不動産会社のAI(人工知能)活用において、導入から実際の施策、目指す方向までを紹介する連載第2弾。東京都目黒区を中心に賃貸管理・仲介を行うバレッグスは、AIによる物件提案やメール送信で機会損失を防ぐ。併せて繁忙期には月1000時間の業務削減に貢献する見込みだ。
月1000時間削減へ
追客に生かす
東京都の城南エリアを中心に不動産事業を展開するバレッグスは、生成AIを活用した業務改革を進める。賃貸仲介業務における顧客への物件提案(追客)の一部を自動化。営業担当者が対面での接客や提案品質の向上といった付加価値の高い業務に集中できる環境づくりを図る。
AI活用の検討を本格化させたのは2025年1月ごろ。同社の代表がAI関連セミナーを受講したことをきっかけに導入方針を決定。太田諒執行役員を中心に情報収集と実証実験を進めてきた。初期段階では、全社導入しているGoogle Worksp ace(グーグルワークスペース)上で利用できる生成AI「Gemini(ジェミニ)」を活用。スマートフォンの録音機能と組み合わせた会議の議事録作成など、身近な業務からAIの有用性を社内に浸透させた。
現在、最も具体的な効果が表れているのが、賃貸仲介業務における追客対応の自動化だ。繁忙期には、問い合わせ時点で当該物件が成約済みとなっているケースも多い。代替物件をいかに早く提案できるかが成約を左右する。一方で、営業担当者は日中の接客対応に追われ、迅速なフォローが難しいという課題を抱えていた。
そこで同社は、顧客管理システムの「Salesforce 」、ワークフロー自動化ツールの「n8n」、および生成AIをAPI連携し、独自の提案システムを構築した。生成AIは、当時のAPI連携に伴う条件面を踏まえ、Geminiではなく「Chat(チャット)GPT」を採用したという。
顧客からの初回問い合わせには人が対応。当日中に返信できなかったケースや定休日の問い合わせに対してAIを生かす。まず反響物件から希望条件を抽出し、その条件で検索して該当した物件を追加で提案する。そして追加の物件提案用の文面を整え、送信する。

25年夏ごろから国際事業部で先行運用を開始。5人のチームで月間約50時間の業務時間削減を実現した。26年2月中旬からは賃貸仲介の全部署で運用中だ。繁忙期であれば1カ月で6000件、1通10分として月間1000時間の物件提案メールの業務削減効果を見込む。太田執行役員は「返信の遅延による営業機会の損失を防ぐとともに、残業時間の抑制にもつながっている」と話す。
「人を支える存在」
社内への浸透にあたっては、大規模な研修は実施していない。社員の平均年齢が若く、デジタルツールへの順応性が高いため、各自が操作しながら使い方を身に付ける方針を取る。一方で、セキュリティーや活用スキルの個人差といった課題も残る。現在はGoogleWorkspace上でのアクセス制限などを通じて安全性を確保。活用水準の底上げに取り組んでいる。
今後は賃貸管理部門へのAI活用も広げることも構想する。受託オーナーから新規募集物件を預かった直後に、AIが社内の顧客データベースから、希望条件の近い部屋探しの顧客を抽出。インターネット掲載前に提案する仕組みを検討中だ。
太田執行役員は「AIは人を代替するものではなく、人が本来注力したかった業務を支える存在」と語る。定型作業や単純な情報検索をAIに任せる。それにより、営業担当者は顧客の要望をくみ取った提案やオーナーの資産価値向上に注力できる。長時間労働の改善が課題とされる不動産業界において、同社はAI活用を通じて働き方の改善と生産性向上の両立を図る。将来的には、数値化しにくい「感覚的な条件」にも対応した物件提案を目指し、エリア特化型の情報提供力を高めていく考えだ。
(2026年3月16日6面に掲載)





