開始。敷地内の商店街と連携し街づくりを行っている。
同団地の多世代交流拠点「ユソーレ相武台」は19年9月にオープン。銀行の大規模跡地を利用し、基準緩和型デイサービスを提供している。同施設内にはキッズスペース、カフェ、ワークショップブースも設け、「ステップアッププロジェクト」という高齢者向けの体力測定会などさまざまなイベントを週に1〜2回ほど行っている。
同社の担当者は「少しずつ周知が進み、カフェでテレワークをする人や学校帰りに宿題をしに来る小学生などで終日にぎやかだ」と話す。
近隣大学の学生が団地に住みつつ、団地でのイベントでボランティア活動を行うなど、大学との連携も活発に行っている。
(2022年6月6日10面に掲載)