岸和田市、所有者と使い手 自治体がつなぐ【空き家をめぐって】

岸和田市,NPO法人空き家相談センター,中原工務店,一般社団法人全国農協観光協会

その他|2024年03月06日

岸和田市の旧市街には、歴史的な建物が今も多く残る

 空き家を使い、街の再興に取り組む人を紹介する。空き家をうまく活用するには、所有者と使い手に加え、彼らをつなぐ自治体やアレンジャーの存在が不可欠だ。大阪府岸和田市では、外国人観光客の取り込みを目指す観光課が中心となり、民泊や飲食店など、空き家を使った事業を市民に呼び掛ける試みが始まっている。

 岸和田市は魅力創造部観光課が中心となり、「空き家利活用座談会」を開催する。岸和田城下にある空き家を、観光コンテンツとしてまちづくりに生かすため、空き家の貸し手と使い手に加え、専門家を交えて意見交換することが狙いだ。1月24日に開催された座談会には、空き家所有者、民泊など空き家を使ってビジネスを行う民間事業者、金融機関などが参加した。

 大阪府南西部の泉州に位置する岸和田市は、南海電気鉄道空港線に乗ると関西国際空港から20分程度で移動できる。市の中心部に岸和田城があり、紀州藩の参勤交代路として栄えた紀州街道には景観保全された歴史的な街並みが残る。毎年9月と10月には「岸和田だんじり祭」が開催され、新型コロナウイルス禍前の2019年の9月祭礼には41万人の観光客が訪れた。外国人観光客でにぎわいそうなものだが、宿泊施設が少なく観光産業が育っていないことが、市が抱える課題でもあった。

 岸和田市内で古民家をリノベーションしたカフェと民泊の併設施設「猿とモルターレ」を運営する中野洸一さんは、古民家が観光コンテンツになり得る実態を伝えようと、座談会に参加した。「インバウンド(訪日外国人)が回復した。民泊のポータルサイトの口コミが宣伝になり、年間稼働できる180日の6〜7割が予約で埋まる。地元の若者の雇用も生まれている」(中野さん)

 一方で、空き家は周辺市民の生活や安全に悪影響を及ぼす現実もある。観光課の井上江美課長は「負の遺産となってしまう可能性のある空き家は、安全のためこれまで取り壊しを検討することも多かった。だが、視点を変えれば、宿泊施設の少ない岸和田市において、観光客を呼び込む宿にもなり得る。観光面での利活用も検討していきたい」と話す。

 観光課と共に座談会に加わったNPO法人空き家相談センター(兵庫県宝塚市)の橋詰慎理事長は「空き家が放置されている原因の多くは家族間での話し合いができていないことが多い。流通や利活用など次のステージへとつなぐには複雑に絡み合った問題を専門家が伴奏し解決していくことが必要だ」と話す。

 座談会には空き家所有者の姿もあり、歴史的な価値の高い岸和田市の魅力を感じつつも、外国人観光客の集客に関しては、まだ課題を感じているようだった。

古民家使ったカフェと民泊

 岸和田駅から山間部に向かって車で20分程度の場所に、中野洸一さんが運営するカフェと民泊の併設施設猿とモルターレがある。築70年の古民家を借り、18年にオープンした。民泊登録をしているため、年間180日を上限に1日1組限定で、素泊まりで貸す。費用をかけた特別な広告は行っていないが、宿泊予約サイト「Booking.com(ブッキングドットコム)」の口コミで評判となり、予約が伸びるようになった。「阪和自動車道の岸和田和泉インターチェンジに近く、和歌山県方面に観光に行く前に1泊利用する外国人観光客が増えた。なぜか、愛知県の利用者も多い」(中野さん)

 中野さん自身も岸和田市の出身だ。地域のたたずまいを残したいという思いがあり、地元の若いスタッフと共に運営する。

猿とモルターレ

中野洸一さんが運営するカフェと民泊の併設施設「猿とモルターレ」

まちづくりに参加する場、提供

 座談会に参加した、中原工務店(大阪府岸和田市)の中原啓尊社長は、4年前に一般社団法人全国古民家再生協会(東京都千代田区)に入り、岸和田市で大阪第二支部を立ち上げ支部長を務める。そこでの経験を生かし、リノベによる岸和田市のまちづくりを民間の立場から呼びかける。「隣の和泉市は、泉北高速鉄道の和泉中央駅周辺で開発が進み、泉南地域でも人が集まる。それに比べて岸和田市は人口が減る一方だ。地域を盛り上げるため、まちづくりに参加する人が集まる場を提供したい」(中原社長)

中原啓尊さんの写真

一般社団法人全国古民家再生協会で大阪第二支部の支部長を務める中原啓尊さん

歴史建造物の宿泊利用を紹介

 岸和田市が主催した「空き家利活用座談会」で基調講演を行った一般社団法人全国農協観光協会(東京都千代田区)で地域振興・活性化事業にたずさわる白木勝規氏は、歴史的建造物を観光に生かす国内外の事例を紹介した。オランダのアムステルダムで築100年の音楽学校の建物をホテルとして使用する事例、愛媛県大洲市で大洲城の城下町にある古民家31棟をリノベし、1階を店舗、2階を宿泊施設として使用する事例を紹介した。

「空き家利活用座談会」の様子

全農観光協会の白木勝規氏は、岸和田市主催の「空き家利活用座談会」で講演を行った

 空き家活用による再開発を成功させるポイントとして白木氏は、行政と地域住民の熱意、空き家所有者との信頼関係を挙げた。「事業計画が成り立った上で、再開発の中心人物がその場所から去らないと信じることができれば、金融機関も融資できる。大洲市がそうだったと聞いている。熱意が都市計画などの外部要因を巻き込んでいく」と話した。

(2024年3月4日13面に掲載)

おすすめ記事▶『1割が空き家の時間貸し検討【クローズアップ】』

検索

アクセスランキング

  1. クラスコ、賃貸管理FC 加盟200店突破

    クラスコ

  2. アート不動産、本社を移転 3倍超に増床

    アート不動産

  3. ハートフルマンション、累積施工数 6000戸に伸長

    ハートフルマンション

  4. 遠州鉄道、管理主体へ方針を転換

    遠州鉄道

  5. ソニーワイヤレスコミュニケーションズ、無線で5Gネット提供

    ソニーワイヤレスコミュニケーションズ

電子版のコンテンツ

全国賃貸住宅住新聞からのお知らせ

お知らせ一覧

サービス

発行物&メディア

  • 賃貸不動産業界の専門紙&ニュースポータル

  • 不動産所有者の経営に役立つ月刊専門誌

  • 家主と賃貸不動産業界のためのセミナー&展示会

  • 賃貸経営に役立つ商材紹介とライブインタビュー

  • 賃貸管理会社が家主に配る、コミュニケーション月刊紙

  • 賃貸不動産市場を数字で読み解く、データ&解説集

  • RSS
  • twitter

ページトッップ