沖縄県内で地場大手の一角を占めるのが、琉信ハウジング(沖縄県那覇市)だ。創業36年になる同社は、金融機関やオーナーとの関係性を強みに紹介案件を獲得。管理戸数を8700戸超に伸ばした。2022年にトップに就任した城間泰社長の下、脱アナログを強力に推進。契約の電子化、顧客データベースの構築を行う。並行し「人」を資本とした従業員の健康経営にも力を入れる。
デジタル化と健康経営推進
創業36年で売上20億1500万円
琉信ハウジングは、賃貸管理を事業基盤としつつ、事業領域を広げ、成長してきた。
沖縄県を中心に賃貸管理・マンション管理、不動産開発、売買・賃貸仲介を展開する。拠点数は本社を含め7拠点。従業員は106人。
24年3月期の売上高は20億1500万円。経常利益は3億4900万円。17.3%という高い利益率を誇る。
部門別の売り上げ構成比率は、賃貸管理が6億8500万円と33.9%を占める。次いで、分譲マンション販売が32.9%、売買仲介が13.6%、分譲マンション管理が8.9%、借地管理が8%、そのほかとなる。
主力のストック事業では、居住用の賃貸管理が8695戸、分譲マンションの管理が4497戸(ともに24年3月末時点)。オーナー数は約1000人だ。管理物件のエリア比率は那覇市が49%と約半数を占める。
開発事業は、実需向けのマンションを3年に1棟のペースで開発。24年3月期の実績では、ファミリー向けの間取りで、販売価格は3LDKで3100万~3780万円。定期借地権付きのため抑えた価格で提供した。分譲後の管理も同社が担う。
沖縄県内では、土地と建築費の高騰で新築の着工件数が減少。新規の供給が少ないため、物件不足の状態だ。城間社長は「管理物件の入居率は96.4%。満室が続いており、家賃を上げてもすぐに入居が決まる状況」と話す。
本店の外観
紹介中心に年400戸受託純増
同社は、デベロッパーである琉信の子会社として1988年に創業。管理事業を中心に行うなか、開発や売買仲介など事業の幅を広げ、総合不動産会社として売り上げを拡大する。
メイン事業の賃貸管理は、設立当初から手がけ、年間400戸強のペースで伸ばす。2024年3月期は、地元の不動産会社の廃業にあたって、管理事業を譲り受けた増加分が大きかったという。
新規受託分のうち、紹介が約6割を占める。取引先企業や社員からの紹介が約24%、琉信の信託業務を譲渡した経緯があり、関係構築ができている琉球銀行からの紹介が約20%、既存オーナーからの新規顧客の紹介が約16%だ。
「琉球銀行とのビジネスマッチングの効果も大きい。収益不動産の購入希望者、売却希望者双方の紹介を受け、当社で要望のある物件を提供。売買仲介後に管理を任せてもらっている」(城間社長)
相続税の支払いで期限が迫っている場合には、同社がオーナーから物件を買い取り、再販することもある。
安定した顧客紹介により、10年には管理戸数が5000戸を突破。24年8月末時点で8737戸と9000戸に近づきつつある。
借地管理事業もストック収入になっている。親会社であった琉信が、予算を抑えた物件を提供するため、地主から土地を賃借し、借地の上に住宅を建築し分譲。住宅購入者に土地を転貸して地代を受け取り、地主に支払う事業を行っていた。同事業を03年に琉信から引き継いだ。借地管理面積は6万5000坪にのぼるという。
親会社の分譲マンション部門を吸収統合し、従来のマンション管理に加え、開発事業も本格化した。10年には、アパートや戸建て、店舗の設計、施工監理と建築領域にも足を踏み出した。
本社オフィス内の様子
契約8割電子化
城間社長が琉信ハウジングの社長に就任した22年以降、同社はDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んできた。
城間社長は、前職の琉球銀行で、経営企画、人事、総務部門の担当役員を歴任。18年には常務に就任した。22年4月には同行の友好会社である、琉信ハウジングの代表取締役社長に就任した。
金融業界でキャリアを積んできた城間社長の目には、同社ではいまだにアナログな業務が多く、効率性の点から改善の余地が大きいように映った。
スピード感を持って進めたのは、ペーパーレス化だ。23年2月にイタンジのCRM(顧客情報管理システム)「ノマドクラウド」とオンライン申込受付サービスの「申込受付くん」、電子契約サービスの「電子契約くん」を導入した。
準備期間は1カ月間で、全店舗で賃貸仲介の電子契約をスタート。導入から1年間で8割が電子化された。管理オーナーとの間に代理委任契約を締結していたため、契約時に毎回、貸主であるオーナーの押印が不要だった。IT重要事項説明も同じく23年2月からスタートし、実施率は電子契約のうち90%にまで高まっていた。
