高校生が、民泊の経営を通じて地域活性を仕掛ける。フリースクールの高等部に通う生徒たちが「経営」を学ぶプロジェクトの一環で開始した。座学を飛び越えた学びを得つつ、観光地ではない地域に人流を生み出していく。
フリースクールとは?
何らかの理由で学校に通うことができない子どもたちが、小学校から中学校、高校までの代わりに過ごす場所のこと。
クラファンで566万円資金調達
一棟貸し、2月開業 ローカル体験提供
2月、高校生が企画から運営までを担う民泊がオープンする。NPO法人キリンこども応援団(大阪府泉佐野市)が運営するフリースクール「キリンのとびら」高等部の生徒3人が主体となる事業だ。同団体が拠点とする建物に隣接する築70年の空き家を民泊に再生し、定員5人の一棟貸しで運営していく。物件は、所有者から同団体が借り上げる。民泊事業により得た利益は、フリースクールに通う子どもたちが1人暮らしや自動車の運転免許を取得する際などの自立支援金として活用する。
物件は南海電気鉄道南海線、泉佐野駅から徒歩3分ほどの場所に立つ。観光客やビジネス訪問者の多くは、2駅隣の関西空港を目的地とするため、特別に人が降り立つエリアではない。そんな中で挑む民泊のターゲットは、インバウンド(訪日外国人)。日本の日常に触れる、地域を体験できる場所を提供することで差別化を図る。高校生が同民泊に掲げたコンセプトは「安らげる居場所と心満たされる体験」だ。
不動産が教育の場 地域資源を見直す
民泊事業は、フリースクールでの授業の一環として始まった。2024年4月から開始した「経営を学ぶ」という学習の柱の第1弾に位置付けられる。授業を通じてさまざまな仕事に触れながら、不登校を経験した生徒たちが自身の得意なスキルに気が付いていくことで、自信を取り戻してもらいたいという思いがある。
水取博隆代表理事は「経営を学ばせるうえで民泊を選んだのは、地域とつながることができるから」と話す。場合によっては、食事などの機能を宿の外で提供する民泊にとってまちの魅力は重要だ。「生徒たちの視点で地域資源を見直し、地域の価値を見いだしていきたい。子どもたちが元気だと、地域に活気が生まれてくる」と語る。
意見交換に苦戦 外部講師の授業も
生徒たちはスクール生活の中で、週1回は民泊に関わる授業を受けてきた。特別授業として、民泊のホストに会いに行き運営ノウハウを吸収する機会も設けた。コンセプトの立案から、料金設定のための原価計算、リネン交換などの運営方法まで、生徒たちが主体となりオープンに向けプロジェクトを推進している。
キリンのとびら高等部に在籍する川上翔大さんは「会議をすることも初めての体験で、難しさを感じた。決めなければならないことに期限がある中で、意見を取りまとめて結論に導く過程が大変だった」と振り返る。オープンに向けては「楽しみと不安が半分ずつ。高校生が運営する珍しい場所として、反響を呼ぶことができたらうれしい。ターゲットである外国人との交流から、海外の文化を学べる機会に期待している」(川上さん)
改修は支援金活用 課題解決を事業化
民泊開業に向け、必要な初期費用はどのようにして捻出したか。高校生が選んだのは、クラウドファンディングによる資金調達だった。
目標金額500万円に対し、566万5500円を調達。支援者は195人に上った。同資金は主に空き家の改修費に充てられた。
開業後は、「朝食を食べる場所はあるのか」など、生徒たちが地域の課題を抽出する体験が待っているとみる。「学校側で授業のメニューを完全に用意するのではなく、民泊から派生していく次の事業に展開していけたら」(水取代表理事)
キリンこども応援団
大阪府泉佐野市
水取 博隆 代表理事(42)
(齋藤)
(2025年1月6日52面に掲載)