島本町、息吹き返す シャッター街【空き家をめぐって】

島本町

その他|2024年03月20日

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島本センターには、古くからある店と、新しい店が並ぶ

 大阪府の北部、島本町を走る阪急電鉄京都線の水無瀬駅の改札を出たすぐ先に、一見しただけでは見逃してしまいそうな商店街「島本センター」の入り口がある。店舗数30軒の小さな通りだが、現地を取材した平日の午後は、高齢者や親子連れを中心に人通りが絶えなかった。だが、2年前までは、半分が空きテナントのシャッター街だった。

 島本町の市街地中心部にある水無瀬神宮は、鎌倉時代の後鳥羽上皇にルーツがある。上皇の崩御を受け、在位中に訪れていた水無瀬離宮の跡地に建てられたのが始まりだ。町の歴史は古く、町内には住人が生活する古民家が点在する。一方で、京都市にも大阪市にも出やすい立地から、近年はマンション建設が活発だ。人口が増加する恵まれた状況にあるが、古くからの住民と、新しく越してきた住民との交流が求められるようになった。

 綿島光一さんが、島本センターでラーメン店を開業する知人に「スペースが空いているので何かやらないか」と誘われたのは2022年の初め頃だ。人通りは少なかったが、改札口のすぐ横ながら、テナント料が安いため、興味を持った。無人のギョーザ販売店「水無瀬餃子」をオープンしたのは5月だ。「インスタグラム」を中心にSNSで呼びかけると、利益を出せる程度に売り上げを確保できた。だが、どうにも人通りが少なく、島本センターに人を集めなければ、それ以上売り上げを伸ばせないことは明白だった。

島本町商業協同組合理事長の綿島光一さん

島本町商業協同組合(島本センター)理事長の綿島光一さん

 「商店街の活性化には、新しいことにチャレンジをするリーダーが必要だ」。開業して3カ月後、島本センターを運営する島本町商業協同組合の理事会で、綿島さんは理事長に立候補した。活気ある商店街を目指すための計画書を作成し、理事たちの前でプレゼンを行った。数時間に及ぶ説得で、何とか同意を取り付けた。

島本センターの入り口

島本センターの入り口は、阪急電鉄京都線の、水無瀬駅の改札を出たすぐ先にある

 理事長就任後はイベントを企画し、折り込みチラシやSNSで情報を発信して、集客に奔走した。ハロウィーンの時期には、空きスペースを風船で埋め尽くし、SNS用の写真撮影スポットとしてアピールした。23年12月の「島本センターガラポン大抽選会」では、チラシと「LINE」で抽選券を発行し、期間中のべ1800人を集めた。その間、空きスペースに出店する店が増え始めた。自身も新たな店を開店した。23年の夏ごろには、すべてのスペースにテナントが付いた。

コストコ再販店

23年12月にオープンした「コストコ再販店」

 「商店街に人を呼ぶという、最初の課題はクリアした。島本センターに店があることを、多くの人に思い出してもらえた」と綿島さんは話す。そして、次の課題が見えた。イベントを開催した時ほど、店ごとの売り上げに差が開いたのだ。「商店街が継続して人を集めるには、強い店が増えなければならない。そのために、店の事業が軌道に乗るまで、経営について相談できる顧問が必要。実績のある経営者に顧問を依頼し、リアルな助言を得られる体制を整えたい」(綿島さん)

無人のギョーザ販売店「水無瀬餃子」

綿島さんが開業した無人のギョーザ販売店「水無瀬餃子」

 島本センターの建物を所有するのは島本町商業協同組合だが、土地は阪急電鉄(大阪市)が持っている。同社の元にも、にぎわいを取り戻す島本センターのうわさは届いていた。「起業する人のチャレンジを後押しし、テナントを誘致していると聞く。駅の利用客や近隣の住民にとって利便性が高まり、駅近の商店街がにぎわうことは、駅や街のバリューアップにもつながる」(広報部・正岡裕也さん)

コッペパン専門店開業

 コッペパンの専門店「ふわこっぺ水無瀬店」の店主、竹村孝清さんが、島本センターに同店を開業したのは22年11月だ。町内で出店先を探していた時に、島本センターに空きがあることを知った。

 以前は観光の仕事に就いていた。新型コロナウイルス禍を機に退職し、フランチャイズチェーン(FC)に加盟して、地元の島本町で商売を始めることを決意した。

ふわこっぺ水無瀬店の竹村さん

行き交う客や知り合いに声をかけて対面販売をするふわこっぺ水無瀬店の竹村さん

 1カ月あたりの来店者数は、650〜700人だ。開業直後の2カ月は、島本町が事業者応援商品券を全世帯に配布していたこともあり、1200〜1500人だった。リピーターを増やすため、竹村さんはLINEをはじめとするSNSでの情報発信に余念がない。

 店は商店街の中ほどに位置する。そのため、もっと多くの人に店の存在を知ってもらわなければならない。最近、朝の1時間、人通りの多い駅前に面した場所を借りて、販売を始めたのもそのためだ。いずれはデリバリーにも挑戦したいと考えている。

商店街のにぎわい、町が後押し

 島本町には五つの商店街があったが、どこも空き店舗が目立ち、24年では三つの組織に減ってしまった。島本町のにぎわい創造課が「商店街サミット」を始めたのは18年だ。毎月1回、店舗関係者だけでなく、まちづくりに興味のある人は誰でも参加できる、情報交換の場だ。

 綿島さんもこのサミットに参加し、イベントの集客方法について話をした。同課の佐藤成一課長は「他の地域から来て新しいビジネススタイルを貫く綿島さんが、新しい刺激をくれる」と話す。

 最近では、島本町に興味を持った人がサミットに参加して知り合いをつくり、開業に至るケースもある。「商店街のキーマンは新規事業者も育む。今後もその活動に期待している」(佐藤課長)

島本町にぎわい創造課の佐藤課長と内山蔵人さん

島本町にぎわい創造課の佐藤課長(左)と内山蔵人さん。「島本町に流れているゆるやかな空気感は、人の魅力を通して伝えるのが一番」(内山さん)

住民主導で、街づくり

 島本町ににぎわいを生み出すために、島本町商工会が中心となり「しまもと・にぎわい地域活性化交流会」が立ち上がったのは14年のことだ。その中で、町内外への情報発信としてフェイスブックページ「しまもと・にぎわい・ねっと」が誕生した。島本町で3代続く長井工務店の長井正広社長は、当初から活動に参加し、商工会での手づくり市実行委員会などでも地域活性化に尽力してきた。

長井工務店の長井社長

島本町のまちづくりに長く関わってきた、長井工務店の長井社長

 長井社長が島本センターの話を耳にするようになったのは、22年の春ごろだ。にぎわいに乏しかった駅前の商店街で、京都市から来た若者が、新しいことを始めているという。それが綿島さんだった。

 最近、長井社長は、町内の他の商店街においても、若いプレーヤーによる新しい挑戦が増えていると感じている。「皆がそれぞれ、これまでと違うやり方で、消費者やテナントを呼び寄せている。こうした人が増えれば、町のにぎわいにつながるかもしれない」(長井社長)

(2024年3月18日13面に掲載)

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