賃貸住宅管理業適正化法(以下、管理業法)が6月15日に施行され、賃貸管理ビジネスの役割がさらに大きくなっていく。これから賃貸管理会社に求められるものは何か。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会(以下、日管協:東京都千代田区)の塩見紀昭会長は「建物管理」と「体系的な知識の獲得」の重要性を訴えた。
賃貸住宅の修繕や改修のプロ育成
業者登録準備で非会員からも相談
日管協は、賃貸管理会社を中心に1801社が入会し、会員企業の総管理戸数は約830万戸を超える。賃貸住宅管理業界の整備・発展のため、管理会社向けに勉強会や講習を実施し、業界の実態調査なども行う。
塩見会長は管理業法の施行に伴って協会への相談が増えていると話す。管理戸数200戸以上であれば、賃貸住宅管理業者としての登録が義務化されたことで、登録方法に関する問い合わせも多いという。
塩見会長は「法施行を機に、管理戸数が50戸もない小規模な会社や、これから管理を始めたいという賃貸仲介会社から連絡が来るようになった。ニーズに応じるため、新たに管理戸数500戸未満の不動産会社向けの会費枠もつくった。当協会は大規模な管理会社が入っているというイメージがあるようだが、戸数に関係なく管理会社に会員になってほしいと考えている」と語る。
塩見会長によると、これから賃貸管理会社に求められるものは大きく二つあるという。一つ目が「建物管理」だ。管理業法では、賃貸管理の定義として「建物の維持や保全」が要件となっている。これまで家賃収納代行や入居者募集、入居者への対応といったソフト面でのサービスが中心だったのが、法の下、ハードである「建物」の管理業務に対する能力も求められるようになった。「東京・八王子でアパートの階段が崩落した則武地所の事故が象徴的だった。管理会社が建物管理をしていたら、事故を予知・予防できていたはずだ。当協会では、長期修繕計画の策定方法のガイドラインなどを作ってきたが、これからは会員向けに建物管理に関する教育プログラムを提供していく。ゆくゆくは、賃貸住宅メンテナンス主任者(仮)といったような、認定制度をつくることを構想している」(塩見会長)
リフォームや修繕が適切な工事内容になっているのか、現場の施工管理を行える存在として、管理会社が活躍できるようにしていく。
現在、国は一棟ものの賃貸住宅を対象に、長期修繕費用の積み立て分を経費として計上できる制度を検討中だ。もし実現すれば、オーナーが計画的に将来の修繕や改修費用を確保することに税務上のメリットが出てくるため、管理会社側もオーナーに修繕費用の積み立てを提案しやすくなる。
管理会社が長期修繕計画の立案などに関われば、オーナーの安定経営に貢献し、長期間にわたる信頼関係の構築にもつながっていく。
事業領域広がる管理体系的な知識が必須
管理会社に求められる二つ目のポイントは「体系的な管理業の知識」だ。
管理業法では賃貸管理の定義付けがなされたが、管理会社の事業領域は、入居者への対応や物件の清掃などにとどまらず、空き家活用やタウンマネジメントにまで及ぶと塩見会長は考える。
そういった状況の中、管理会社の社員が身に付けるべき知識は多い。だが中小企業では、教える側のリソースも少ないため、業務上の知識が偏ったり、新入社員などの教育も不完全なまま終わってしまう。
登記簿謄本や図面の見方、契約書の読み方といった管理の「いろは」を学べる講習や体系的なカリキュラムを独自に作成していく予定だ。
「オーナーと話をすると、『管理会社にはもっと提案してもらいたい』と考えているオーナーが多いと感じる。体系的な知識を身に付けてオーナーにとってメリットのある提案ができることが管理会社としての差別化になる。当協会の会員であることが、オーナーや入居者に選ばれる管理会社の条件になるようにしていく。そのために会員企業の『質』を担保することが、協会としてのこれからの課題になる」(塩見会長)
社会の要請に応じ、管理会社の役割はさらに大きくなっていく。
(7月26日52面に掲載)