賃貸経営を始めたばかりの初心者オーナー向けに、賃貸経営に関連する法制度をまとめ解説していく。今回は不動産取得時に関わってくる「不動産登記法」について、弁護士にポイントを聞いた。
契約日に申請、二重譲渡防ぐ
取得後1カ月以内が期限
不動産の表題登記 怠ると過料を負う
不動産登記法とは、土地や建物の所有者などを明らかにするための登記手続に関する法律だ。新築など、初めて建物に登記をする場合(表題登記)に、1カ月以内に法務局へ登記申請することが義務付けられている。なお、表題登記は土地と建物それぞれでの登録が必要だ。(第36条、第47条第一項)
表題登記の登記登録申請を怠り、期間内に登記登録を行わなかった場合、10万円以下の過料が科される。なお、登記登録した不動産は一般に公開され、手数料を払い手続きをすれば誰でも閲覧が可能になる。
弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所(東京都千代田区)の阿部栄一郎弁護士は「表題部の登記申請に関するトラブルは、多くない。建物の新築などの場面での登記手続きが中心なので、それほどトラブルが発生しないのではないかと思われる」と話す。
不動産の売買契約により、所有者が変更となった際は、所有権の移転登記手続きをすることとなる。その場合、売主、買主それぞれの登記申請が原則だ。なお、表題登記とは異なり、所有権の移転登記手続きに関する義務は不動産登記法上、定められていない。
迅速に権利を移転 トラブル防止のカギ
阿部弁護士は「表題登記登録を行うことで、不動産の二重譲渡を防ぐことができる」と話す。二重譲渡とは、売主が複数の買主と不動産の売買契約を結ぶことだ。詐欺にあたるため、刑法上、禁止されている。売買契約を結んだ当日に登記申請を行い、所有権を売主から買主に移すことで二重譲渡の予防になる。
登記申請はインターネットでも可能だ。そのため、売買契約の当日など所有権が移った日に司法書士に依頼して申請をすることが一般的だという。
「売主が売買契約当日に権利移転の登記申請を行うことに協力しない場合、売主は二重譲渡ができる状況にあるため、買主は注意が必要」(阿部弁護士)
権利部も対応必須 所有権主張に有効
登記登録には表題部と権利部の二つがある。表題部は土地あるいは建物に関する物理的状況を表示したものだ。こちらの申請は必須となっている。
対して権利部は、土地あるいは建物の所有権などの権利に関する状況を記載した登記登録で、申請は任意だ。だが、権利部の登記登録をせずにいると「対抗要件を持たない」状態になり、所有権を主張できない可能性がある。例えば、売主が不動産を二重譲渡していた場合、対価を支払っていたとしても、権利部の登記登録をした買主が所有権を主張できることになっている。
「権利部の登記申請は、義務ではないものの買主側からすれば、必須といえるだろう」(阿部弁護士)
売買時以外も注意 内容変更時に修正
登記申請を行うことが義務付けられているのは、表題登記の申請のほか、表題登記の変更や滅失登記がある。ここでいくつか紹介をする。
一つ目は、所有者の変更があった場合(第37条第一項もしくは第二項)だ。主に不動産売買契約を行ったときに申請する必要がある。
二つ目は取得時に登記登録した内容から変更があった場合(第51条第一項から第四項)だ。例えば市区町村の変更や構造・床面積の変更が挙げられる。その場合、修正内容を申請しなければならない。
三つ目は土地が滅失した場合(第42条)だ。土地の滅失とは、水没などにより土地が消失してしまった場合を指す。
四つ目は建物が滅失した場合(第57条)だ。建物の滅失は、主に立て壊しによる滅失が一般的だ。
五つ目は、建物の合体が生じた場合(第49条第一項、第三項もしくは第四項)だ。合体とは、増築するなどして、2棟以上の建物を1棟の建物へ改修することを指す。
六つ目は、建物の共用部の有無について(第58条第六項)の登記だ。共用部である旨の申請が必要。加えて、共用部であると登記登録をした共用部を、廃止する場合に申請が必要になる。
いずれの申請も1カ月以内に行うこととされている。申請せずにいると、先の10万円以下の過料が科されることになる。
24年に改正施行 相続登記を義務化
現状、相続による不動産の登記登録は任意だが、2024年4月1日よりこれが義務化される。売買以外での不動産の所有権の移転を国が把握することで、所有者不明の土地や建物をなくしていくことが目的だ。相続登記の義務化施行後は不動産を相続後、3年以内に登記申請を行う必要がある。申請しなかった場合、10万円以下の過料が科される。
阿部弁護士は「相続人登記申告制度というものがある。相続が開始したことや、自らが相続人であることを法務局に申告した場合、登記官が申し出をした人の氏名や住所を登記に付記する制度だ。この制度を利用すると、所有権の移転登記の義務を果たしたことになり、過料が科されない」と説明した。(國吉)
必要書類は法務局HPに掲載
費用は土地・建物で違い
登記申請に必要な書類は、法務局のホームページにまとめられている。不動産取得の理由ごとに提出書類は異なる。
また、登記登録時には登録免許税がかかるため、その計算も必要になる。登記原因や軽減税率の適用などもあるので、よく確認が必要だ。計算は、「固定資産税評価額×税率」となっている。
「申請書類などのとりまとめは、司法書士に依頼するとスムーズだ」(阿部弁護士)
(2022年10月24日・31日4面に掲載)