新型コロナウイルス下で収益物件の売買が盛んな中、売り上げアップや管理獲得を狙いたい管理会社にとって成長につなげられるのが、賃貸住宅の買い取り再販事業だ。自社で物件を買い取り、顧客に販売し受託戸数を増やすことができる。実際に、買い取り再販事業で実績を上げている不動産会社に戦略を聞いた。
物件を満室にしてから売却
フロンティアホーム、既存オーナーからの物件情報入手に注力
埼玉県所沢市を中心に埼玉県南部や東京都内で2340戸を管理するフロンティアホーム(埼玉県所沢市)は、自社で再販した物件の管理を受託し管理戸数を拡大。売却益も確保し、売り上げも伸ばす。
2021年5月期の売上高は約10億2530万円。その内訳は自社物件の販売高が70%、賃貸住宅の管理料と賃貸仲介手数料の合計が14.9%、所有物件からの賃料収入が5.6%、残り約10%がその他だ。粗利額は約3億8590万円で粗利額内訳は買い取り再販事業を含む売買が48%と約半分を占める。
19年6月〜21年5月の2年間では、420戸を新規に受託。そのうち、3割弱にあたる120戸が自社で買い取った後に改修し販売した物件だ。
同社は12年ごろから収益物件の買い取り再販事業を開始した。物件を購入して改修した後、2〜3年保有し、満室にしたうえで売却している。
買い取る物件は築年数20〜30年、1棟あたりの規模は全20〜30戸程度が中心だ。過去に入居付けで苦労した経験から、住戸がワンルームタイプで20㎡以下の狭小物件は避けているという。
仕入れルートは売買仲介などを通じて関係を深めてきた大手販売会社が中心だが、最近は士業関係や既存オーナーからの物件情報の入手にも力を入れている。
物件の改修にはクラスコ(石川県金沢市)が提供するリノベーションサービス「Renotta(リノッタ)」を利用し、コンセプトを明確にした物件デザインを行い、自社で施工する。
物件の売却先の主なターゲットは、個人事業家もしくは法人だ。再販後には基本的にほぼすべての物件で管理を受託している。
「買い取り再販事業のメリットは再販時の粗利やキャッシュの獲得。管理拡大や売買につなげられることも大きな利点だ。競争の激化で良い物件の獲得が年々厳しさを増しているが、長年築いた弊社独自の情報ルートにより、今後も良い物件情報の入手ができるものとみている」(中川潤社長)
フロンティアホーム
埼玉県所沢市
中川潤社長(54)
フロンティアホームの実例
6500万円アップで売却
フロンティアホームは、所沢市内に立つ築23年の住宅22 戸と店舗1戸からなる物件を買い入れて改修し、満室にして投資家に売却し、売却益と管理受託につなげた。
同物件は、1Kの間取りで1戸あたりの専有面積は21.88㎡。空室7 戸のうち5戸には、天井にアクセントクロスを貼ったり、ダウンライト照明を設置したりと、1戸あたり約50万円をかけて改修を行った。
そのほか、エントランスの改修や共用部のフロアタイルの交換、エレベーターへのダイノックシートの施工などを実施。
さらに、物件名を「中屋ビル」から「カラーズ所沢」に変えた。中川社長は「物件名の変更はイメージ刷新の効果が非常に高い。『オモシロい』『カッコいい』『おしゃれ』『楽しい』を意識して新たな名前を考えている」と話す。
改修には約300万円を費やしたが、売却時には満室稼働し、家賃収入は年間43万2000円アップ。購入時に1億6000万円だった物件を、2億2500万円で売却することができた。
デ・リード、設計コンペを通じて最新のニーズを把握
京都市内を中心に2500戸を管理するデ・リード(京都市)は、13年に「Re-Born(リボーン)」ブランドで収益物件の買い取り再販事業を本格化した。これまでの実績は100戸ほどだ。そのすべてで、管理を受託している。
Re-Bornの物件の多くは、築年数30〜40年で、広さ20㎡ほどのワンルームを中心に1棟ごとではなく、1戸ごとに購入。一度スケルトン状態にしたうえで配管も刷新するため、改修費用は1室300万円前後かかる。施工期間は2カ月ほど。家賃を改修前の1.5倍ほどにアップした、入居付けが済んだ状態で販売する。販売時の戸あたりの平均賃料は6万円前後。改修の際、特に力を入れているのは収納スペースだ。ポイントは単に収納量を大きくするのではなく、機能性を加えること。例えば、普段使わないものを収めるための床下収納や趣味のものを飾りながら収めることができる「見せる収納」、鍵やスマートフォンを置くことができる壁収納などだ。ウォークインクローゼットを設けた例もある。
また、入居者のニーズにマッチした物件づくりも推進。京都女子大学(同)と提携し、14年から隔年ペースで賃貸住宅の設計コンペを開催してきた。同コンペで最優秀賞を獲得した改修案を実際の物件に施工するほか、応募作品の中からも施工アイデアを部分的に採用し、入居者目線の物件づくりに注力する。その結果、入居者の7割を女性が占め平均年齢は25歳となっている。
Re-Born営業部部長を務める武田俊樹取締役は「価格競争に巻き込まれないよう、幅広い人向けの無難な物件ではなく一部の人の心に深く刺さる物件をつくることが重要。そのため、物件紹介の際には、住まい方の提案もあわせて行うようにしている」と話す。
買い取り再販事業を本格化した理由は、1980年代に自社で開発・分譲してきた収益物件が入居者ニーズとマッチしなくなり、入居付けに苦戦するケースが増えてきたからだ。同社で買い取り、現在のニーズにマッチした物件に再生することで入居率を高めて、投資家に販売する。実際、同社が再販した物件の入居率は退去があったばかりの2、3戸を除けば、満室となっている。
同社が開発・分譲してきた賃貸住宅は、京都市内を中心に累計100棟以上で、1棟あたりの戸数は30〜70戸。未改修の物件は豊富にある。そのため、当面は自社の分譲した賃貸住宅を中心に買い取って再生しつつ、オンラインでの販促を強化してオーナーを全国に広げていく方針だ。
「改修によって家賃がアップすれば管理手数料が増える。加えて、物件のバリューアップにより入居者への訴求力が高まり、賃貸仲介の際の広告料削減につながる。収益物件の買い取り再販事業は、売買による利益以外にもさまざまなプラス効果を期待できる」(武田取締役執行役員)
(2022年4月25日4・5面に掲載)