近畿日本鉄道(以下、近鉄:大阪市)は沿線地域の人口維持・増加による「沿線価値向上」のため、さまざまな事業者と提携し、地域の活性化を目指す。笹川耕司執行役員(5月2日当時。6月20日付で近鉄不動産(同)上席執行役員に就任)に話を聞いた。
沿線を「元気に」、各所と連携
催事でにぎわい創出 駅への交通確保も
近鉄が「沿線価値向上」のために行う事業は幅広い。笹川氏は「私たちの目的は沿線地域を『元気にする』こと。地域活性化のための活動は何でもやる」と語る。
近鉄大阪線久宝寺口駅では2024年から、地域の不動産会社であるSORASIA(ソラシア:大阪府八尾市)や近鉄不動産(大阪市)と協力し、にぎわい創出のためのイベントやワークショップを開催。近鉄山田線宇治山田駅では、駅周辺のエリアリノベーション計画の策定を進める。まちづくりの支援を行うサルトコラボレイティヴ(同)にコンサルティングを依頼し、25年からはマルシェイベントや駅舎活用イベントを行っていく。
地域の交通ネットワークの整備・維持にも取り組む。近鉄は23年、Open Street(オープンストリート:東京都港区)が運営するシェアサイクル事業フランチャイズチェーン(FC)「HELLO CYCLING(ハローサイクリング)」に加盟。東大阪・八尾エリアや南大阪エリアなどに20カ所にポートを設置する。沿線地域の駅までの交通手段を確保することで、人口の流出防止を狙う。
そのほか、旅客列車に貨物を混載することで沿線地域の名産品の流通を支援したり、奈良労働局と協力して近鉄奈良線大和西大寺駅構内に就業支援拠点「ハローワークミニ!」を設置し、地元での就業促進を図ったりしている。
鉄道専業に移行 定住の重要性認識
近鉄が手広く地域活性化に関わるのは、同社の経営の継続が沿線地域の人口や活気を維持できるかどうかにかかっているためだ。
近鉄はもともと鉄道事業のほか不動産事業やホテル事業も行う会社だったが、15年に持ち株会社制に移行。近鉄グループホールディングス(大阪市)の傘下に各事業会社が設立され、近鉄は鉄道専業の会社となった。「鉄道の運賃で利益を出さねばならないという意識が明確になった。東京都や沖縄県、海外にも進出する不動産会社やホテル運営会社と違い、鉄道は線路のある場所が事業エリアだ。沿線に寄り添っていかなければならないという意識も高まった」(笹川氏)
近鉄の乗降客数は、関西圏における自動車道路網の整備により1990年代から減少している。さらに乗降客数は20年の新型コロナウイルスの流行で激減。流行が沈静化した22年ごろから徐々に回復してきたものの、25年5月2日時点においてもコロナ前の19年比で1割ほど少ないという。
沿線に奈良県や三重県伊勢市といった有名な観光地がある近鉄だが、鉄道運賃収入の柱は沿線に住む人や通勤・通学する人による日常的な利用だ。「これまでは、観光客に当社路線を使ってもらうためのキャンペーンを行ってきた。しかし、鉄道会社が生き残っていくためには、沿線の地域を『住む場所』として選んでもらえるようにすることが必要だ」(笹川氏)
目標は全駅活性化 協力者と達成へ
笹川氏は、「最終的な目標は、近鉄の全286駅の活性化だ」と話す。各地で地域活性化のために活動する仲間を多くつくることで、目標を達成する考えだ。その中でも地域の不動産会社との連携を強化していきたいという。「地域の魅力が増せば不動産価値が上がり、そこに住みたいという住宅需要が生まれ、鉄道需要も高まる。不動産会社と鉄道会社のやりたいことは一致しているはずだ。街にどんな人が入ってきて、住んでいるのかを知っている地域の不動産会社と一緒に街を盛り上げていきたい」(笹川氏)
近畿日本鉄道
大阪市
笹川 耕司 執行役員(当時)
(現・近鉄不動産上席執行役員)
(中村)
(2025年7月7日20面に掲載)




