繁忙期に集中する原状回復工事(以下、原復)を、リソースが限られる中でいかに円滑に進めるか。オーナー向けの保証サービスを提供することで効率化する手法がある。今回は、管理会社が提供する、原復や入居中の設備保証プランを紹介していく。
オーナーの資金確保に効果
エイマックス、入居募集 即日も管理業務を省力化
「修繕費用の保証サービスはオーナーにも当社にもメリットが大きい。オーナーは費用を平準化できる。当社は管理業務の効率化に加え、販売時の差別化にもなる」
こう話すのは、東京都23区で中古区分マンションの買い取り再販・賃貸管理を手がけるエイマックス(東京都新宿区)の荒井陽一朗取締役だ。管理戸数は販売物件を中心に1000戸超。
同社は業務効化のため、2020年の創業時から物件販売後、管理を受託したオーナー向けに無償で保証サービスを提供してきた。保証期間は販売後3年間。専有部の設備故障の修繕・交換、原復を対象としており、エアコン以外の備え付け家電は保証対象外とするがそれ以外に保証費用の上限や工事回数の制限はない。
荒井取締役は「この設備はいくら、この工事はいくら、と細かいルールを設定すると、運用が煩雑になり、現場が混乱する。そのコストをかけるくらいなら、統一化する方が効率がよいと考えている」と話す。
同サービスの適用により、原復などの工事にオーナー確認が不要となり、工事の内容や価格、日程調整の手間を省くことができるようになった。実際に同社では、退居後から工事発注までに要する日数が平均1日。退去後からの平均完工日数は7日間となっている。入居者募集は退居後、最短即日、多くは2日で開始する。
4月からは「A‐MAXZERO(エイマックスゼロ)」としてサービスをリニューアル。販売後3年間は無償、4年目以降から有償として提供する。管理委託契約書の特約に、設備の修理・交換、原状回復費用を引き渡し後3年間、同社が負担するという文言を記載する。
4年目以降のオーナー負担は築年数など条件にもよるが、年間3万3000円(税込み)〜となっている。
エイマックス
東京都新宿区
荒井陽一朗取締役(32)
スカイコート、管理物件の経年 高額工事に備える
オーナーにとって、原復・設備修繕費用はいつ発生するかわからない。この不安を解消するためにサービスを開始したのが、投資用分譲マンションの建築・販売、賃貸管理を手がけるスカイコート(東京都新宿区)だ。15年よりオーナー向けの原復・設備保証制度「そなエール」を提供している。
藤原茂社長はそなエールについて「当社の長い歴史の中で、長期で保有するオーナーも多く、必然的に築年数を重ねている。入居期間が長期化することにより修繕すべき箇所が増え、一時費用が高額になるリスクが高まっている。本サービスの利用により工事費用を毎月定額化し、オーナーに安心してもらうことができる」と話す。
築年数に関わらず、保証料金が専有面積のみの3段階の設定となっていることも強みの一つだ。40㎡未満であれば月3300円、40〜50㎡未満の場合は4400円、50〜60㎡未満の場合は5500円(すべて税込み)。
対象設備は原則として新築時に設置されていたもので、エアコンや給湯器関係、クロスの貼り替え、床材の補修・張り替えなど。退去時の原復工事だけでなく、入居中の修繕工事にも対応する。
対象物件は、同社と建物賃貸借契約・特定賃貸借契約を締結しているか、スカイコート賃貸センター(同)と家主業務代行契約・管理委託契約を締結する60㎡未満の居住用区分マンションだ。
スカイコート
東京都新宿区
藤原茂社長(58)
ランドネット、中古流通促進狙う 3年の滞納保証も
「日本の中古流通を促進するため、リーディングカンパニーとしてできることを考えた」
全国で中古の住居用と投資用区分マンションの買い取り再販・賃貸管理などを手がけるランドネット(東京都豊島区)の榮章博社長はこう語る。売買や管理受託の際、中古物件の安心感を担保することを狙い「ランドネットあんしん保証サービス」を提供する。同社が売り主の物件であれば、無償で物件の引き渡し日から3年間、設備の修繕保証と契約不適合責任を負う。加えて3年以内に家賃滞納が発生した場合、最大6カ月分の家賃を同社が立て替える。なお管理委託契約の締結前に保証会社と契約している場合は、家賃債務保証会社による代位弁済が優先される。
