経営トップ自らが、賃貸業界でどのようにDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しているのか。成功企業では、経営者がハンドルを握り、アクセルを踏んで改革している。その実態をレポートする。
■ITからDXへ「ツールの置換」との違い
前回述べたように、DXとは、デジタル(IT)を活用し、「ビジネスの構造の変革」を起こすことである。単にオンライン会議を「Zoom」でしただけなら、それはIT化に過ぎない。DXは①「人事部」の仕事である組織変革②「情報システム部」の仕事であるデータ連動③社長の仕事である「事業戦略」に影響する。
これらを実践するには、経営者が自ら向き合わねばならない。理系への丸投げや、若手のプロジェクトチームだけでは不可能だ。
■変革は組織改革から
ユーミーネット(神奈川県藤沢市)では、木村光貴社長が「成約率の高い店長を一番手にする」という改革を実行。店長になると偉そうに後方に控え、接客をおろそかにし、マネジメントに徹する会社は多い。しかし、一番成約率が高いのは店長。
ならば、彼が一番手。それまでの一番手は二番手とし、成約率の低い三番手以降は「入力や案内に徹せよ」と大改革した。
続いて、「接客以外の業務の見直し」を行う。例えば、写真撮影・間取り図作成・入力などの業務は、本当に社員がすべきなのか徹底的に探究。OBやOGにアウトソーシングするなどの改革を行った。
前回述べた「平日の夕方のみIT重要事項説明」という行動変更は、生産性革命である。その際に、いい生活(東京都港区)のミーティングプラザを「ツールとして利用した」に過ぎず、組織構造改革が必要だ。
■ひとり親方でも組織イノベーション
有限会社フレンドホーム(埼玉県草加市)では、売り上げの半分を代表取締役の保坂和敏社長が稼いでいる。ここでもほぼ100%IT重説しているし、オンライン内見も駆使、電子契約にも積極的だ。
なにしろ売り上げの半分が自分1人。だからこそ、IT化しないと、1人で手が回らない。だから、早々に退去申請と更新は電子契約にした。電子契約解禁の22年5月よりずっと前に更新と退去は電子化していたのである。そのほうが社長本人の労務負荷が低いのだから。
結果的に、火曜日と水曜日は休み+第3木曜日も定休日となり、かつ賃貸の業績は、110%アップ。見事な成果である。
■無駄な作業を捨て週休3日制へ
16年に東京のIT企業から家業のウチダレック(鳥取県米子市)に戻った内田光治専務は、繁忙期の深夜残業、業務の属人化を目の当たりにし、地方の人口減少下においても働きやすい企業を目指し、業務改革を実行した。
その改革をするためには、既存の紙や印鑑といったシステムでは難しいと判断。ホワイトボードを撤去してクラウド化すれば、いずれみんながカレンダーツールを共有する。こうして変革の過程でつくられた「カクシンクラウド」というシステムが、週休3日、営業利益2.5倍を実現した。
つまり何かのシステムを買ったのではなく、働き方そのものを変えるために、既存の枠組みを捨てるという経営判断をしたのだ。
■反響来店率50%という驚異
さて、読者の皆さんは、自社の「反響来店率」「成約率」「付帯のセット率」は把握しているだろうか。数えていないのでは話にならない。反響返信を増やすには「スピード」「質」「頻度」が大切。しかし、それはクレーム対応も飛び込み顧客への応対も同じだ。接客中に返信することもできないし、忙しければ、物件提案に手は回らない。
良和ハウス(広島市)では12年からほぼ5年間、反響来店率が20%と伸び悩んでいた。そこで18年、ウェブ反響への対応を店舗任せにせず、全店舗分をまとめて対応して来店率アップを図る「ウェブカスタマーチーム」をつくった。
実は「いきなり」ではなく、最初は1店舗のみ専任チームで対応し、少しずつ担当店舗を増やし、反響来店率を上げていった。そう「組織変革」を先にしたのだ。人事発令をするということは、当然、和田伸幸社長が、このチャレンジに自らコミットしている事業戦略なのだ。
毎日、何件の反響で何件の反響予約が取れたのかを、「ウェブカスタマーチーム」は振り返っている。
この際、「ではツールをどうしようか」とイタンジ(東京都港区)の「nomad cloud(ノマドクラウド)」を試したり、他社のツールを試したりした。しかし「nomad cloudを使えば必ずうまくいくのか」とかという話ではない。その使い方が違うのだ。
「今期は45%、来期は50%の目標ですが、今日は〇%ですね。今はここをこうしています」と毎日、ウェブカスタマーチームのリーダー児玉氏は業務を回している。
組織が先。風土が先。そして「この反響はどう取り込むべきか」「自社の空室確認は基幹システムで他社物はBtoBサイトでこう見て、こう返して」と「データ連携」も実践的に取り組んでいる。
■経営者自らがDXを推進すべき
ユーミーネットでもフレンドホームでもウチダレックでも良和ハウスでも「デジタルのことはよくわからないから、やっといて」と経営者が誰かに投げ出したりはしていない。
そして、「DXにはお金がかかるけど仕方ない」などとも言ってはいない。経営者自らが、リスクを取り、かつ「業績拡大の手段」として「デジタル化と組織変革」を行っている。
いよいよ、DX化は各社の取り組みに差が出ている。それは、単なるIT化ではなく、経営センスが求められるステージになっている証拠でもある。やりっぱなしも許されない。経営戦略である。
上野 典行
プリンシプル住まい総研所長
1988年リクルート入社。大学生の採用サイトであるリクルートナビを開発後、住宅情報タウンズ・住宅情報マンションズ編集長を歴任。現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2008年より賃貸営業部長となり2011年12月同社を退職し、プリンシプル・コンサルティング・グループにて、2012年1月より現職。All Aboutガイド「賃貸」「土地活用」。日管協・研修副委員長。全国で、講演・執筆・企業コンサルティングを行っている。http://www.principle-sumai.com/
(2022年11月28日15面に掲載)