コロナ禍の賃貸市場の影響は?エリアルポ~鹿児島編~

川商ハウス, MBC(エムビーシー)開発, マルゼン商事, 小倉ホーム

管理・仲介業|2022年01月26日

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 47都道府県の賃貸マーケットをレポートする本企画。今回は人口157万5306人の鹿児島県を採り上げる。県内には発電所や菓子メーカーの大規模工場などがあり、安定した法人のニーズがある。ただ、新型コロナウイルス下の外出自粛の影響によって、県内屈指の繁華街である天文館ではテナントが退去する動きも多く見られたようだ。同県におけるコロナ下の賃貸住宅市況を取材した。

工場勤務の法人仲介は堅調

≪鹿児島市の賃貸住宅市場≫
 人口は21年12月1日現在で59万1833人。12年12月1日現在と比べ1万3457人減少した。一方で、世帯数は1万4011世帯増え、28万1461世帯。街の特徴としては、九州を縦断する新幹線が止まるJR「鹿児島中央」駅や、観光名所の桜島がある。

川商ハウス、テナント賃料の減額相談相次ぐ

 鹿児島市内で約2万戸を管理する川商ハウス(鹿児島市)は、コロナ下での賃貸仲介件数に増減は見られず、2021年もコロナ前と変わらず約4000件の成約があった。外出自粛の影響で来店客の減少を懸念していた同社は、同年6月から11月まで初期費用を抑えられるキャンペーンを行い、集客強化を図るなどして対策を講じていたことが奏功した。

鹿児島市内の写真

川商ハウスの本店がある鹿児島市内

 法人に関しては、市内にある製薬会社、保険会社、食品や建築関係の企業の案件に対応している。コロナ前であれば3月に部屋探しのピークを迎えていたが、同年は突出して案件が増加することがなく、分散しながらの成約が続いた。

 管理物件の入居率はコロナ下でも影響を受けず92〜93%を推移している。収入の減少により家賃の低い物件に引っ越した退去者がいた一方で、テレワーク専用の部屋として住居とは別に契約する人が見られるなど、多様な働き方の広まりによる部屋探しもあったようだ。

 20年の夏ごろには、店舗の入居者から家賃減額の交渉が入るなど、賃料の支払いが困難な入居者の救済措置を行った。特に目立ったのは天文館の飲食店や居酒屋だ。退去後の原状回復工事費用や、先行きが不透明なコロナ下での入居者募集を考慮した結果、入居の継続を優先して8割のオーナーがテナント賃料の減額に応じてくれたという。

 市内の再開発に関しては、鹿児島市交通局跡地で21年1月に開業した多世代交流複合施設「キラメキテラス」が注目されている。また、23年春にはシェラトンホテルや商業施設がオープンする予定で、街のにぎわいが予工場勤務の法人仲介は堅調想される。本店の揚村貞貴店長は「当社が管理する市内の月極駐車場は、相場が数年前に比べ1000〜2000円上がってきておりニーズが底堅い。市内では賃貸住宅が供給過多となっているが、今後、一部のエリアでは賃料の上昇が見られるかもしれない」と語る。

 

MBC開発、スタジアムなど誘致活動で活況

 鹿児島市内で7500戸を管理するMBC(エムビーシー)開発(鹿児島市)は、21年の賃貸仲介件数がコロナ前の19年と同程度で2100件だった。直近では新築の需要が高く、特に20〜30代女性の成約が目立っている。

 部屋探しを行う顧客動向の変化としては、インターネットで物件を絞って問い合わせを入れる傾向が高くなり、飛び込み来店がコロナ前に比べて縮小。一方で、増加する反響には、反響専門のチームを編成し対応している。

 収益物件の動きについて、不動産事業本部賃貸部営業課の上山大作氏は、「市内の新築は、人件費や材料費、地価の高騰により家賃が上昇傾向にある。収益物件の売買仲介に関しても、高値で取引され、在庫が少ない状況だ」と語る。

 鹿児島市では、県体育館やサッカースタジアムの誘致が行われているほか、JR鹿児島本線「鹿児島中央」駅の周辺で土地の売買や賃貸マンションの建設が増え、市内の賃貸市況はコロナ下でも活気づいているようだ。

 

≪薩摩川内市の賃貸住宅市場≫
 人口は21年12月1日時点で9万1829人。12年12月1日現在と比べ、6436人減少した。世帯数も207世帯減り、4万1105世帯となる。周辺にホテルや飲食店が立ち並びJR九州の新幹線が通る「川内」駅から鹿児島市内まで1駅。海岸沿いに九州電力の川内原子力発電所を有する。

マルゼン商事、半導体工場増設 法人案件が急増

 薩摩川内市で600戸を管理するマルゼン商事(鹿児島県薩摩川内市)は、20年の暮れから21年の秋まで、市内にある半導体の製造工場に勤める派遣社員約300人のうち、一部の仲介を行った。コロナ下で需要が急増した半導体の製造を強化する大手メーカーが新しく工場棟の建設を発表。既存の工場の稼働と人員確保の強化を図ったことが法人案件急増の一因となった。

