大阪の大手鉄道会社である近畿日本鉄道(以下、近鉄)は沿線地域の魅力を高めることを通じて、利用者が減る駅の活性化を目指す。2024年からは、大阪府八尾市を拠点にまちづくりに取り組む不動産会社のSORASIA(ソラシア)と組み、近鉄大阪線久宝寺口駅の活性化プロジェクトを開始。24年春に同駅で開催したイベント「エキセトラ」には1日で4300人が訪れ、高架下のテナント入居にもつながった。
「住民が誇り持てる街に」
理想の店舗構成 1日限定で実現
近鉄は、沿線駅の周辺地域のにぎわいづくりに力を入れる。24年から開催するエキセトラは「駅にこんなテナントが入っていたら」を1日限定で実現するイベントだ。久宝寺口駅付近のエリアにある飲食店や持ち帰りの焼き菓子店、雑貨店、野菜の生産者などに、高架下の空き店舗を使って出店してもらう。25年7月の開催時は30店が出店し、イベントを盛り上げた。
イベントの集客は「インスタグラム」や「X(旧ツイッター)」などのSNSでの告知と、チラシ配布で行った。チラシは久宝寺口駅から前後5駅ほどの地域に数百部を配布。来場者のうち7割は久宝寺口駅の立地する小学校区とその隣の小学校区から来ていた。![]()
24年5月開催のエキセトラの様子。多くの人が高架下の店舗をのぞく
近鉄の観光開発・地域共創部の中山英士課長は「近隣住民が求めるものやサービスがあれば、この地域も一定のマーケットとして成り立つのではないかという仮説を立てた。駅1階のテナント誘致につなげていきたい」と期待を寄せる。
出店者は、公募は行わず、SORASIAの新井千春社長が1店ずつ声をかけて集めた。新井社長は「まずはこの区画にコーヒー店、その隣に観葉植物などを扱う店があって、というように出店者のラインアップを考える。それから区画に入ってもらうテナントを探して1店ずつ声をかけた」と話す。
イベントをきっかけに、近鉄不動産が所有する高架下の店舗に入居が決まった例も出ている。25年8月から、子ども服のアパレルショップ兼ダンススタジオの「mindgrace(マインドグレース)」が入居。店主の成田めぐみ社長は、自分の店を持ちたいと考えていたタイミングでエキセトラに来場した。駅で定期的にイベントが行われていることを知り、入居を決めたという。
「高架下の店舗は15区画中8区画が空室になっていた。イベントをきっかけに個性的なテナントに入ってもらえたことは大きな自信になった」(中山課長)
mindgraceの内観。子ども服売り場の隣に、仕切りなしでダンススタジオが併設されている
平日を3分割 時間別の需要探る
多くの来場者を呼ぶイベントのほか、日常に焦点を当てた取り組みも実施している。24年10〜12月には、時間帯別の店舗利用の需要を探るイベント「朝昼晩」を行った。営業時間が午前8時〜正午の「朝の日」、正午〜午後3時の「昼の日」、午後5〜8時の「晩の日」を設定。それぞれの時間帯ごとに、飲食店や野菜販売店などが高架下の空き店舗に出店。中山課長は「朝昼晩の実施で、予想と違う需要が見えてきた」と話す。
「久宝寺口駅周辺には複数の居酒屋があるため、夜の時間帯のみニーズが高いのかと思っていた。しかし実際に『朝昼晩』を行ってみると、通勤する人が1杯のコーヒーを飲んだり、子どもを幼稚園に送った後の母親たちがカフェで一休みしたりする朝の時間帯の客足が多かった。イベントを行わないとわからなかったことだ」(中山課長)
さらに、ポップアップ出店と駅利用者の滞留を目指す取り組みも開始している。25年9月には駅構内2階に「SLOW/FORM(スローフォーム)」を設置した。1日から出店できるチャレンジショップの出店場所となっている。26年1月23日時点では八尾市に店を構えるコーヒー店やおにぎり店などが出店。そのほか、不登校児の親を支援する団体がワークショップで利用したこともあった。
久宝寺口駅高架下の普段の様子。シャッターが下りた空き店舗が多い
生活者の声聞く 「地域の豊かさ」追求
近鉄とSORASIAが久宝寺口駅の活性化で重視するのが、駅が立地する街の住民と協力して「地域の豊かさ」を追求していくことだ。24年に久宝寺口駅の活性化プロジェクトを開始するにあたって最初に行ったのは、地域に住む人や働く人の声を聞くことだった。
町内会の役員や地元商店の経営者、小学校区のまちづくり協議会、高架下のテナントなどを集め、6回にわたってワークショップを開催。街にどんな店があったらうれしいか、どんな街にしていきたいか、そのためにはどんな店や施設・設備が必要かといったことを話し合った。
ワークショップの中で、交通の起点である駅に友だちとゆっくりする場所がほしいという意見が出たことから、SLOW/FORMの設置に至った。試しに店を出してみたいという人のためにチャレンジショップを設けてはどうかという意見からは、エキセトラや朝昼晩などのイベントが生まれている。
SORASIAの新井社長は「住民が自分たちの街に誇りを持って、人に自慢したくなるような状況が『地域が豊か』ということだと思う。駅を核にしたイベントや、日々の発信・アクションを通して魅力的なテナントに入ってもらうことで、地域の豊かな状態を目指していく」と語る。
SLOW/FORM。天井には花や季節に関係するものを飾る。夏にはちょうちんを下げたりすることもあるという
まちづくりが命題 地元企業とタッグ
近鉄とSORASIAは、24年から久宝寺口駅および周辺地域の活性化プロジェクトに取り組んできた。近鉄は24年に新規部署「観光開発・地域共創部」を設立。沿線の街の魅力を向上させる取り組みを加速させる。
近鉄沿線では、乗降客数が新型コロナウイルス流行前の水準まで戻らない駅がまだ多くある。久宝寺口駅もその一つだ。24年の1日乗降客数は約5100人で、18年の5400人まで戻っていない。近鉄は、地元の不動産会社であるSORASIAに、駅および駅周辺の活性化に関わる企画立案や、その準備のための市場調査業務を委託した。
SORASIAの新井社長は、学生時代からシェアハウス事業を行い、街のコミュニティー創出や空き家再生などに関わってきた。16年に地元・八尾市でSORASIAを設立。売買や賃貸物件の管理を主軸にしながら、シェアハウスの運営や廃校の再生などを通したまちづくりに取り組んできた。近鉄とは八尾市にある高安山の廃校再生で知り合い、今回久宝寺口駅の活性化でタッグを組むことになったという。
(中村)
(2026年2月9日9面に掲載)