効率化の効果も実感している。契約に関する業務時間は、従来の紙の場合、1件当たり60分ほどがかかっていた。電子化により、4分の1の15分ほどで完了するようになったという。契約書の誤記や未記入欄の確認といった作業も大幅に減った。紙の契約が減少したことで、契約関係書類のやり取りに使うレターパックの郵送費用も、4分の1程度までに下がった。
「個人の契約では、ほぼ100%が電子契約になっている。従業員もすぐに業務に慣れた印象。賃貸仲介のスタッフは、もう元の紙ベースの世界には戻れないと言っている」と城間社長は話す。
従業員の健康意識
城間社長が会社づくりにおいて、大切にしていることは「人」だ。「会社は従業員がいてこそ、成り立つ。モチベーションを高く保てるようにし、楽しいと感じる職場環境をつくり、人材を育成すれば、業績はおのずとついてくると考えている」と話す。
24年3月には、「健康経営優良法人2024」の中小企業部門である「ブライト500」を取得した。健康経営とは、従業員などの健康管理を経営的に実行すること。
ブライト500の認定授与式
社内で健康経営会議を立ち上げ、23年4月以降、毎月経営陣が健康に関する会議を実施。各事業所にも健康経営に関する担当を置き、3カ月に1度集まって会議を行い、社員の要望をヒアリングして、新しい取り組みを次々と始めている。「Fitbit(フィットビット)」という腕時計型のウェアラブル端末を全社員に支給。歩数のカウントや睡眠時間などを測ることができる。従業員が自身の健康に対し、意識を持つようにした。23年10月からは、4カ月に1度「ウォーキングフェスタ」というキャンペーンを企画。定められた1カ月の期間中、歩数が最も多かったチームと個人を表彰している。季節変動はあるものの、社員の歩数も全体的に上がってきているという。
ウォーキングフェスタで歩数の多かったチーム、個人を表彰
24年4月からは、月額2000円を上限にスポーツジムの利用料会社負担するようになった。7月には「OFFICE DE YASAI(オフィスデヤサイ)」という、野菜や野菜の入った食品を、従業員が100円ほどで購入できる福利厚生サービスもスタートした。
従業員の精神的な健康を維持するために「カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)の方針」を策定し、自社ホームページで掲載した。社外にも公表することで、同社のカスハラへの姿勢を社会に対しても周知。同方針を踏まえ、カスハラが悪質なオーナーの案件は解約するなどの対応も取っている。
長く働きやすい環境づくりも行う。現在は日曜日を定休日としているが、土曜日も店舗を休みにできるか、これから探っていく。人材確保をするうえで、土日を休みにするのは、キーポイントになるという。
健康経営についての情報誌を発行
27年に1万戸目標
今後は、管理戸数の拡大を推進する。城間社長は「管理戸数は事業の核だと考えている。戸数を増やすことで、賃貸仲介、リフォーム、売買仲介につながる」と話す。
23年からは管理受託を行う新規開拓チームを2人増員し、4人体制とした。既存の提携先である銀行や設計事務所、建設会社への訪問数を増やし、案件の獲得につなげる。
加えて、店舗ごとに管理受託目標数値を設定。従来、営業店舗では売買仲介がメインだったが、管理戸数を増やすことへの意識づけをしている。
管理解約抑制のため、オーナーとのリレーション強化も図る。入居者対応の一部にはコールセンターを導入。管理部の担当者が、オーナーと関係構築する時間を確保する。半年に1度、琉球銀行に社員を派遣し、相続をテーマとする研修を受講。管理担当者の相続に関する知識を深め、オーナーから相談を受けやすい体制づくりを強化する。
管理事業と他事業間でのシナジーを生み出すために重要だと考えているのが、情報のストック化だ。23年12月には、CRMの「カクシンクラウド」を導入した。顧客データや取引の履歴などを蓄積し、データベース化していく。
「まずは顧客、案件情報の入力の重要性を社員に伝えている。現場任せにせず、私を含む経営陣も積極的に関与するようにしている。データベースは経営にとって非常に大事。データベース化の業務を当たり前のものとして定着させつつ、さらに押し進めていく。そのために、評価制度への組み込みや報奨制度も検討する」(城間社長)
27年に管理戸数1万戸を目指し、会社改革の歩みを止めない。
(2024年11月4日5面に掲載)




