移動式木造建築物の「スマートモデューロ」を施工するアーキビジョン21(北海道千歳市)。外断熱工法を生かした住宅性能の高さを強みに、同商品の提供数を大幅に拡大する。丹野正則社長に戦略と展望を聞いた。
仮設住宅の需要急伸
建築会社アーキビジョン21は、移動式の木造建築物スマートモデューロを強みに成長を遂げる。
同社はスマートモデューロやユニット工法を生かした戸建て住宅、大型建築を全国的に展開している。スマートモデューロは、ユニットを組み合わせることで、小さな建物から大規模施設まで対応することが可能。各ユニットを車両に載せて移動できるため、災害時の応急仮設住宅にも使われている。
同社とアーキビジョン・ホールディングス(北海道札幌市)を含めたグループ全体の売り上げは、2022年5月期が約55億円、23年5月期が約70億円と堅調に成長している(グラフ参照)。アーキビジョン21が設計・製造・施工などを行い、全体の売り上げの8割を占める。アーキビジョン・ホールディングスは商品企画、不動産仲介・管理・販売代理などを行う。
近年の売り上げの伸びに拍車をかけたのは、災害に伴う需要の増加だ。21年12月には千葉県など自治体からの依頼を受けて、新型コロナウイルスの療養施設などを提供。22年には8月の新潟豪雨災害に伴う応急仮設住宅を設置したり、12月に茨城県新型コロナ対応臨時医療施設整備を提供したりすることで売り上げを伸ばした。
1週間で設置可能
移動式の建築物は他社でも取り扱いがあるが、スマートモデューロが強みとしている点は三つある。一つ目は設置の速さ。トレーラーハウスは車幅が大きく、深夜に先導車と後方警戒車をつける特殊な許可が必要となるなどの理由で、設置までに期間がかかりやすい。スマートモデューロは車幅を狭くすることで、災害時の狭い道でも通行でき、最短1週間で設置できる。二つめは住宅性能の高さ。窓はトリプルサッシで外断熱工法を採用、省エネ対策等級も最高ランクの4を取得している。さらにスウェーデン式の24時間換気を標準装備。メンテナンスがほぼ不要で100年以上住めるという。三つ目は安定した品質。建物はすべて自社工場で造っているため、大工の技術や天気のコンディションに左右されることなく、どの建物も高い品質が保たれているとする。展示場で実際に住宅性能を表す数値を測定した建物が直接現地に運ばれるため、品質が担保されていることが居住者の安心感にもつながっているという。
外断熱の普及狙う
丹野社長は本格的な外断熱工法を生かした快適な居住環境を日本に広めたいと話す。その普及を後押しするためにスマートモデューロを活用したい考えだ。「ドイツでは木造、鉄骨、RC問わず、すべて柱の外側に断熱材を入れる本格的な外断熱工法を採用している。日本では、壁の中に断熱材を入れて、外断熱とうたう会社が多い。ドイツ式の外断熱工法を行えば、気密性も高く安定した温度が保たれ、日本の居住環境はより良くなると確信している」(丹野社長)
同商品はドイツ式の外断熱工法を採用。外皮の平均熱貫流率は北海道の基準値0.46W/㎡・Kに対して0.39W/㎡・Kを示すなど高い断熱性能となっている。
実際にスマートモデューロの応急仮設住宅に住んだ人から満足の声が続々と届いたことで、丹野社長はスマートモデューロを一般住宅として普及させることに手ごたえを感じているという。築浅の家が地震で倒壊し、応急仮設住宅のスマートモデューロに2年間住んだ70代の夫婦からは「もう前のような家に戻りたくない。このスマートモデューロにずっと住めないか」との申し出があった。
ホテル事業を計画
24年5月期決算では、半導体メーカーRapidus(ラピダス:東京都千代田区)の工場建設作業員が入居する宿舎の設置により、さらに売り上げを積み上げる見通しだ。最大1000人の定員規模の宿舎を設置する計画で、アーキビジョン21が元々借りていた土地の一部を活用。スマートモデューロの需要拡大に伴い、千歳市内にストックヤード兼展示場を建設するために借りていた土地だったが、Rapidusの新設工場からの交通の便が良いことから、宿舎設置の白羽の矢が立った。完成した5棟の宿舎には約150人の作業員が入居している(5月末時点)。24年10月までに16棟480人分を追加で施工する予定。
今後は高いインバウンド(訪日外国人)需要を見据え、スマートモデューロを活用したホテル事業を計画している。
同グループは27年5月期までに売り上げ100億円、営業利益率20%以上の達成を目指す。能登半島地震の応急仮設住宅などの売り上げの伸長により、早ければ24年5月期決算で達成する見通しだという。東証スタンダード市場への上場を目指し、前進する。
アーキビジョン21
北海道千歳市
丹野正則社長(72)
(2024年7月8日20面に掲載)