 同社は成約件数の4割を法人が占める。エリアには半導体製造の大手企業や川内原子力発電所があり、従業員や関連企業の社員を仲介することが多い。コロナ下では半導体製造の大手メーカーが人員を強化したことで、エリアにある数社の不動産会社で仲介を分担して行った。大手メーカーの従業員・派遣社員の9割が単身者でワンルームに入居した。

 こうした背景もあり、コロナ前に比べ入居率が1%上昇した。また、本来2年程度で退去する法人が外出自粛の影響で引っ越しを控えるなどした点も入居率の向上に寄与したようだ。

 薩摩川内市の賃貸マーケットの特徴として、堂脇進也社長は「県内でも比較的地価が安く、法人需要から賃料を高く設定できるため、県内だけでなく1年前からは県外の投資家が参入する動きも目立っている」と語る。

 ただ、スルガ銀行の不正融資事件以降、銀行がサラリーマン投資家の融資に厳しくなり、多くは経営者や相続税対策で建築する富裕層に限られている。

 今後の賃貸市況については、半導体製造の大手メーカーの工場棟建設で大手ハウスメーカーによる住宅供給が盛んになることが予想される。間取りが似た物件が増え、賃料下落の価格競争が進めば、既存物件のオーナーの賃貸経営に影響を与えかねないと危惧する。

マルゼン商事 堂脇進也社長の写真

マルゼン商事
鹿児島県薩摩川内市
堂脇進也社長(49)

 

 

≪霧島市の賃貸住宅市場≫
 人口は21年12月1日現在で12万3033人。12年12月1日現在と比べ、4271人減少した。一方で世帯数は2340世帯増え、5万6615世帯となる。県内2番目の人口を有し、宮崎県との県境に立地する。鹿児島空港のほか、第一工科大学や第一幼児教育短期大学がある。

小倉ホーム、温泉施設従業員 依頼が一部減少

 霧島市と志布志市で約700戸を管理する小倉ホーム(鹿児島県志布志市)は、管理物件の入居率がコロナ前の19年と変わらず、現在も96%を維持している。ただ、在宅時間の長期化による夫婦トラブルや、ごみの増量によりコロナ下でクレームへの対応の出動件数が増加した。

 法人仲介に関しては、観光地の温泉施設に働きにくる従業員の部屋探しが霧島店で減少した。飼料の工場に勤務する従業員らの部屋探しを行う志布志店では、コロナ前と変わらず法人の需要があったようだ。

霧島市内の写真

桜島の手前に写る霧島市内

 投資家の動きとしては、5000万円程度の木造一棟アパートが人気だという。コロナ下では老後の経済不安から不動産投資を検討するサラリーマンが増えたものの、地元の銀行が実績のある投資家にのみ貸し付けているため、新米家主にとっては参入しにくい状況が続いている。

 再開発では霧島市内で増設中の京セラ(京都市)の工場棟が注目を集める。雇用創出を見込んだ大手のデベロッパーが地主を開拓し、賃貸住宅の建築を開始している。霧島店の倉橋直樹店長は「大手企業の工場増設により、規模感のある賃貸需要増加が今後予想される」と語る。

 

退去者の3割が実家に転居

 霧島市を中心に7棟85戸を所有する竹下憲治オーナー(鹿児島市)は、21年に退去した15世帯のうち、実家への転居を理由にした世帯が5件と3分の1を占めた。コロナ前では退去理由に転勤や住宅購入を挙げるケースがほとんどで、実家への引っ越しを理由にするケースはなかったため、収入減少による影響だとみている。

 現在の入居率は95%とコロナ前の水準を維持している。竹下オーナーは「所有する物件が5棟ある霧島市は鹿児島市まで車で30分程度の立地にあり、鹿児島市内の金融機関に勤める人や教員が住むことも多く賃貸需要が高い」と語る。

 だが、鹿児島市内に所有する築25年の1棟で、半年間空室が続いた1戸があった。同物件では20年4月に事業所の縮小に伴い法人契約の入居者が退去。1回目の緊急事態宣言が発令されていた時期と重なり、地元の仲介店舗も客足の減少でリーシングに苦戦していたため、長期にわたり空室が続いたという。

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エアコンの新調やフローリングの改修を行い成約した半年間空室だった部屋

 空室対策として、部屋探しを行う顧客の目に留まる物件にすべく、竹下オーナーはエアコン、テレビモニター付きインターホン、照明器具などの設備を新調したほか、アクセントクロスやクッションフロアの貼り替えを自身で行った。その結果、専有面積30㎡で1LDKの同物件に新婚夫婦が入居した。「通常は退去のタイミングで新規の入居者が決まっていたが、コロナ下では空室が半年間続くなど、入居者募集に苦戦した」と振り返る。

 霧島市の賃貸市況について、竹下オーナーは「設備の導入や維持管理ができておらず、リーシングが厳しい物件も周囲に散見する。今後は、空室が続く物件と入居者募集に困らない物件の二極化が進むだろう」とみる。

下憲治オーナーの写真

下憲治オーナー(51)
鹿児島市

 

(2022年1月24日11面に掲載)

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