保証する設備は給湯設備や水回り、電気設備、配管設備やエアコン、建具など。保証金額の上限は設備ごとに異なる。例えば便座の破損であれば5000円、ユニットバスの漏水や動作不良の場合は40万円など。
同サービスは18年6月から開始した。24年4月に保証対象や期間を拡充し、リニューアルを行っている。
同サービスの原資は同社が積み立てる。これまでの6年間で、設備保証の支払い費用として、1億数千万円程度を拠出した。「まだまだ保証サービスの認知度が高くないので、告知を進めていく。将来的には、戸建て特有の保証など、サービス拡充の余地がある」(榮社長)
ランドネット
東京都豊島区
榮章博社長(64)
メイクスプラス、家主には事後報告 修繕対応の工数減
5430戸を管理するメイクスプラス(東京都渋谷区)は、生産性向上を狙い、オーナーに対し設備の保証契約を導入。原復を含む修繕に関わる業務工数の削減を狙う。
同社は、原復やそのほか修繕に関わるオーナーとの連絡頻度を軽減するため、修繕保証をパッケージ化した。定められた予算内で工事を発注できるため、オーナーに対し事後報告が可能となることを想定する。例えばエアコンの交換には、見積もりの提案に始まり、オーナーの承諾を得るまでに、数日〜1週間かかっていた修繕対応が、事後報告の1回のやりとりで完了するイメージだ。
柴田和憲社長は「修繕の対応は、生産性のある時間ではない。管理獲得営業にかける時間を増やし、年間1000戸ペースの管理拡大を視野に入れる」と話す。
提供するのは「メイクスプラスあんしん設備保証」。TEPCOi(テプコアイ)‐フロンティアズ(東京都千代田区)の住宅設備機器・原復保証を活用し、2社共同でサービス提供を行う。
プランは保証内容別で四つ。月額税込み980〜4480円で用意する。保証対象は、エアコンや給湯器など七つの設備と、プランによって原復を含む。1回の修繕で最大10万円(税込み)を保証する。修繕対応の回数は上限金額内であれば無制限で、住宅設備機器の保証期間は、製造から最長20年とする。
3月から提供を開始し、繁忙期が明けた6月からキャンペーンなどを打って営業を本格化する。5月末時点では、原復時の費用負担を経験したことのあるオーナーからの反響が多いという。
まずは、10月までに営業時に反響を獲得している496件の契約を目指していく。
メイクスプラス
東京都渋谷区
柴田和憲社長(40)
全国賃貸不動産管理業協会、小規模企業に提供
保証サービスに加入したくとも、管理戸数などのハードルがあり加入が難しい企業もある。そんな会員企業にオーナー向けの設備保証・原復費用保証サービスの提供を始めたのが、一般社団法人全国賃貸不動産管理業協会(以下、全宅管理:東京都千代田区)だ。全宅管理が提供するサービスは「オーナーズバリューサポート」。23年4月から申し込みを開始した。
同サービスは、保険大手グループのSOMPO(ソンポ)ワランティ(同)が提供する管理会社向けの保険を団体制度として活用。
管理会社とSOMPOワランティが業務委託契約を締結し、被保険者は管理会社となる。オーナーは管理会社に保証料を支払い、全宅管理が加盟企業の業務委託料をまとめてSOMPOワランティに支払う仕組みだ。
設備保証には二つのプランがある。対象設備がシステムキッチン、システムバス、トイレ、換気扇のプランと、これに給湯器、エアコン、洗面化粧台、インターホンを追加したプランの二つだ。保証上限額は1回の故障あたり10万円(税別)となる。
原復の保証はオプションで追加できる。戸建て賃貸、分譲賃貸は対象外で、一棟単位での加入が条件。保証上限額の異なるプランが2種類あり、それぞれ上限額が15万円と50万円(いずれも税別)。保証金額は要問い合わせとしている。
全宅管理の鈴木敏雄課長は「一企業では提供しきれないサービスを協会が提供する必要がある。入居募集の差別化につながると考えている」と話す。
(2024年6月3日8面に掲載)