宅建士の独占業務、委託は可能【クローズアップ】
法律・制度改正|2023年06月08日
不動産会社が宅地建物取引士(宅建士)に業務委託として、契約関係の独占業務を委託する際の注意点を取り上げる。仲介業務の生産性向上を図りながら、適切に業務委託者を使用するために押さえておくべき事項をまとめる。
従業者証発行と名簿記載が肝
宅建業者との間雇用関係定めなし
不動産取引の電子契約が全面解禁されて約1年がたった。IT重要事項説明(IT重説)や電子契約ができるようになったことで、宅建士も在宅での独占業務の遂行が可能となっている。これにより、宅建士と不動産会社の関係性にも変化が生まれている。
従来、不動産会社が外注する業務は、電話対応や家賃収納、建物の巡回や清掃業務などがメインだった。
しかし、契約業務の電子化により、宅建士を直接雇用するのではなく業務委託として依頼し、リモートワークで契約業務に従事させることが可能な環境になっている。
そうした中、実際に宅建士を業務委託で使用する際に不動産会社が気になるのは「法律上、グレーではないのか」という点だ。
これについて国土交通省の不動産・建設経済局不動産業課の村田敦課長補佐は「宅地建物取引業法(宅建業法)上、宅建士と不動産会社の契約関係には明確な定めがない。そのため、業務委託先の宅建士に契約関連の独占業務を委託することで、直ちに宅建業法上の問題が発生するわけではない」と説明する。
運用するうえで注意すべき点が4点あるという。
一つ目は、宅建業法第48条の定めにあるように、従業者証明書を発行しなければならないことだ。これは業務に従事する者全員に交付する必要があり、業務委託者であっても同様だ。
二つ目は、従業者証明書の発行後、従業者名簿に記載することだ。従業者名簿に記載する際に、専任の宅建士の配置基準にも留意しなければならない。
例えば、繁忙期に限ってリモートワークの宅建士を業務委託で増員した場合でも、事業所の従事者の5分の1以上という専任の宅建士の配置基準を下回ることのないように運用する必要がある。配置基準の下限人数で運用している企業・店舗の場合には、業務委託者を増員することで配置基準を満たせなくなる可能性があるため、専任の宅建士も増員しなければならない。
三つ目は、万が一契約に関して問題が発生したとしても、宅建業法上の責任は不動産会社にあるということ。たとえ雇用者ではない業務委託の宅建士による過失が原因であっても、当該宅建士に責任を負わせることはできない。
契約の実態で判断「労働者性」に留意
四つ目は、業務委託契約の内容だ。場合によっては労働契約であると判断され、労働関係法令の適用を受ける可能性がある。
厚生労働省の労働基準局監督課の担当者はこれについて、「1985年12月19日に発表された『労働基準法研究会報告』を参考にしてほしい。同報告で、労働基準法上の労働者の判断基準について述べられている」と話す。
契約上で業務委託契約であっても、勤務の実態が「労働者性」を持つと判断されれば、労働関係法令が適用されることになる。建前の名目ではなく、稼働実態が重視される点に留意したい。
「労働者性」は、個別の契約ごとに総合的に判断されることになるが、例えば「指揮監督下にある」「勤務場所や勤務時間の拘束がある」「報酬体系が時間給であり、業務の成果と報酬に差がない」などの場合は労働者であると判断される可能性が高いことが考えられる。最終的には、個別の実態を勘案して総合的な判断となるため、必要に応じて弁護士の見解を仰ぐ必要がある。
(柴田)
(2023年6月5日20面に掲載)